この世界で唯一の猫は俺~捕獲対象として賞金掛けられたが、相棒の黒龍(卵)とのんびり旅します

ロゼ

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旅の始まり

追い出された

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 「生まれ変わったら猫になりたいな……」

 前世の俺が最後に言った言葉がそれだった。

 気付くと俺は、というのか、俺の意識はといえば正しいのか、とにかく気付くと五歳の男の子になっていて、前世とは全く異なる世界にいた。

 前世の俺が十歳までしか生きられなかったことは覚えているが、その他の記憶は朧気(だが知識はある程度ある)で、もしかしたら前世というのは夢なのではないだろうかと思いながら大人になった。

 この世界はファンタジーな世界で、魔法というものが使えるのだが、俺は十九になってもその魔法が出現せず、魔法が使えない者は当然「落ちこぼれ」というレッテルを貼られてしまい、貴族でも何でもない、ごく普通の庶民の家に生まれた俺は、まともな職にも就くことが出来ず、ついには母親から

「ろくな稼ぎもないお前を、もうこれ以上家に置いておく余裕なんてないんだよ……十八で成人して、十九になるまで置いてやったんだ……あとは一人で生きておくれ」

 と家を追い出されてしまった。

「あー、これからどうすっかなぁ」

 いずれこうなるだろうとは予想していたので、それほど焦りはない。

 だが、細々と蓄えてきた金では家を借りることも出来ず、かといって魔法なしの俺が今すぐ大金を稼ぐことも出来るわけもない。

 当面の寝床をどうするかを考えながら歩いていた。

 母親が持たせてくれた保存魔法のかかったパンは節約すれば一週間は持つだろうから、当面は食うには困らないのだが、さすがに野宿し続けるのはキツすぎる。

 あ、保存魔法とは、うちの母親の使える魔法で、生き物以外のあらゆる物をその時の状態で一定期間保存することが出来るというものだ。

 使い方次第では物凄い魔法になると思うのだが、落ちこぼれの俺の話なんてまともに取り合ってもらえず、結局は食料の保存屋として細々と魔法を使った商売をして生計を立てているだけだった。

 父親は俺が小さい頃に死んでしまっている。

 この世界には写動魔法というものがあり、紙に十秒ほどの動画のようなものが写真のように映し出される魔法なのだが、父親の顔はその写動魔法で映し出さた写動紙でしか知らない。

 今の俺によく似た顔をしている父親は、国境警備の仕事をしていたそうだが、飛龍の襲撃を受けた際に死んでしまった。

 飛龍とはいわゆるドラゴンで、大きさによっては国の一つも簡単に滅ぼせるほどの力を持っている。

 父親を死に追いやった飛龍はまだ若く小さい個体だったようだが、それでもその飛竜によって国境警備の兵士達のほとんどが死に、その飛竜は未だ討伐されることなくこの世のどこかに潜んでいる。

「あんたに父さんみたいに凄い魔法が出現したら、あの飛龍を討伐しておくれね」

 そんなことを子供の頃から言われ続けていて、自分もその気になっていた時期もあったが、結局魔法は出現せず、母親にも見捨てられてしまった。

 俺の父親の魔法は「氷刃アイスソード」と呼ばれる氷魔法で、どこまで本当なのかは定かではないが、母親曰く「この辺りじゃ父さんの右に出る者はいなかった」というほど強かったらしい。

 せっかく健康な体に転生? 出来たのだから、俺だって凄い魔法を使ってみたかった。

 俺TUEEEEやチート能力なんて高望みはしない。

 ちょっと火が出せるとか、風を起こせる、水を出せる、氷を操れる、そんな魔法でもいいから使ってみたかった。

 健康な体で生きていられるだけ、前世の自分からしたら贅沢な話なのだが、やはり魔法への憧れというものは捨てきれず、今だって「ひょっとしたら」と思っては、知っている魔法の詠唱を唱えてみてはいる。

 まぁ、詠唱といっても、前世の小説や漫画の中のような長くてちょっと痛さのあるものじゃなく、父親の場合は「氷刃!」、写動魔法の場合は「写動!」、てな具合に、使いたい魔法の名を言うだけなのだが。

 男なら、一度くらいは前世のあんな詠唱もしてみたかったのだが、この世界にその概念がない以上、そんなもんを唱えれば「落ちこぼれ」の他に「頭のおかしなやつ」という不名誉なレッテルまで追加されそうなのでやっていない。

 とりあえず住み慣れた町を出てみたが、行く宛ても決まっていない。

 村から伸びる道は二股に分かれており、右に進めば王都へ、左へ進めば隣国へ繋がる国境へとたどり着く。

 王都へ行けば、俺みたいな魔法なしでも、日銭くらいは稼げるかもしれないが、そこへ辿り着くまで徒歩でざっと半月はかかる。

 隣国への国境までならば一週間もかからないが、国境を抜けたとしてもめぼしい町へ辿り着くまでに更に一週間はかかる。

「どっちにしても半月か……生きてられっかな、俺?」

 あまり弱音は吐かない質なのだが、この時ばかりは思わず呟いていた。

 こんな時は道のりで考えればいい。

 王都までは比較的平坦な道が続いている。

 途中に「魔獣の森」なんて呼ばれるおっかない場所があるにはあるが、安全ルートと呼ばれる、魔物避けの魔法が掛けられた道を通れば、飛龍並の魔物でも出ない限りは安全に通り抜けられる。

 国境までの道のりは険しい山道が続く。

 こちらも魔物避けが道に施されてはいるが、アップダウンが激しすぎる山道は腹の減りも半端なくなると予想される。

「食料のこと考えたら、王都一択なんだよな……」

 分かっているのに気が進まない。

 かといって国境へも行きたいとは思えない。

「こうなったら運任せだな」

 目を閉じてその場でグルグルと回転した。

 三半規管が麻痺するまで回転したら、目を閉じたまま、フラつく足の動く方へと進み始めた。
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