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第28話 騎士ウェインの意地
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「助けてー!」
第五階層に上がってしばらくすると助けを求める声が、ダンジョンの奥から聞こえてきた。
真っ先に走り始めたのは鎧に身を包んだ剣士と小柄な盗賊だった。救援の声に真っ先に動くウェインのために、ルカが罠の確認と敵の調査に走る。
「まずい!」
ふたりが目にしたのは、複数のモンスターに襲われる冒険者たちの姿があった。そこは薄暗く、十人以上が暴れまわっても十分な広さ。その中に暗闇に紛れるような真っ黒な毛並みに豹のような姿、四本足とは別に肩から二本の腕を生やし、長い尻尾にある複数のトゲには毒々しい液体が妖しく光っていた。デミレオポルドと呼ばれるそのモンスターが七匹ほど牙をむいていた。
その後ろには身長三メートルちかい筋肉質の巨躯が、その体にふさわしい大きさのハンマーを持っていた。その首の上には牛の頭があり、二本の角の間にはバチバチと雷が瞬いていた。ただのミノタウロスではない。魔法で強化されたマギアミノタウロス。
そんなモンスターたちに対峙するのは五人ほどの冒険者だった。しかしすでに四人は大きな傷を負って倒れており、最後の一人がその四人をかばっていた。
ウェインは剣を抜き、冒険者たちをかばうように戦線に加わり、襲い来る一匹のデミレオパルドの首に剣を突き立てる。その間にルカは負傷者を安全な場所へ移動させる。
「助太刀する」
「ありがとう、奇襲で回復術師が毒を受けてしまって……」
ウエインの言葉に一人残った女戦士が、状況を端的に説明する。
ウェインの加入にたじろいだデミレオポルド達だったが、すぐに体勢を立て直し、ジリジリと二人を取り囲み始める。
「気をつけて! 連携を取ってくるわよ」
「大丈夫だ。任せろ!」
まるでその言葉を待っていたかのように魔法を発動する声。
「岩の矢」
「風の刃」
ガドランドとロレンツのダブル魔法が、真っ黒なデミレオパルドに襲いかかる。
「毒持ちは任せろ!」
ロレンツは距離を詰められないように立ち回りながら、しなやかな黒豹に似たモンスターの相手をする。ガドランドはロレンツを守りながら、魔法を放つ。
「ガーさん、こっちがまずい! こっちの意識がないよ」
負傷者の治療をしているクリスと、それを見守るアマンダの護衛をしているルカが叫ぶ。
「分かった! ロレンツ、やれるな」
「おうよ、まかしとけ!」
近づくデミレオポルドに杖を叩き込みながら、勢いよく答える。
「大丈夫なのですか?」
アマンダは負傷者の傷口に包帯を巻きながら、ガドランドに尋ねる。
線の細い回復術師の可憐な背中は青紫変色していた。毒による傷を必死で回復するガドランドが答える。
「あれくらいの数なら、ロレンツ一人で大丈夫ですよ」
「いえ、そちらではなく、あちらの剣士の方なのですが」
アマンダが気にする戦いは、雷とハンマーで戦うマギアミノタウロスと全身金属の鎧に包まれたウェインとの戦いだった。そこに革の防具に盾と片手剣の女戦士がウェインに加勢する。巨大なマギアミノタウロスのハンマーに真正面から切り合う。大きな金属のぶつかり合う音とモンスターの叫び声がダンジョン内に響く。
「ああ、ウェインなら問題ないですよ」
「きゃー!」
ガドランドが言い終わらないうちに、女戦士の悲鳴が響く。マギアミノタウロスのハンマーに盾を破壊されて、左腕がおかしな方向を向く。どうやら骨折したようだ。
その一撃に調子に乗ったのか、雄叫びを上げるマギアミノタウロス。
止めを刺すべく振り上げたハンマーは、その角から発生した雷によって強化されていた。
両手で剣を持ったウェインは女戦士をかばうように立ち回る。剣戟のスピードを上げ、それに押されるようにマギアミノタウロスはジリジリと下がる。
カッキン!
ウェインの一撃を受けて後ろに下がる牛頭の巨体。
それを追って気合い一閃、ウェインの切りつけた刃は、女戦士の胴ほどあるミノタウロスの腕を切り落とす。血を撒き散らして絶叫する牛頭の筋肉質の大男は、角の間に電気を発生させながら頭から突っ込んでくる。ウェインにとって避けることは簡単だ。しかしその後ろには女戦士が腕を押さえて片膝をついている。大剣を水平に構えて迎え撃つ。
「うぉぉぉぉ!!!」
大きな角を持った牛頭に向けて体ごと真っすぐ剣を突き出す。角から発せられた電気は剣を通してウェインの体を貫く。痺れと痛みに耐えながら、その硬い頭蓋骨を貫き、命の炎を消し去った。しかし、その百キロ以上あるその体の勢いは残ったままだった。
ズズズズ
ウェインは踏ん張る足を滑らしながらも、その肉の塊の突進を止める。
「大丈夫ですか?」
片腕になったモンスターの動きが完全に止まると、振り返り、女戦士に話しかけた。
「ありがとうございます」
トロんとした瞳で女戦士はウェインを見つめていた。
そんなウェインの姿を見て、アマンダは感嘆の声を上げた。
「すごい!」
「あいつは元騎士だったためか、守る人間がいる時には通常以上の力を出すんですよ」
元王都の騎士団に所属していたウェインが、ガドランドと知り合ったのは今から六年前だった。その時、王都では王弟派の大規模なテロが起こり、ウェインは騎士団として鎮圧に努めていた。行きがかり上、テロリストの実行犯の首謀者を捕まえたガドランド。それを首謀者と勘違いして襲いかかったウェインは、見事返り討ちにあったのだった。
誤解が解けたあと、自分の未熟さを痛感し、ガドランドに弟子入りした。義理が解く真面目なウェインにとって、騎士団を辞めると言うことは、非常に大きな決断だった。それでも、ウェインにとって真の騎士となるためには、ガドランドの元で修行する必要を痛感したのだった。
騎士団時代。王族や貴族、そして民衆を守るために訓練を受けてきた正統派イケメン騎士は、守る人間がいる時にこそ最大限の力を発揮する。
第五階層に上がってしばらくすると助けを求める声が、ダンジョンの奥から聞こえてきた。
真っ先に走り始めたのは鎧に身を包んだ剣士と小柄な盗賊だった。救援の声に真っ先に動くウェインのために、ルカが罠の確認と敵の調査に走る。
「まずい!」
ふたりが目にしたのは、複数のモンスターに襲われる冒険者たちの姿があった。そこは薄暗く、十人以上が暴れまわっても十分な広さ。その中に暗闇に紛れるような真っ黒な毛並みに豹のような姿、四本足とは別に肩から二本の腕を生やし、長い尻尾にある複数のトゲには毒々しい液体が妖しく光っていた。デミレオポルドと呼ばれるそのモンスターが七匹ほど牙をむいていた。
その後ろには身長三メートルちかい筋肉質の巨躯が、その体にふさわしい大きさのハンマーを持っていた。その首の上には牛の頭があり、二本の角の間にはバチバチと雷が瞬いていた。ただのミノタウロスではない。魔法で強化されたマギアミノタウロス。
そんなモンスターたちに対峙するのは五人ほどの冒険者だった。しかしすでに四人は大きな傷を負って倒れており、最後の一人がその四人をかばっていた。
ウェインは剣を抜き、冒険者たちをかばうように戦線に加わり、襲い来る一匹のデミレオパルドの首に剣を突き立てる。その間にルカは負傷者を安全な場所へ移動させる。
「助太刀する」
「ありがとう、奇襲で回復術師が毒を受けてしまって……」
ウエインの言葉に一人残った女戦士が、状況を端的に説明する。
ウェインの加入にたじろいだデミレオポルド達だったが、すぐに体勢を立て直し、ジリジリと二人を取り囲み始める。
「気をつけて! 連携を取ってくるわよ」
「大丈夫だ。任せろ!」
まるでその言葉を待っていたかのように魔法を発動する声。
「岩の矢」
「風の刃」
ガドランドとロレンツのダブル魔法が、真っ黒なデミレオパルドに襲いかかる。
「毒持ちは任せろ!」
ロレンツは距離を詰められないように立ち回りながら、しなやかな黒豹に似たモンスターの相手をする。ガドランドはロレンツを守りながら、魔法を放つ。
「ガーさん、こっちがまずい! こっちの意識がないよ」
負傷者の治療をしているクリスと、それを見守るアマンダの護衛をしているルカが叫ぶ。
「分かった! ロレンツ、やれるな」
「おうよ、まかしとけ!」
近づくデミレオポルドに杖を叩き込みながら、勢いよく答える。
「大丈夫なのですか?」
アマンダは負傷者の傷口に包帯を巻きながら、ガドランドに尋ねる。
線の細い回復術師の可憐な背中は青紫変色していた。毒による傷を必死で回復するガドランドが答える。
「あれくらいの数なら、ロレンツ一人で大丈夫ですよ」
「いえ、そちらではなく、あちらの剣士の方なのですが」
アマンダが気にする戦いは、雷とハンマーで戦うマギアミノタウロスと全身金属の鎧に包まれたウェインとの戦いだった。そこに革の防具に盾と片手剣の女戦士がウェインに加勢する。巨大なマギアミノタウロスのハンマーに真正面から切り合う。大きな金属のぶつかり合う音とモンスターの叫び声がダンジョン内に響く。
「ああ、ウェインなら問題ないですよ」
「きゃー!」
ガドランドが言い終わらないうちに、女戦士の悲鳴が響く。マギアミノタウロスのハンマーに盾を破壊されて、左腕がおかしな方向を向く。どうやら骨折したようだ。
その一撃に調子に乗ったのか、雄叫びを上げるマギアミノタウロス。
止めを刺すべく振り上げたハンマーは、その角から発生した雷によって強化されていた。
両手で剣を持ったウェインは女戦士をかばうように立ち回る。剣戟のスピードを上げ、それに押されるようにマギアミノタウロスはジリジリと下がる。
カッキン!
ウェインの一撃を受けて後ろに下がる牛頭の巨体。
それを追って気合い一閃、ウェインの切りつけた刃は、女戦士の胴ほどあるミノタウロスの腕を切り落とす。血を撒き散らして絶叫する牛頭の筋肉質の大男は、角の間に電気を発生させながら頭から突っ込んでくる。ウェインにとって避けることは簡単だ。しかしその後ろには女戦士が腕を押さえて片膝をついている。大剣を水平に構えて迎え撃つ。
「うぉぉぉぉ!!!」
大きな角を持った牛頭に向けて体ごと真っすぐ剣を突き出す。角から発せられた電気は剣を通してウェインの体を貫く。痺れと痛みに耐えながら、その硬い頭蓋骨を貫き、命の炎を消し去った。しかし、その百キロ以上あるその体の勢いは残ったままだった。
ズズズズ
ウェインは踏ん張る足を滑らしながらも、その肉の塊の突進を止める。
「大丈夫ですか?」
片腕になったモンスターの動きが完全に止まると、振り返り、女戦士に話しかけた。
「ありがとうございます」
トロんとした瞳で女戦士はウェインを見つめていた。
そんなウェインの姿を見て、アマンダは感嘆の声を上げた。
「すごい!」
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誤解が解けたあと、自分の未熟さを痛感し、ガドランドに弟子入りした。義理が解く真面目なウェインにとって、騎士団を辞めると言うことは、非常に大きな決断だった。それでも、ウェインにとって真の騎士となるためには、ガドランドの元で修行する必要を痛感したのだった。
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