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旅の始まり
初めての戦闘
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どのくらい走っただろうか。
空が少しずつ明るくなってきた。
さすがにもうあの怖い気配も、嫌な血の匂いも感じない。
『逃げ切った、か?』
『そのようだな。礼を言うぞ、ネコよ』
『……あのな、俺の名前は「ネコ」じゃねえぞ?』
『じゃが、まだ名も聞いておらんからな』
ドタバタしていて名乗ってもいなかったから、知らないのは当然だ。
『俺は「アース・クルード」だ。黒龍、お前の名前は? 当然あるんだろ?』
『我も名乗っておらなんだな。我は「シャンテ」。アース・クルード、改めて礼を言う。助かった。感謝するぞ』
『フルネームはやめてくれよ。アースでいい。俺もシャンテには感謝してるんだ。余計なことに巻き込まれちまったけど、スキル持ちだって教えてくれたしな。ありがとうな』
『持ちつ持たれつ、だな』
のんびりと草原を歩いていると、ウサギ型魔獣の「ウサータ」が三匹現れた。
長く伸びた耳に鋭く尖った前歯が特徴の、大きさ的には前世で見たカピバラくらいある、やはり毛のない魔獣である。
臆病だが、自分よりも弱いと判断した敵には容赦なく襲いかかってくる。
攻撃魔法が使えるものなら倒すのは簡単だが、魔法なしの俺には荷が重すぎる相手である。
ウサータの肉は食材として愛されていて、新鮮な状態で市場にでも持っていけばそこそこの値段で買い取ってもらえる。
魔獣狩りをしているものにとっては小遣い稼ぎ程度の小物である。
逃げようと思ったら、弱いと判断されたようで囲まれてしまった。
「フーッ!!」
とりあえず威嚇をしてみたがビビりもしない。
ジリジリと詰め寄ってくるウサータ。
『どうした? 戦わぬのか?』
シャンテは呑気にそんなことを言うが、猫の俺に戦闘能力などあるはずがない。
猫は小動物や鳥などを狩るが、猫になりたての俺にそんなことが出来るとも思えないし、どう見てもウサータは小動物サイズではない。
どうやって切り抜けようかと考えていたら、一瞬の隙をつきウサータの一匹が飛びかかってきた。
『うっ!』
思わず目を閉じたのだが、何かがポンッとぶつかった程度で、それ以上の衝撃は来ない。
閉じた目を開くと、どういうわけか飛びかかってきたであろうウサータが少し離れた場所でひっくり返っている。
『何が起きたんだ?』
『お前が弾き飛ばしたのよ』
『俺が? 何で?』
『うむ……走っておった時、そなた、魔物を何匹か弾き飛ばしておったろう? そのせいかの?』
『そんなことで!?』
『現に、あれを弾き飛ばしておるしの』
もしかしたらいけるんじゃないか? そんな気がしてきた俺は再び威嚇をしてみた。
一度目は無反応だったのに、今度は少しウサータがビクッと反応を示した。
「フシャーーー!!」
三度目の威嚇をすると、一匹のウサータが硬直したように動かなくなった。
そのウサータに狙いを定め、渾身の力を込めて猫パンチを繰り出す。
が、カピバラサイズのウサータには全く効果がないようで、ビクともしない。
だが、二度三度と繰り出していくうちに、ウサータは明らかにダメージを受け始めた。
自分でも猫パンチの威力が上がってきていることを実感して、何度も繰り出していく。
十回ほど猫パンチを繰り出したところでウサータの体が吹っ飛び、ピクリともしなくなった。
『勝った、のか?』
『仕留めたようだな』
だが、まだウサータは二匹いる。
吹っ飛ばされて気を失っていたウサータが回復したようで、今度は二匹同時に飛びかかってきた。
目を閉じず、ウサータの動きをよく見て、すかさず一匹に猫パンチをお見舞いすると気持ちいいほど吹っ飛んで行った。
即座に身を翻すとウサータに後ろ足で砂を掛けた。
いわゆる目潰し攻撃である。
あまり効果はなかったようで、再びこちらに飛びかかってきたが、またそれを躱す。
何度かそんなことを繰り返していると、ジャンプ力が明らかに上がった。
やはり、猫として行動していく毎にその能力も上がっていくようだ。
またしても飛びかかってきたウサータをジャンプで避け、その落下の勢いを借りながら猫パンチをお見舞いすると、ベショッとめり込むようにウサータが倒れ込み動かなくなった。
『勝った?』
『勝ったのぉ』
『俺が、ウサータを倒した!?』
『三匹転がっておるからの、倒したな』
『……ぃやったぁぁぁああ!!』
『……うるさいやつだのぉ』
魔法なしで今まで魔物一匹倒せなかった俺が、猫の姿とはいえウサータを三匹も倒したことが死ぬほど嬉しく、思わず脳内で思い切り叫んでいた。
ひとしきり喜びを噛み締めた俺は、今度は途方に暮れることとなる。
ウサータの肉を何とかして町か村まで持って行きたいのだが、例え人間の姿に戻ったところでこんなサイズのウサータを三匹も運べるはずがない。
この三匹を売れば宿代と食事代にはなるだろうに……。
『どうしたのだ?』
『……ウサータを運びたいんだが、手段がないから困ってるんだよ……これが売れれば、宿に泊まれるのになぁ……』
『運べれば良いのか?』
『収納カバンでもありゃあなー。でもあれ、馬鹿高いんだよなぁ……雑用しか仕事がなかった俺にはとてもじゃないが手は出せなかったもんなぁ』
収納カバンとは、空間魔法が施されたカバンで、ウサータ三匹くらいなら余裕で収納出来る。
普通のカバンの百倍から数千倍の値段がするもので、高ければ高いほど収納出来る容量も大きくなる。
どっかの王族が無限に収納出来るというカバンを持っているとの噂があり、その金額は天文学的数字になるのだとか。
まぁ、そんなもんはいらないが、せめてこの三匹を収納出来るカバンくらいは欲しかった。
空が少しずつ明るくなってきた。
さすがにもうあの怖い気配も、嫌な血の匂いも感じない。
『逃げ切った、か?』
『そのようだな。礼を言うぞ、ネコよ』
『……あのな、俺の名前は「ネコ」じゃねえぞ?』
『じゃが、まだ名も聞いておらんからな』
ドタバタしていて名乗ってもいなかったから、知らないのは当然だ。
『俺は「アース・クルード」だ。黒龍、お前の名前は? 当然あるんだろ?』
『我も名乗っておらなんだな。我は「シャンテ」。アース・クルード、改めて礼を言う。助かった。感謝するぞ』
『フルネームはやめてくれよ。アースでいい。俺もシャンテには感謝してるんだ。余計なことに巻き込まれちまったけど、スキル持ちだって教えてくれたしな。ありがとうな』
『持ちつ持たれつ、だな』
のんびりと草原を歩いていると、ウサギ型魔獣の「ウサータ」が三匹現れた。
長く伸びた耳に鋭く尖った前歯が特徴の、大きさ的には前世で見たカピバラくらいある、やはり毛のない魔獣である。
臆病だが、自分よりも弱いと判断した敵には容赦なく襲いかかってくる。
攻撃魔法が使えるものなら倒すのは簡単だが、魔法なしの俺には荷が重すぎる相手である。
ウサータの肉は食材として愛されていて、新鮮な状態で市場にでも持っていけばそこそこの値段で買い取ってもらえる。
魔獣狩りをしているものにとっては小遣い稼ぎ程度の小物である。
逃げようと思ったら、弱いと判断されたようで囲まれてしまった。
「フーッ!!」
とりあえず威嚇をしてみたがビビりもしない。
ジリジリと詰め寄ってくるウサータ。
『どうした? 戦わぬのか?』
シャンテは呑気にそんなことを言うが、猫の俺に戦闘能力などあるはずがない。
猫は小動物や鳥などを狩るが、猫になりたての俺にそんなことが出来るとも思えないし、どう見てもウサータは小動物サイズではない。
どうやって切り抜けようかと考えていたら、一瞬の隙をつきウサータの一匹が飛びかかってきた。
『うっ!』
思わず目を閉じたのだが、何かがポンッとぶつかった程度で、それ以上の衝撃は来ない。
閉じた目を開くと、どういうわけか飛びかかってきたであろうウサータが少し離れた場所でひっくり返っている。
『何が起きたんだ?』
『お前が弾き飛ばしたのよ』
『俺が? 何で?』
『うむ……走っておった時、そなた、魔物を何匹か弾き飛ばしておったろう? そのせいかの?』
『そんなことで!?』
『現に、あれを弾き飛ばしておるしの』
もしかしたらいけるんじゃないか? そんな気がしてきた俺は再び威嚇をしてみた。
一度目は無反応だったのに、今度は少しウサータがビクッと反応を示した。
「フシャーーー!!」
三度目の威嚇をすると、一匹のウサータが硬直したように動かなくなった。
そのウサータに狙いを定め、渾身の力を込めて猫パンチを繰り出す。
が、カピバラサイズのウサータには全く効果がないようで、ビクともしない。
だが、二度三度と繰り出していくうちに、ウサータは明らかにダメージを受け始めた。
自分でも猫パンチの威力が上がってきていることを実感して、何度も繰り出していく。
十回ほど猫パンチを繰り出したところでウサータの体が吹っ飛び、ピクリともしなくなった。
『勝った、のか?』
『仕留めたようだな』
だが、まだウサータは二匹いる。
吹っ飛ばされて気を失っていたウサータが回復したようで、今度は二匹同時に飛びかかってきた。
目を閉じず、ウサータの動きをよく見て、すかさず一匹に猫パンチをお見舞いすると気持ちいいほど吹っ飛んで行った。
即座に身を翻すとウサータに後ろ足で砂を掛けた。
いわゆる目潰し攻撃である。
あまり効果はなかったようで、再びこちらに飛びかかってきたが、またそれを躱す。
何度かそんなことを繰り返していると、ジャンプ力が明らかに上がった。
やはり、猫として行動していく毎にその能力も上がっていくようだ。
またしても飛びかかってきたウサータをジャンプで避け、その落下の勢いを借りながら猫パンチをお見舞いすると、ベショッとめり込むようにウサータが倒れ込み動かなくなった。
『勝った?』
『勝ったのぉ』
『俺が、ウサータを倒した!?』
『三匹転がっておるからの、倒したな』
『……ぃやったぁぁぁああ!!』
『……うるさいやつだのぉ』
魔法なしで今まで魔物一匹倒せなかった俺が、猫の姿とはいえウサータを三匹も倒したことが死ぬほど嬉しく、思わず脳内で思い切り叫んでいた。
ひとしきり喜びを噛み締めた俺は、今度は途方に暮れることとなる。
ウサータの肉を何とかして町か村まで持って行きたいのだが、例え人間の姿に戻ったところでこんなサイズのウサータを三匹も運べるはずがない。
この三匹を売れば宿代と食事代にはなるだろうに……。
『どうしたのだ?』
『……ウサータを運びたいんだが、手段がないから困ってるんだよ……これが売れれば、宿に泊まれるのになぁ……』
『運べれば良いのか?』
『収納カバンでもありゃあなー。でもあれ、馬鹿高いんだよなぁ……雑用しか仕事がなかった俺にはとてもじゃないが手は出せなかったもんなぁ』
収納カバンとは、空間魔法が施されたカバンで、ウサータ三匹くらいなら余裕で収納出来る。
普通のカバンの百倍から数千倍の値段がするもので、高ければ高いほど収納出来る容量も大きくなる。
どっかの王族が無限に収納出来るというカバンを持っているとの噂があり、その金額は天文学的数字になるのだとか。
まぁ、そんなもんはいらないが、せめてこの三匹を収納出来るカバンくらいは欲しかった。
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