この世界で唯一の猫は俺~捕獲対象として賞金掛けられたが、相棒の黒龍(卵)とのんびり旅します

ロゼ

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旅の始まり

出発

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 ウサータなどを売りに行く予定だったが、予期せず手に入った大金に困り果てて宿の部屋へと引き返した。

 この世界には『貯蓄屋』という、前世の銀行のようなものがあるのだが、大きな町にしかないためその町や近隣に住んでいるものしか利用していない。

 しかも預けたところでしか入出金が出来ないため、定住しているものならいいのだろうが、とりあえず王都に向かおうとしている俺達のような旅人には利用するメリットがない。

 だからって持ち歩くのは恐ろしい。

 半分はリルに預けるつもりだが、一千万でも恐ろしいほどの大金だ。

『カバンに入れておけば良かろう? 逃げもせんしの』

 確かにそうだが、そうじゃない!

「軽く言ってくれるがな、怖いもんは怖いんだよ! 一生かかっても手に入らないような大金だぞ!? 持ち歩くの怖いだろ!?」

『そんなもんかの?』

「怖いんですか? どうして?」

 龍には人間の、しかも俺のような底辺の気持ちなんて分からないようだ。

『アースが持ち歩くのが怖いなら、ギースに持たせておれば良いのではないのか?』

「僕で良ければ!」

「持ってくれるなら……」

 ということで一千万はギースが持ち歩いてくれることになったのだが、それを入れるカバンがないので、結局買い物に行くことになった。

 一千万に手をつける気にはなれなかったので、肉屋でウサータとシシーガの肉を売り、金を作った。

 紐を買った雑貨屋に行くと、ギースが店内を興味深そうに見渡している。

「わぁぁ、色んなものが売ってるんですねぇ」

 実に楽しそうだ。

「ほら、どれがいい?」

 雑に大きなカゴに入れられているカバンの中から好きなものを選ばせたのだが、ギースはやはり人間とは好みが違うようで、ギラギラとしたスパンコールの付いたド派手なカバンを手にしていて「これは早い!」と止めた。

「ドリスが着ていた服に似ていたのでいいと思ったんですが」

「あいつは人間の中でも恐ろしいほどセンスがないやつだからな!? あれをオシャレだとは思うな!」

「えぇ、そうなんですか!?」

 オシャレの基準をドリスだと思ってもらっては困る。

『うむ、あれは違うのぉ』

 シャンテが同意してくれて助かった。

「そうなんですね……」

 その後、しばらく唸りながらカバンを選んでいたのだが、淡い水色のカバンに決めたようだ。

 少し女の子が好みそうなカバンであるが、今のギースの見た目にはよく似合っている。

 雑貨屋では今後の旅に必要になりそうな物も購入した。

 食器、調理道具、野宿用の寝袋、夜間灯(懐中電灯のようなもの)、ランタン、火力石(マッチのようなもの)など結構買ってしまった。

 宿屋に戻る途中、八百屋でも色々と買い物をした。

 魔獣の森を抜けると王都まではめぼしい町がないため、食料も持っておいた方がいいと思ったからだ。

『食料なぞ調達すれば良いだけではないか?』

「そうですねぇ。食べられる魔物はあちこちにいますし」

「そういう問題じゃねぇの! 俺は人間な? 食事は人間らしいまともな食事をしたいんだよ」

 そこいらの魔物たちみたいに生肉をバリバリ食べるなんて芸当、俺には無理だ。

 母親が料理が下手だったため、小さい頃から俺も台所に立っていたので料理はある程度作れる。

 食材さえあれば自炊可能だ! 味の保証はないが。

 宿に戻り、リルのいる部屋へと向かった。

 「これは!?」

 雑貨屋で買っておいた小物入れをリルに手渡すと、中を見たリルが驚いた声を上げた。

 もちろんシャンテによる収納魔法がかかっているし、中には一千万ヴォルが入っている。

 今回俺が買った十日分の食料くらいは収納出来るようなので、お金を貯蓄屋かどっかに預けた後は買い物などに活用してもらいたい。

「君のお父さんには世話になったんだ。そのお礼だよ」

「これ、賞金ですよね? 父とアースさんの話は聞いてました。デビル・ブラザーズの賞金ですよね? 父はただ、頼まれて報告しただけです! こんなの受け取れません!」

「それで悪いやつらを捕まえることが出来たんだ。それをもらうだけのことをしたんだよ?」

 そう言うとリルは少し考え込んだ。

「それに、しばらくお父さんは戻って来れないだろ? リルはここで面倒を見てもらったほうがいい。そのためのお金だ」

「……それでもこれは多すぎます」

「困ったなぁ……」

「困るんですか?」

「あぁ、困るなぁ」

「……分かりました。受け取ります。困らせたくはありませんから……」

 渋々といった感じでリルはお金を受け取ってくれた。

 リルのことはアンリさんに全てお願いしている。

「任せてください! 娘が増えたようで嬉しいですし、アシュリーも手伝ってくれますから、ね?」

「うん! 私、お手伝いする!」

 そう言ってもらえて助かった。

「じゃあ、行くな?」

 出発前、リルの部屋を訪ねるとリルがゆっくりベッドから下り床に足を下ろして立ち上がった。

「この度は私を助けてくださってありがとうございます! このご恩はいつか必ずお返しします!」

 まだ動かしにくそうな体を必死に動かし、体からバキバキ音を鳴らしながらも深く頭を下げた。

「お、おい! 無理すんなよ!」

 駆け寄ると笑顔でこちらを見て「大丈夫です」と言った。

「恩人にお礼も出来ない恥知らずにはしないでください。それに、音は鳴りますが痛くないんです。ただ動かないだけで」

「そうなのか?」

「はい。これからは私一人やれることはやっていきます。お父さんが戻った時にビックリさせるんです。そして二度と悪いことなんかしないようにたっぷりお説教もするんです。そのための第一歩です」

「強い子だな、本当に」

 そう言うとリルはとても嬉しそうに笑った。

 見送ってくれたアンリ親子に手を振り町を出た。

『本当はあの町にいたかったのではないのか?』

「ん? いや特に。リルが気掛かりではあったけど、アンリさん達がいるから大丈夫だし」

『そうか?』

「よし! 王都に向かって出発だ!」

 人の姿で道を歩く。

 隣をギースがニコニコしながら着いてくる。

 旅はまだ始まったばかりである。
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