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逃げ出した悪役令嬢
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しおりを挟む朝起きたら、まだダートに抱きこまれたままだった。
「……あつい」
なんでこんな体温高いんだこいつ。熱でもあるの?
「––––んぁ、何してんの」
おでこに手を当てたらダートも起きた。
「体熱いから熱あるのかと思って」
「あー、オレ平熱高め。体だるくないから問題ない」
「それにしても高すぎない?いつもこんなん?」
「朝特にそうかも。動き出したら段々下がってくると思う」
ふぅん、変な体質。
「今日どーする、ギルド行く?」
「うーん、あんまそんな気分じゃないけど。何もしないのも暇だな」
「そぉ?ディアナとこーやってまどろんでんの超幸せだけど。転入するまでずっとこんなんでもいーな」
「体鈍りそう」
「それなー。学園行ったら休みにしか出来ねぇけど、デートもしたいからな~、行けて週一か」
毎週デートする気なんだ。
「鍛錬増やすかな、庭でやったら迷惑?」
「周りの土地も借りよ、したら問題ないだろ。あ、家は何か対処しといたがいーかもなー、昨日も変なのついてきてたし」
「ああ…バレバレだったやつ」
勇者ってことになってからちょくちょく偵察みたいなのが来るようになった。害はないけどちょっとウザい。
とりあえず二人でベッドから出て、朝食を食べに食堂へ向かうことにした。ドアの外に置かれた手紙の束を部屋に投げ込んで、そのまま階段を下りていく。
食事を受け取って、いただきますをして食べだした。
「下手くそな尾行は接触狙ってんだろなー、自国に引きこもうとして。お前さっきの手紙全部目通してんの?結構な量」
「んー、基本空いた時間に読む感じ。この国で爵位もらったら落ち着くかな?」
「あんま変わんなそう」
「なんだ抑止力にはなんないのか」
「他の国より発言権強いし、揉めないように表立っては減るんじゃね?」
「手紙は減るけど尾行系増える感じか」
めんどう。
ため息を吐いて一気にご飯を掻き込んだ。もう食べ終わってるダートが新しい水を注いできて手渡してくれる。
「ありがと、ご馳走様でした」
「うん。どこの国からくんの?」
「近隣国全部」
「ふーん、かけれるとこは圧力かけてもらお。ディーに出てかれたくない上が必死で対応すんだろ、見て大丈夫なやつあったら手紙一緒に渡していい?」
「大した内容だったことないし全部いーよ」
部屋に戻って手紙の束を二人で開けていく。小難しい言葉で書かれてたり、報酬で釣ろうとしてるのだったりどこも同じのばっかりだ。
「お、皇帝名義で来てる」
金キラ封蝋の手紙を手渡された。
封を開けて、後ろから覗き込むダートと一緒に読み進めていく。
中は授爵証書と紋章が刻まれた懐中時計だった。私まだ爵位貰うとか返事してなかったのに。
驚いてダートを振り返ると、一昨日のうちに連絡したって言われた。色々はやい。
「一代貴族の男爵とかだと思ってたんだけど、何勇者伯って」
聞いたことないんだけど。
「下より上のがいいじゃん、侯爵と同じくらい。流石に公爵同等は無理だったわ」
「ダートの仕業なわけね?」
「いや、父さんに口添えはしてもらったけど元々一代男爵の予定じゃなかったみたいだぞ。そんな下位渡して他国に行かれたら大損害だろ」
それにしたって勇者伯って。新しい爵位作っちゃうっていいのか。
「名前だけ名前だけ、お前は今まで通りで問題ねぇよ。領地は押し付けられるかもだけど」
「面倒くさっ。これ一代だけって思っていいの?」
領地もらって一代限りとか出来るのかな?困る。
「さぁ?嫌になったら返爵すればいいだろ」
軽い。そんなに軽くていいの爵位って。
「勇者様は特例だから、えらそーにふんぞりかえっときゃいーの」
「ふんぞりかえるねぇ…」
「おぉ、想像したら震えるな。超似合う」
どんなの想像したんだ、聞くのが怖い。
爵位の話はそこで打ち切って、二人で黙々と手紙を開けて、そのあとダートが手紙を持って出かけて行った。
私が離れたら文句言うのに、自分の時はサクッと出かけてくんだ。
「……アホらし、何言ってんだろ。ギルドいこ」
適当に依頼を受けて狩りまくってたら途中でダートも合流してきて、待っとけうんぬん文句言われた。ムカついたのでダートも魔物と一緒にボコボコにした。
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