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転生編

第5話 妖精

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 公太郎はそれから病院のベッドでずっと寝たきりの生活をしていた。
 時折家族が見舞いに来たが、そんな物は何のなぐさめにもならず、かえって自由に笑い動き回れる彼らの姿は、寝たきりとなった公太郎には残酷な現実を見せつけるだけのものでしかなかった。
 公太郎は自分をこんな境遇に陥れた神を、そしてこの世界を恨むようになっていた。
 そんなある夜のことだった。
 一人の見覚えのない少女が公太郎の病室を訪れた。

「可哀想に。神のせいでまた不幸になった人が現れたのね」

 明るい栗色の髪と優しい目をしたその少女は公太郎のベッドの横の椅子に座ると、そっと優しく彼の額をなでた。

「神様?」

 少女のこの世ならぬ雰囲気に公太郎はそう思ったのだが、その声にもならない思考を聞いた彼女は不機嫌そうに頬をふくらませた。

「あんなふざけた奴と一緒にしないで。わたしは妖精さんだよ」
「妖精さん?」
「そう。わたしは妖精さんなの」

 少女は笑顔でそう言った。そして、真剣な目をして言葉を続けた。

「あなたがこの世界を拒み、わたしの世界を受け入れるなら、わたしはあなたに力を与えられる。どう? やってみる?」
「僕に? どうしてそんなことを?」
「あなたにこの世界を壊して欲しいの。分かるでしょ? 神の支配する世界では人は幸せになれない。世界を拒否できる権利があるのはその世界に生きる者達だけなんだよ。それともこの世界が好き? 守りたいと願う?」

 公太郎の答えは決まっていた。

「冗談じゃない。僕はこの世界を、そして僕をこんな目に合わせた神を憎む!」
「そうだよね。それが当然の感情だわ。じゃあ、今あなたの力を覚醒させてあげる。わたしの世界に同調して」

 妖精さんの手から白い光が発せられ、公太郎はそれを受け入れた。体の隅々に何かこの世界の物とは違う異質な力が流れていくのを感じる。

「うおっ、これは」

 光が収まった時、公太郎は白いマントをまとった双剣の戦士となっていた。数日ぶりにベッドから体を起こし、その足で固い床を踏みしめた。妖精さんは椅子に座ったままふわりとした笑顔でその姿を見上げた。

「これがあなたが真に世界に与えられるべきだった姿。あなたの本当の力だよ」
「そうだ! これが本当の僕なんだ!」
「さあ、その力でこの誤った世界の破壊をお願い」
「うおお!」

 公太郎はおたけびを上げて走り出し、薄暗い病室を飛び出していった。
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