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第47話 ガドランドの告白

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 それから一週間ほど、ガドランドは冒険者としての仕事をこなしながら、アマンダと行くレストランをあそこが良いか? ここのほうが良いか? と下見をしていた。それからさらに一週間はアマンダがいつ、街に戻ってきてもいいように、仕事を断り、家にこもっていた。そしてあの日からちょうどひと月が過ぎ、一通の手紙がガドランド宛に届いた。
 差出人はアマンダだった。

「お前ら! アマンダから手紙だ! おそらくいつ街に戻ってくるか書いてあると思うぞ」

 みんなの前でうきうきルンルンと手紙を開いたガドランドは、みるみる暗い顔になっていった。

「親父、なんて?」
「……オレは、今晩の飯はいらない」

 肩を落として度の強い酒瓶を手に持ち、庭のリクライニングチェアに、ドカンと腰掛けたガドランドの姿を確認したロレンツが、アマンダの手紙を読み上げる。そこには五人に対し、子供たちとアマンダを助けてくれた感謝の言葉が長々とつづられていた。その後、アマンダはすぐには街に戻ることができなくなったと、簡潔に書かれていた。そして、手紙の最後は『ありがとうございました。さようならと』とにじんだ文字で締めくくられていた。
 エルフの村へはこの街から乗合馬車で二、三日の距離にあり、アマンダが村に戻ってからこの手紙を出すまでの間、どのような気持ちだったかは本人にしかわからなかった。
 度の強い酒を、感情のままあおったガドランドは、胸の奥の気持ちを吐き出した。

「アマンダ! 好きだ!!!」

 ガドランドの叫び声は、あの夜と同じ満月の夜空に吸い込まれた。

「本当ですか?」

 そこには真っ赤な長い髪をなびかせた月の精が立っていた。

「アマンダ」

 ガドランドは自分の目を疑った。

「今の言葉は本当ですか?」

 大きな満月を背にしたアマンダの美しさに見惚れていたガドランドは、告白を聞かれたことを思い出した。

「ああ、本当だ」
「でも、私はあなたを騙した女ですよ」
「確かに、初めから正直に話して欲しかったが、それは自分の為じゃないだろう。君は子供達のために、精一杯、戦った結果だ」
「私はエルフで、百年以上生きているのですよ」
「オレは年上が好みだから何の問題も無い。それに、オレは愛する人を見送れるほど心は強くない。悪いが、オレを看取ってくれ」
「私の言葉は全部、あなたを騙して、また、厄介ごとに巻き込むための言葉かも知れませんよ」
「厄介ごとの解決に離れている。それに、その綺麗な涙が偽物なら、喜んで騙されてやる」

 ガドランドがアマンダの頬を流れる大粒の涙をそっと掬い上げると、アマンダは静かに瞳を閉じた。
 ガドランドはそれの意味を理解したが、どうして良いか分からず、あたふたとしていた。

「うふ、本当にあなたはあんなにも強いのに、女の扱いだけは下手ですね」

 アマンダは自分からガドランドの唇を重ねた。
 ガドランドは恐る恐るアマンダの腰に手を回すと、そっと抱きしめた。

「俺達があれだけ言ったのに、帰ってきやがったか。しょうがねえな」
「ええ、ああなってはしょうが無いですね。もう、私達が口を挟む余地はないですよ」
「親父が幸せならいい」
「でも、お金の管理はこれからもルカがしっかりやるからね」

 綺麗な月に祝福される二人の姿を見ていることしか出来ない四人であった。

 ~完~
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