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退避
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マッシモさん達の待つ場所に合流した私達は現在ダンジョンから出て冒険者ギルドに場所を移していた。
想定外の事態に一時退避する事になったのだ。
狂暴化した水獣が現れるなんて明らかにおかしい。ダンジョン内で何かとんでもないことが起こっているかも知れない。
マッシモさんがそう判断し、現在、冒険者ギルドのマスターにダンジョン内での事を報告中である。あのダンジョンもしばらく安全が確認できるまでは封鎖してもらっているらしい。
「どう思うエタン君」
ギルドマスターがエタンにこの件についての意見を求めるとエタンは眉を寄せて答えた。
「ダンジョンにあった石塔には、『水獣を倒せば宝《水盾》を入手出来る。この宝を持ち襲いくる魔物を撃て』と書かれていた。
あの盾を使わねばならない襲いくる魔物がいるって事だ。
あの水獣の記憶を盾を使ってどんな魔物が待ち受けているのか、敵の狙いがなんなのかを残留思念を見る魔導器で覗けないか、一度試してみたい。良いだろうか?」
「構わないよ。今鑑定も終わって下(事務所)にあるから持って来る様に言おう」
鑑定から戻った盾はやはり神の武器シリーズの一つで、盾であり、剣であるらしい。
広範囲の敵のあらゆる攻撃を吸収し味方に力を与える。
更には受けた攻撃の一部を反射して返す。
敵の数が多い程盾の威力が増すそうだ。
ただし、使用回数は一日、二回。
運ばれて来た盾は磨かれたのか美しく輝いて見えた。
白い中に緑の石がキラリと輝いていて、盾を縁取る白銀の縁取りが白い光りを反射している。
「これを使ってくれ」
ギルドマスターが自分のアイテムボックスから取り出した魔導器は日本で昔あった大きなカメラの様な形をしていた。
エタンが残留思念を見る為の魔導器を手に盾へと近付き、両手で魔導器を水獣の残した盾の上に翳すと、突如キィィィンと魔導器から音が鳴り出した。
「始まる。」
ギルドマスターがエタンの方を見て言った。
記憶の残滓をエタンは今覗いているのだろう。しばらくするとエタンの表情が険しくなって来た。
「……………ちっ、あいつら」
エタンが唸る様に言って顔を顰めた。
「隣国だ。これは隣国の軍が仕掛けて来た事だ。」
それを聞いて私はドキリとした。
隣国とはそれ即ち。私とエタンが逃げてきたあの国のこと?
呆然とエタンを見ていたらエタンは私の思考を読んだかのように頷いた。
エタンの話によれば資源豊富なこの国の土地を手に入れたい隣国は魔物を暴走させ王都を混乱の渦に落とし、その隙に攻め入る予定になっていたそうだ。
隣国は過去何度もこの国に戦いを挑み敗れて来た。
今回は人族至上主義の貴族や軍の上層部が動き攫ってきた獣人を殺し、その血肉に禁忌の魔法を掛けてこのダンジョンの魔物や魔獣に与えた事が判明した。その肉を運搬した人族は軍の上層部にこの守護魔法の魔石を持っていれば生きてダンジョンから出られると言われてあのダンジョンに潜り、狂暴化した魔獣に襲われて死んだ。守護の魔法などまるで発動しなかった。騙されていたのだと気付いた運び込んだ人族は怨念を撒き散らしながら息絶えた。
水獣の残留思念の中に混じった殺された獣人の残留思念と、更に軍の上層部に裏切られた人族の残留思念にまで辿り着いた事で判明したのだ。
私の頭がスっと冷えて行く。
「クソッタレが。」
イチイさんが頭を掻き毟りながらテーブルに突っ伏した。
「万が一、ダンジョンから魔物が大暴走した際にはこの王都は大混乱に陥るだろう」
ギルドマスターの言葉に私は、つい、うっかりその場面に自分が居たらと想像してゾッとした。
「大混乱間違いなしね。だったら冒険者から有志を募ってみんなで挑むのが良さそうじゃなくて?」
至宝のグローリーの女性メンバー。オオコウモリ獣人だと教えてくれたベラさんは糸目の妖艶な女性だ。
黒髪が艶かしい。落ち着いた大人女子で、しっとりしたこのお姉様は甘い物を良くくれるから優しくて好きだ。
けれど何だか至宝のグローリー内で一番恐れられてる気がする今日この頃。
「なになに!?やっぱり戦いになるの?うふふっ、久々に暴れまくらなきゃね!」
「……お前は、こっちで…静かに、待て」
金色の獣耳をピン!と立ててそう言った彼女をでっかい熊さんがズルズルと回収する。
「そうだな、緊急収集するか」
ギルドマスターが顎に手を当ててヒャッハー兄さんを見た。
「期間は?」
ヒャッハー兄さん、仕事してる!?と失礼な私は驚きが隠せない!
「ひとまず、一週間。移動を含め二週間以内にこの王都に集合。二週間後には調査も終わってるだろうし。」
「了解です!んじゃ、ちょっと行ってきやす」
しゅるん!とお尻から馬の尻尾が出て、なんとなく、ヒャッハー兄さんの脚がごつくなった気がした。
彼は瞬く間に扉から消え去り、けれど事務所に着いたのか、下が騒がしくなっていた。
「では、国へ報告をして来くる。エタン君はちょっと調査に同行して貰うかも知れないから明日また来て欲しい。」
ギルドマスターの言葉にエタンはガックシと肩を落として渋々頷いた。
「……はい」
エタン、頑張れ。
私はそれよりも気になる事があって意識はそちらに向いていた。
軍の内部を探っていた時に『隣国への運搬役候補名簿』を見たことを思い出していた。
確か、エタン、私、奴隷少年、あとは青年の気晴らし部隊なんて言われていた彼等全員だ。
と言い事は、、、
私は、知ってた。あの国が腐っていることも、あの軍が何やら怪しげな事をしていることも。
だけど、私は自分が逃げる事で頭の中はいっぱいだった。
今、そのツケが回ってきたのかもしれない。
あの国を、あの人達を彼奴らを、あのまま放置してはいけなかったのかもしれない。
想定外の事態に一時退避する事になったのだ。
狂暴化した水獣が現れるなんて明らかにおかしい。ダンジョン内で何かとんでもないことが起こっているかも知れない。
マッシモさんがそう判断し、現在、冒険者ギルドのマスターにダンジョン内での事を報告中である。あのダンジョンもしばらく安全が確認できるまでは封鎖してもらっているらしい。
「どう思うエタン君」
ギルドマスターがエタンにこの件についての意見を求めるとエタンは眉を寄せて答えた。
「ダンジョンにあった石塔には、『水獣を倒せば宝《水盾》を入手出来る。この宝を持ち襲いくる魔物を撃て』と書かれていた。
あの盾を使わねばならない襲いくる魔物がいるって事だ。
あの水獣の記憶を盾を使ってどんな魔物が待ち受けているのか、敵の狙いがなんなのかを残留思念を見る魔導器で覗けないか、一度試してみたい。良いだろうか?」
「構わないよ。今鑑定も終わって下(事務所)にあるから持って来る様に言おう」
鑑定から戻った盾はやはり神の武器シリーズの一つで、盾であり、剣であるらしい。
広範囲の敵のあらゆる攻撃を吸収し味方に力を与える。
更には受けた攻撃の一部を反射して返す。
敵の数が多い程盾の威力が増すそうだ。
ただし、使用回数は一日、二回。
運ばれて来た盾は磨かれたのか美しく輝いて見えた。
白い中に緑の石がキラリと輝いていて、盾を縁取る白銀の縁取りが白い光りを反射している。
「これを使ってくれ」
ギルドマスターが自分のアイテムボックスから取り出した魔導器は日本で昔あった大きなカメラの様な形をしていた。
エタンが残留思念を見る為の魔導器を手に盾へと近付き、両手で魔導器を水獣の残した盾の上に翳すと、突如キィィィンと魔導器から音が鳴り出した。
「始まる。」
ギルドマスターがエタンの方を見て言った。
記憶の残滓をエタンは今覗いているのだろう。しばらくするとエタンの表情が険しくなって来た。
「……………ちっ、あいつら」
エタンが唸る様に言って顔を顰めた。
「隣国だ。これは隣国の軍が仕掛けて来た事だ。」
それを聞いて私はドキリとした。
隣国とはそれ即ち。私とエタンが逃げてきたあの国のこと?
呆然とエタンを見ていたらエタンは私の思考を読んだかのように頷いた。
エタンの話によれば資源豊富なこの国の土地を手に入れたい隣国は魔物を暴走させ王都を混乱の渦に落とし、その隙に攻め入る予定になっていたそうだ。
隣国は過去何度もこの国に戦いを挑み敗れて来た。
今回は人族至上主義の貴族や軍の上層部が動き攫ってきた獣人を殺し、その血肉に禁忌の魔法を掛けてこのダンジョンの魔物や魔獣に与えた事が判明した。その肉を運搬した人族は軍の上層部にこの守護魔法の魔石を持っていれば生きてダンジョンから出られると言われてあのダンジョンに潜り、狂暴化した魔獣に襲われて死んだ。守護の魔法などまるで発動しなかった。騙されていたのだと気付いた運び込んだ人族は怨念を撒き散らしながら息絶えた。
水獣の残留思念の中に混じった殺された獣人の残留思念と、更に軍の上層部に裏切られた人族の残留思念にまで辿り着いた事で判明したのだ。
私の頭がスっと冷えて行く。
「クソッタレが。」
イチイさんが頭を掻き毟りながらテーブルに突っ伏した。
「万が一、ダンジョンから魔物が大暴走した際にはこの王都は大混乱に陥るだろう」
ギルドマスターの言葉に私は、つい、うっかりその場面に自分が居たらと想像してゾッとした。
「大混乱間違いなしね。だったら冒険者から有志を募ってみんなで挑むのが良さそうじゃなくて?」
至宝のグローリーの女性メンバー。オオコウモリ獣人だと教えてくれたベラさんは糸目の妖艶な女性だ。
黒髪が艶かしい。落ち着いた大人女子で、しっとりしたこのお姉様は甘い物を良くくれるから優しくて好きだ。
けれど何だか至宝のグローリー内で一番恐れられてる気がする今日この頃。
「なになに!?やっぱり戦いになるの?うふふっ、久々に暴れまくらなきゃね!」
「……お前は、こっちで…静かに、待て」
金色の獣耳をピン!と立ててそう言った彼女をでっかい熊さんがズルズルと回収する。
「そうだな、緊急収集するか」
ギルドマスターが顎に手を当ててヒャッハー兄さんを見た。
「期間は?」
ヒャッハー兄さん、仕事してる!?と失礼な私は驚きが隠せない!
「ひとまず、一週間。移動を含め二週間以内にこの王都に集合。二週間後には調査も終わってるだろうし。」
「了解です!んじゃ、ちょっと行ってきやす」
しゅるん!とお尻から馬の尻尾が出て、なんとなく、ヒャッハー兄さんの脚がごつくなった気がした。
彼は瞬く間に扉から消え去り、けれど事務所に着いたのか、下が騒がしくなっていた。
「では、国へ報告をして来くる。エタン君はちょっと調査に同行して貰うかも知れないから明日また来て欲しい。」
ギルドマスターの言葉にエタンはガックシと肩を落として渋々頷いた。
「……はい」
エタン、頑張れ。
私はそれよりも気になる事があって意識はそちらに向いていた。
軍の内部を探っていた時に『隣国への運搬役候補名簿』を見たことを思い出していた。
確か、エタン、私、奴隷少年、あとは青年の気晴らし部隊なんて言われていた彼等全員だ。
と言い事は、、、
私は、知ってた。あの国が腐っていることも、あの軍が何やら怪しげな事をしていることも。
だけど、私は自分が逃げる事で頭の中はいっぱいだった。
今、そのツケが回ってきたのかもしれない。
あの国を、あの人達を彼奴らを、あのまま放置してはいけなかったのかもしれない。
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