結衣ちゃんは呪いの神様に憑りつかれてしまった!

けろよん

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第4話 神楽の災難

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 戦いが終わって数分後、結衣はダッシュで廊下を駆けていた。
 神楽が止めていた時間を戻したのだ。その結果、結衣は教室まで急ぐ羽目に陥った。

「教室に帰ってから戻して欲しかった!」

 校庭に出た時は窓から突き出されたが、時間が動き出してみんなが見ている中、飛んで戻るわけにもいかない。
 あいつは魔女かスーパーマンかと噂がたったら恥ずかしくて明日から学校に来られなくなってしまう。
 その原因となった神楽は『お前のせいで力を使いすぎた』と言い残して姿を消してしまった。

「勝手なんだからもう!」

 教室へダッシュで駆け込み、席へ座る。葵が驚いたように目をパチクリさせて結衣を見た。

「急に消えたけどどこ行ってたの?」
「ちょっと……トイレにね……はあはあ」
「それはまあ、大変だったね」

 まさか呪いの怪物に襲われて時間を止めて戦っていたなんて正直に話すわけにはいかない。とっさに口を突いて出た嘘だったけど、葵は納得してくれたようだった。
 教室は何事もなかったかのような日常の風景。クラスメイト達の雑談で賑わっている。
 急いで駆けつけたが授業が始まるまではまだ少し時間があった。葵が気にしたように前の椅子を引いて声を掛けてきた。

「夢はもう大丈夫そう?」
「うーん、なんか憑いてきちゃったっていうか……」

 結衣は迷ったが、神楽の姿が見えないうちに話をしておいた方がいいかと思った。待っていればまた呪いの怪物が襲ってくるかもしれないし、状況の改善が図れるならばと。

「呪いを追い払うにはどうすればいいと思う?」
「結衣ちゃん、まさか呪われちゃったの!?」

 さすがの葵もびっくりした声を出して立ち上がった。すぐに注目を集めたのに気が付いてこほんと咳払いして席に座り直した。

「それは昨日話してくれた夢絡みで?」
「うん、こんなお札効かないって燃やされちゃった」
「それで神社からついてきて今も憑かれてるって?」
「実は…………そうなんだ」
「ほう、面白そうな話をしておるな」
「うわあ! 神楽あ!」

 いないと思っていたのにすぐ傍にひょっこりと顔を出した少女の姿に結衣はびっくりしてしまう。和装で銀髪のその姿は目立つと思うのだが、教室のクラスメイト達もすぐ目の前にいる葵もまるで気づいていないようだった。

「まさか神楽の姿って他の人には見えないの?」
「呪いとはそういうものだからな。どうした? 話を続けていいぞ」
「あうう………」

 このまま話を続けていいものか。自分だけでなく葵まで呪いの標的にされるのではないかと結衣は迷ったが、葵の方から話を続けてきた。
 なぜか鼻息を荒くして興奮に瞳を煌めかせて。

「ちょっと待ってよ。もしかして結衣ちゃんに憑りついている呪いってあの神楽麻倶奈様なの!?」
「どこのかぐらまぐな様なのか知らないけど多分そうだと思うよ」
「凄いよ、結衣ちゃん! あの方はこの土地に伝説級の災いをもたらした呪いの神様なのよ! 私にも会わせてよーーー!」

 真剣に悩んでいたはずなのに肩をガクガク揺さぶられて訴えられて結衣は困惑してしまう。呪いの神様に会いたいなんてそんな人が居るんだろうか。葵は正気なんだろうかと。
 神楽がもう何かしているのかと訝しんだが、当の本人は眠そうに欠伸していた。こうしていると何か普通の女の子みたいで可愛いな。

「落ち着いてよ、葵ちゃん。神楽はそこにいるよ」
「え? 嘘? 見えないんだけど」
「何か普通の人には見えないんだって」

 神楽は眠そうに目じりに涙を浮かべながらも葵の前で手を振ってみせる。どうやら本当に見えていないようだった。

「だから言ったであろう? 誰かに助けを求めても無駄だ。お前の力で事を」
「だったら受肉させるしかないね!」

 神楽の言葉を遮って葵が「どんっ!」と机の上に置いたのは何だか古びた木の箱だった。とても女の子の持っているようなお洒落なアクセサリーの小物入れとかではなく、年季の感じられる代物だった。
 不思議そうに見る結衣と神楽の前で、葵は自慢げにその箱に掛けられた紐を解いていく。

「それ開けていいものなの?」

 良くない物の封印を解いているだけにしか結衣には見えなかったが、こうした物のマニアの葵が気にしていないので大丈夫なのかもしれない。

「開けないと取り出せないじゃん。何か漫画に出てきた物に似てると思って買っちゃったんだ。これなら呪いの神様も満足できると思うよ」
「漫画?」
「お前の友達は何を言っておるのだ?」
「さあ?」

 神楽に聞かれても結衣には葵が何の漫画を読んでいるのかなんて分からない。葵の事だから星占いとかが出てきそうなキラキラした漫画だろうか。
 そう思いながら見つめていると、やがて葵が「じゃん!」と開いた箱の中には何かミイラみたいな不気味な指が入っていた。

「ひえええ! お洒落なキラキラじゃない! これも呪いの!?」
「どう? 似てるでしょ?」
「これのどこが漫画の物なのか私には分からないよ!」
「分からないかー」

 慌てる結衣に残念そうに息を吐く葵。神楽は冷静だった。

「これは作り物だな。呪いとかの類は感じないぞ」
「なんだ、作り物なのか」

 呪いの神様の確証を得られて安心する結衣。葵は不満げだった。

「もう、何を言っているの、結衣。こんなに立派な物が作り物のわけないじゃない。ほら、神様。これを供物として捧げますから何卒~」

 懇願する葵だったが、もう結衣には笑い話にしかならなかった。神楽もやれやれと首を振るだけだ。
 緊張も解け、結衣はふと思いついたことを提案する。

「じゃあ、私の力でなんとかならないかなあ。神楽実体化してーとか」
「ハッ、お前の力で我に干渉するなどまだまだよ」

 神楽はそう言ってのけるが、結衣は物は試しと彼女からもらったお札を当人の頭にくっつけて現れてーと念じてみる。
 すると葵がきょとんとした顔して、クラスメイト達の雑談も止んだ。

「ん? なんだ……?」

 異変を感じ取ったのか今まで余裕を持って勝ち誇っていた神楽がうろたえたように辺りを見た。
 みんなの視線が集中している。教室に突然現れた見慣れない少女がまるで見えているかのように。

「神楽ちゃーーーん!」
「#$%&’ーーー!」

 野獣が襲ってきたのかと思ったら葵だった。
 神楽は声にならない叫びを上げると結衣の席のすぐ後ろに会った掃除用具入れに急いで駆け込んで隠れてしまった。
 葵がすぐに追いかけてどんどん叩く。

「神楽ちゃん、どうして隠れるの!? 出ておいでーーー!」
『結衣! そいつを何とかしろーーー!』

 掃除用具入れの中からの救助を求める声。
 言われても結衣には葵の止め方なんて分からない。

「そうだ、時間を止めれば………」

 お札を出して呟くがそもそもその方法も分からないし、別に神楽を助ける理由もなかった。
 クラスメイト達の視線もあるし、そっと出したお札をしまう。
 そうしている間に神楽の方でも対処法に気付いたようだった。

『そうだ、このお札を剥がしてしまえば……くっ、剥がれん! 結衣の呪いの力はすでにここまで強くなっているのか!』

 バァン!

「ひゃああ!」

 神楽が結衣に貼られたお札に気を取られたのが隙となった。葵は一気に掃除用具入れの扉を開いてしまう。
 中にいたのはびっくりした顔をした神楽だ。天岩戸の何かの神のように誘い出す必要もなかった。

「神楽ちゃーーーん! 本物なの!? 会えて嬉しいよーーー!」
「あああああ!」

 葵は狭い掃除用具入れから神楽を引っ張り出すと、抱っこして頬刷りした。
 結衣は今まで自分はとんでもない呪いの神様に憑かれたんじゃないかと思っていたが、案外そうでもないんじゃないかと思い始めていた。 
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