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逃げ出した悪役令嬢
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しおりを挟むもう一回宿に戻って、着替えてから首都に向かった。
人通りの多い道を並んで歩くけど、視線が痛い。
「ねぇ…すっごい見られてんだけど手ぇ離してくんない?」
「やだ。つかそのせいで見られてるわけじゃねーし…言ったじゃん顔売れてんのお前。オレ横に居なかったら群がられるよ?」
手を繋がなくたって横には居るじゃん。
「牽制になるし、何よりこの恋人感がいーだろ?は~、オレ今めっちゃ幸せだわー」
「……」
何て反応していいかわかんないし、むずむずする。
ダートはそんな私にお構いなしで、軽い足取りで上機嫌に歩き出す。
「お、あそこの店でなんか買いたい」
目線を追ったら宝飾品がいっぱい飾られてるお店だった。
「あーゆーの贈るのって恋人の特権な感じする。オレがやったのだけつけてよ」
「えぇ、戦う時邪魔じゃん」
「お前の敵になりそうな強いのもいねぇのに…なるべく邪魔になりそーにないやつならいい?」
手を引かれて中に入る。
「なぁー、これ良くねブラックダイヤモンド。お前の目の色、これでなんか邪魔にならんやつ作ってもらおーぜ」
「宝石…」
「小さいし名前だけ立派で石自体そんな価値ないやつじゃん?気軽に買おーよ。首とかが良かったけど揺れて邪魔だよなー、腕輪か指輪ならどう」
「うーん…どっちでもいいけど石はこっち。ダートの目」
恋人感出すなら相手の色でしょ。
「おあぁ…やべぇなそれ。指輪も腕輪も作るか」
私も浮かれてるな、嬉しそうなダート見るの嬉しい。
デザインはシンプルなやつでお任せして、鼻歌交じりのダートと手を繋いで店を出る。こいつその内スキップしそうだな。
「あとはー、不動産屋と本屋と~」
「本は別の町にしよ、ここじゃやだ」
「おーそっか、んじゃ不動産屋行くか。とりあえず学園の近くでー、どんな家が良い?」
特にない。住みやすかったらそれで良い。
「あの辺デカイ家ばっかなのがネックだよなー、金持ち以外は寮住むし。二人だけだしちっせぇのでいんだけど」
「へぇ、意外」
使用人わんさか居る家で育ってきただろーに。
「お前と飛び回ってる間に大体一人でできるよーになったしなー。あ、でも料理だけはどうにかしないと。俺もお前も焼くしか出来ねぇじゃん」
「毎食食べに行くのはめんどくさいかな?」
「うん、あと家のがイチャイチャ出来るじゃん。あーん♡とかやりたい」
ダートは私の方を向いて歯を見せながら笑って言ったけど、家でもそんなのお断りだ。
「でもキッチンでかくすると家もデカくなるもんな~」
「大きくても部屋使わなかったらいんじゃない?金銭的に問題があるわけじゃないし」
魔王討伐の報奨金エグいほど貰ったしな。
「家でかいと同棲感ないから嫌。せっまい部屋で肩寄せ合う感じがいい♡」
「部屋別なのに」
「オレのためにも寝室は分けるけど、寝るとき以外離れる気ねぇもん」
「ふぅん?まぁ好きにしていーよ」
お喋りしながら歩いて、すぐ近くにあった不動産屋に入る。
大歓迎の店員さんに握手とサインを求められて、握手だけした。本当に勇者って歓迎されてんだなぁ。
「お~、見事にでけぇ家しかねぇ」
「お貴族様ゾーンでしょ?しょーがないよね。転移すればいんだしこっち住む?そっちのが気も楽だわ」
個室に案内されたあと、出された資料を見ながら二人で相談する。
「したら家借りる意味なくね。オレ転移できねーしディアナの負担増える」
「ん~…走る?大した距離じゃないよね。でも走るより転移のが楽なんだけどなー」
「お、端っこにポツポツちっさいのある。歩いて20分」
地図を出して説明される。歩いて20分なら余裕だな。
「いんじゃない?このへんにしよっか」
「んじゃこの中で一番小さい家で」
ダートがさっさか店員さんに声をかける。そんなに小さい家がいんだ、変なこだわり。
同じくらいの大きさの家を何軒か内見して、まわりに家がない可愛らしい外見のキッチン広めのとこにした。
「この家、私にもダートにも似合わないね」
ダートは言わずもがなだし、私だって可愛らしいタイプじゃない。
「オレはあれだけどディーにはそんなことないじゃん?可愛くてピッタリ」
ダートのフィルターはすっごい分厚いみたいだ。
「まぁ見た目とかどーでもいいや。適当に家具入れといてもらえます?」
「まってディー適当やめて、ちゃんと選ぶ」
「えー」
「キャッキャウフフで選びたかったんだけど…いーやオレが選んどく。文句言うなよ」
言わないけど、家具選ぶのにキャーキャーするとこないよね。
「んじゃ私その間料理人探す手続きしとこっかな」
「駄目だって離れんじゃん。家具は夜カタログで選ぶから一緒いく」
マジか、それだけで離れる扱いなのか。
「お前いまうざって思ったろ」
「いや、そんなことは」
腰巾着みたいってちょこっとだけ思ったけど。
「オレ何がなんでもディーにまとわりつくつもりだから~、腰巾着?ごめんね♡」
自分で言っちゃった。濁した意味なかった。
「契約おしまーい。なぁ、ここに仕立て屋呼んでくれるつってんだけどそうしない?勇者様見に外の通りすげぇ人集まってるみたい」
「ああ、ザワザワしてると思ったらそんな理由だったんだ。転移で行ってもいーけど」
「んー、あとで転移すんの決まってんだしわざわざ回数増やす必要ねーだろ。お言葉に甘えよーぜ」
店員さんに目を向けたら、真っ赤な顔でこくこく頷いてたのでお願いすることにした。お礼に色紙に名前書いた。
「勇者様見慣れるまでしばらくこんなんだろーな」
「さっき歩いてた時へーきだったのに」
視線はガンガン感じてたけど。
「だからオレいるからじゃん、男と二人の時に話しかける図々しいヤツとか少ねぇし、それでも近寄りそうなのは妨害してるし」
「へぇ、ありがとダート。今日はもう無理だろうし、街歩きは当分しない方がいいね」
「えっデートは?!」
「…なんか変装とか、目立たなくする方法考えよっか」
この世の終わりみたいな顔されたので、街歩きNGは撤回した。
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