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第一章 自転車になったお兄ちゃん
第2話 結菜と新しい自転車 2
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自転車をこいで結菜は高校へと向かっていく。
新しい自転車はこぎやすく、路面は古くて少しでこぼこしているが、結菜は問題なく風を切って走っていく。
国道沿いの分かりやすい道を走っていく。
右手の車道を車が通りすぎていくのを横目にペダルをこいでいく。
前方の景色を見て走っていると下から自転車が話しかけてきた。
「結菜、左の小道に入らないか? この国道の側道は狭くてでこぼこして走りにくいだろう? 左の道なら道は平坦だし、車もほとんど走ってないから走りやすいぞ」
「いいの。この道が分かりやすいんだから」
「道が分からないならお兄ちゃんがナビゲートしてやるぞ。この辺りは庭みたいな物だからな。任せとけ」
「いいの。ほっといて。それより外で喋らないでよ。変な奴だって思われたくないから」
「それなら大丈夫だ。俺の声は他の人には聞こえないみたいなんだ」
「そうなの?」
結菜はびっくりした。こんなによく聞こえているのに不思議なものだ。
本当なのだろうかと訝しむ。
兄は本当なのだと保証した。
「ああ、独り言を呟いていたのを隣の家のおばちゃんに聞かれたんだが、何の反応もされなかったんだ。嘘だと思うなら今すぐここで大声で叫んでみようか? 誰も振り向いたりはしないと思うぞ」
「止めて。本当でも恥ずかしいから」
「だよな。俺もおばちゃんで試す勇気は無かったよ」
たとえ聞こえないし見られてもいないと思っても、外の人前で変なことを口走ったり変なことをしたりすることはなかなか出来るものではない。人とはそういうものだ。それぐらいは結菜にも分かっていた。
自転車をこいで進めていく。北へ向かう道を東西に横切る線路の踏切を越えていく。
「ここを越えて二つ先の角を曲がった先が高校だったよね」
結菜は地図を思い出してそう判断する。前に地図を見て目印になりそうな物や道順は調べておいた。地図の上で線路はとても目立っていた。
「一つ先の角でもいけるけどな。この辺りは道が十字の網目で交わってるからどっちでも行けるぞ。せっかくだから近い方を曲がってみるか?」
結菜は兄の勧めた一つ先の角をスルーして、ハンドルを傾けて予定通りの角を曲がった。
「あくまでも我が道を貫くか。妹よ」
「わたしにはわたしの決めたルートがあるのよ」
結菜は事前に決めておいた道を変えるつもりは全くなかった。
もう迷うことはない。真っ直ぐ伸びた道の先に目指す学校が見えた。同じように学校を目指す生徒達の姿も見えた。
自転車に乗っている人もいれば、歩いて友達と談笑している人達もいた。
結菜の自転車はしみじみと呟いた。
「自転車をこいでいる女子生徒っていいよなあ。ハンドルを握る健康的な伸ばされた腕、ペダルをこぐ足、颯爽と風を切る姿。写真に撮りたくなる」
「撮らないでよ。お兄ちゃんは姫子さん一筋なんでしょ」
「もちろんだ。だから写真も姫子さんと一緒に撮ってるんだ。風景だけだけどな。彼女は人は撮らないんだよなあ。恥ずかしいからと言ってお兄ちゃんのかっこいい姿も撮ってくれないんだ。俺は姫子さんのカメラに入りたいのに」
「もう姫子さんの話はいいよ。着いたから」
結菜は校門を入って、自転車を学校の駐輪場に止めた。サドルから降りてスタンドを立て、鍵を掛ける。
「行ってくるからおとなしく待っててね」
言って歩き出そうと顔を上げて振り返ると、自分の方を見てクスクスと笑っている生徒と目が合った。お気に入りの自転車に話しかけている微笑ましい少女と思われたのかもしれない。
結菜は恥ずかしさに顔が赤くなりそうなのを我慢して校舎へ向かった。
今日は入学式だけで昼前に終わった。
クラスメイト達よりも早く、結菜が一番に教室を出て早足で駐輪場に戻ってくると自転車は変わらずにそこにあった。兄も変わらずにそこにいた。
「ちゃんと入学式は出来たか? 新しい友達は出来たか?」
「お兄ちゃんのことが心配でそれどころじゃ無かったよ」
結菜はため息をつき、自転車の後ろにシールを貼った。
「お前、お兄ちゃんのお尻に何を貼った」
「学校の校章のシールよ。通学に使う自転車にはこれを貼るんだって」
「わざわざ自分はここの生徒ですと町のみんなにアピールして回るほどたいした学校とも思えんけどなあ」
「そういう目的で付ける物じゃないと思うけど。そういう決まりなんだよ」
「決まりなら仕方ないが、これで自分はどこ高かと目を付けられて変な奴に校門で待ち伏せされたりするなよ」
「お兄ちゃんの友達とか?」
「お前には姫子さんのようなオーラは無いから、目を付けられるような心配はないか」
「人が増えてきた。行こうか」
結菜は話をそこそこに切り上げて、ハンドルを持ってスタンドを蹴り、自転車に乗って走り出した。
新しい自転車はこぎやすく、路面は古くて少しでこぼこしているが、結菜は問題なく風を切って走っていく。
国道沿いの分かりやすい道を走っていく。
右手の車道を車が通りすぎていくのを横目にペダルをこいでいく。
前方の景色を見て走っていると下から自転車が話しかけてきた。
「結菜、左の小道に入らないか? この国道の側道は狭くてでこぼこして走りにくいだろう? 左の道なら道は平坦だし、車もほとんど走ってないから走りやすいぞ」
「いいの。この道が分かりやすいんだから」
「道が分からないならお兄ちゃんがナビゲートしてやるぞ。この辺りは庭みたいな物だからな。任せとけ」
「いいの。ほっといて。それより外で喋らないでよ。変な奴だって思われたくないから」
「それなら大丈夫だ。俺の声は他の人には聞こえないみたいなんだ」
「そうなの?」
結菜はびっくりした。こんなによく聞こえているのに不思議なものだ。
本当なのだろうかと訝しむ。
兄は本当なのだと保証した。
「ああ、独り言を呟いていたのを隣の家のおばちゃんに聞かれたんだが、何の反応もされなかったんだ。嘘だと思うなら今すぐここで大声で叫んでみようか? 誰も振り向いたりはしないと思うぞ」
「止めて。本当でも恥ずかしいから」
「だよな。俺もおばちゃんで試す勇気は無かったよ」
たとえ聞こえないし見られてもいないと思っても、外の人前で変なことを口走ったり変なことをしたりすることはなかなか出来るものではない。人とはそういうものだ。それぐらいは結菜にも分かっていた。
自転車をこいで進めていく。北へ向かう道を東西に横切る線路の踏切を越えていく。
「ここを越えて二つ先の角を曲がった先が高校だったよね」
結菜は地図を思い出してそう判断する。前に地図を見て目印になりそうな物や道順は調べておいた。地図の上で線路はとても目立っていた。
「一つ先の角でもいけるけどな。この辺りは道が十字の網目で交わってるからどっちでも行けるぞ。せっかくだから近い方を曲がってみるか?」
結菜は兄の勧めた一つ先の角をスルーして、ハンドルを傾けて予定通りの角を曲がった。
「あくまでも我が道を貫くか。妹よ」
「わたしにはわたしの決めたルートがあるのよ」
結菜は事前に決めておいた道を変えるつもりは全くなかった。
もう迷うことはない。真っ直ぐ伸びた道の先に目指す学校が見えた。同じように学校を目指す生徒達の姿も見えた。
自転車に乗っている人もいれば、歩いて友達と談笑している人達もいた。
結菜の自転車はしみじみと呟いた。
「自転車をこいでいる女子生徒っていいよなあ。ハンドルを握る健康的な伸ばされた腕、ペダルをこぐ足、颯爽と風を切る姿。写真に撮りたくなる」
「撮らないでよ。お兄ちゃんは姫子さん一筋なんでしょ」
「もちろんだ。だから写真も姫子さんと一緒に撮ってるんだ。風景だけだけどな。彼女は人は撮らないんだよなあ。恥ずかしいからと言ってお兄ちゃんのかっこいい姿も撮ってくれないんだ。俺は姫子さんのカメラに入りたいのに」
「もう姫子さんの話はいいよ。着いたから」
結菜は校門を入って、自転車を学校の駐輪場に止めた。サドルから降りてスタンドを立て、鍵を掛ける。
「行ってくるからおとなしく待っててね」
言って歩き出そうと顔を上げて振り返ると、自分の方を見てクスクスと笑っている生徒と目が合った。お気に入りの自転車に話しかけている微笑ましい少女と思われたのかもしれない。
結菜は恥ずかしさに顔が赤くなりそうなのを我慢して校舎へ向かった。
今日は入学式だけで昼前に終わった。
クラスメイト達よりも早く、結菜が一番に教室を出て早足で駐輪場に戻ってくると自転車は変わらずにそこにあった。兄も変わらずにそこにいた。
「ちゃんと入学式は出来たか? 新しい友達は出来たか?」
「お兄ちゃんのことが心配でそれどころじゃ無かったよ」
結菜はため息をつき、自転車の後ろにシールを貼った。
「お前、お兄ちゃんのお尻に何を貼った」
「学校の校章のシールよ。通学に使う自転車にはこれを貼るんだって」
「わざわざ自分はここの生徒ですと町のみんなにアピールして回るほどたいした学校とも思えんけどなあ」
「そういう目的で付ける物じゃないと思うけど。そういう決まりなんだよ」
「決まりなら仕方ないが、これで自分はどこ高かと目を付けられて変な奴に校門で待ち伏せされたりするなよ」
「お兄ちゃんの友達とか?」
「お前には姫子さんのようなオーラは無いから、目を付けられるような心配はないか」
「人が増えてきた。行こうか」
結菜は話をそこそこに切り上げて、ハンドルを持ってスタンドを蹴り、自転車に乗って走り出した。
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