別に恋じゃなくても

らすぽてと

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第11話

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「初デートの記念に写真撮りません?」
 上野動物園の手前でテシからそんな提案をされた。
「まさかマジでデートになるとは思ってなかったな」
「それは俺もです」
 軽く笑い合った後、正門を背にして写真を撮った。テシと付き合うことになったなんて、あの日の俺に言ったって信じないだろう。
 券売機でチケットを二枚買ったら、券面にはそれぞれパンダとコビトカバが写ってた。
「今日の一位と二位じゃん」
「すごい偶然ですね」
 幸先のいいスタートにテシは上機嫌だ。なんとなくだけど、こういうのはテシの運の良さな気がする。
「あげる」
「ありがとうございます」
 入場ゲートを抜けて、スタンプが押されたチケットをテシに差し出した。テシは笑顔でそれを受け取って大事そうに財布にしまった。
「何年か前に来た時はこの辺にパンダがいました」
「確かに名残りはあるね」
 パンダ舎の跡地を横目に少し歩いて、最初に目に入った動物はゾウだった。
「わぁ、やっぱりおっきい動物ってテンション上がりますね」
「写真撮らないの?」
「目に焼き付ける派です」
「そっか」
 無邪気な眼差しでゾウを眺めてるテシを見て、子供みたいだと思ってたら、テシが不意にこっちを向いた。
「俺はゾウ最強説を支持してるんですけど、夏彦さんはどう思います?」
 そう聞かれた瞬間、兄貴はカバ最強説を推してたなと、至極どうでもいいことが脳裏を掠めた。
「俺もゾウだと思うな。ゾウって弱点ある?」
「耳の裏とかお腹とか目の周りですかね。ゾウと戦う時はその辺りを狙ってください」
「そんな状況ねぇよ」
 テシのくだらない冗談に呆れながらツッコミを入れたところで、近くにいた若い女性の二人連れから遠慮がちに「あの」と声を掛けられた。
「お兄さん達、二人で来てるんですか」
 照れくさそうな様子を見るに、宗教やマルチ商法の勧誘じゃなさそうだ。
「あー、恋人と来てます」
「ですよね」
「失礼しました」
 俺の答えを聞いた二人はペコペコと頭を下げながら去っていった。しつこく絡まれなくて助かった。
「絶妙な返しでしたね」
「嘘はついてないだろ」
「ふふふ」
 いきなり水を差されたものの、テシの機嫌は一層良くなったから結果オーライということにして、さっきの二人とは逆方向に歩き出した。
「テシって顔いいしタッパあって目立つから大変そうだな」
 店でも大概だけど、プライベートでもさぞ苦労してるんじゃないかと思ってそう言ったら、テシは目を丸くしてた。
「顔いいって思ってくれてたんですか」
「初めて会った時は正直、すげぇイケメン来たなって思ったよ」
「俺も夏彦さんの顔がタイプ過ぎて緊張しちゃいました」
「そうなの?」
 今までお互いの第一印象なんて話す機会はなくて、そんなこと初めて知った。あの日もテシはにこやかに話してたから緊張してる風には見えなかった。
「あ、顔だけじゃなくて性格も好きですよ」
「そんな思い出したみたいに言われたら胡散くさく聞こえるんだけど」
「コミュニケーションって難しいですね」
 もちろん冗談だけど、取って付けたような言い種を非難するとテシはくすくす笑ってた。
 猛禽類のいるゾーンに差し掛かったところで、テシは「あ」と言って上の方を指差した。
「シロフクロウが真後ろ向いてます」
「ホントだ」
 そちらを見ると、胴体はこっち向きで首だけ百八十度回転させてるシロフクロウが佇んでた。
「お顔見せてほしいですね。目線くださーい」
「カメラマンかよ」
 テシの呼び掛けに応えるかのようなタイミングでシロフクロウはこっちを向いた。眠そうに目を細めてるその顔は笑ってるようにも見える。
「可愛いですねぇ」
「笑顔貰えてよかったね」
「はい」
 テシはシロフクロウにすっかり心を奪われたようだった。いちいちリアクションがいいから見てて飽きない。
「すみません、見入っちゃって」
「好きなだけ見なよ。テシのペースでいいからさ」
「ありがとうございます。でも、さすがに見過ぎと思ったら言ってくださいね」
「わかった」
 それからもゆったりしたペースで園内を見て回った。俺は動物よりも、動物を見てるテシを見てる時間の方が長かったかもしれない。

 ゴリラの住む森を抜けると『夜の森』と書かれた案内板が目に入った。
「夜の森か」
「夜行性の動物達がいるところですね」
 矢印が示す方へ歩いてったらその建物はあった。中に入ってみると、夜と銘打ってるだけあって随分暗かった。
「夏彦さん、先に行ってくれません?」
「お化け屋敷じゃねんだから」
 テシは暗闇が苦手なようで、不安気に俺の腕にしがみついてくる。他に誰もいないみたいだからまあいいかと思って、そのまま先に進んだ。
 暗過ぎて最初はどこにいるかわからなかったけど、目を凝らすとスローロリスが木に登ってるのが見えた。
「スローロリスの動きってホントにゆっくりですよね」
「ナマケモノよりは速いかな」
「昔はナマケモノの仲間だと思われてたみたいですよ。ちなみに、霊長類で毒を持ってるのはスローロリス属だけです」
「毒あんだ」
 暗がりの中をテシにくっつかれたまま歩いてく。最後のエリアは明るくなってて、沢山のコウモリが展示されてた。
「すごい数ですね」
「エサ食ってるとこは意外と可愛いな」
「よく見たらおめめクリクリですよね」
 果物を食べてるコウモリを観察してたその時、後ろの方から誰かの話し声が聞こえてきた。途端にテシはすっと身体を離したから、一抹の申し訳なさを感じた。
 手ぐらい繋いでやりたくなったけど、今の俺はまだ「たまたまその場に居合わせただけの人達にどう思われたっていい」と思える境地には達してない。
「帰ったら思う存分くっついていいよ」
「楽しみにしてます」
 結局その程度のことしか言えなかった俺に、テシは満面の笑みで応えてくれて、少しだけ救われた気分になった。

 東園を回り終えて、西園へと続く橋を進んでくと、眼下に不忍池が見えてきた。生い茂った蓮の葉は壮観で、思わず立ち止まってしまった。
「上から見たらこんなすごいんだな」
「枯れる前に見れてよかったですね」
 若い頃は植物を愛でる感性なんてなかったから、俺もおっさんになったということだろう。
「不忍池は江戸時代からデートスポットだったって聞いたことあります」
「色々よく知ってんね」
「真偽はわかりませんけど、蓮の花は輪廻転生の象徴だから『生まれ変わっても一緒になろう』って誓い合ったとか」
「テシはそういうロマンチックなの好きそうだな」
「大好きです。夏彦さんは生まれ変わりって信じます?」
「信じてないけど、わざわざ否定はしないよ」
 俺は生憎、仏教的な思想は持ち合わせてないから素直にそう答えた。テシは残念がるかと思ったけど、笑いながら「なるへそ」と口にした。
「蓮の花の見頃って夏だっけ」
「七月くらいじゃないですかね」
「それまで別れてなかったらまた来ようよ」
「いいですね。約束です」
 テシがそう言って小指を差し出してきたから指切りを交わした。今の俺達にはこれくらいの約束がちょうどいいだろう。
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