サイクリングストリート

けろよん

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第二章 新たな道へ

第38話 あけぴょん旋風 起こる

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「あけぴょんだぴょーん」

 次の日、結菜が登校すると、美久がそんな奇声を上げて教室を走っていた。
 そんな委員長をある者は生暖かく見守り、ある者は気にせずにそれぞれのやりたいことをやっていた。

「あ、結菜様。おはようございます」
「おはよう」

 気づいた美久が挨拶をしてくる。そして、

「あけぴょんジャーーーンプ。シューティングサイクリングアターック。参ったか、ミツヤンダーの怪人め!」
「ああ、参った参った」
「委員長は元気ねえ」

 何かのアクションの真似だろうか。跳びあがってくるくる回ってキックして、周囲から歓声と拍手を受けていた。
 結菜には何が何だか分からない。美久は瞳を輝かせて近づいてきた。手をぎゅっと握って言う。

「結菜様、わたし見つけたんです!」
「何を?」
「理想の勇者をです!」
「理想の勇者?」

 きらめく美久の瞳を見ても結菜にはよく分からない。
 結菜は助けを求めてクラスメイト達を見た。クラスメイト達の顔は委員長の話に適当に付き合ってやってと言っていた。
 美久は言う。

「昼休みに視聴覚室を使う許可を取っておきますから、一緒に見ましょう!」
「何を?」

 と言う暇は無かった。
 ホームルームの始まるチャイムが鳴って先生が来た。
 みんなは席についていく。
 何を見るかは分からないが、とりあえず見ればいいのだろうと結菜は思っていた。

 
 昼休み、約束通りに結菜は美久に誘われて視聴覚室にやってきた。
 そこは小さいテレビや、DVDや音楽CDを再生する機器が何組かづつある部屋で、受付で許可を取れば休憩時間に使っていいことになっていた。
 席について美久は鞄に手を入れた。

「昨日本屋に寄っていて、良い物を見つけたんです。これです!」

 そう言って美久が出したのは、本ではなくDVDだった。
 そのタイトルを結菜は読み上げた。

「自転車の勇者あけぴょん?」
「そうです! これは二年ほど前に都会の方で放送されていたものらしいんですが、あけぴょんが凄いんです!」
「へえ、凄いんだ」
「あけぴょんこそわたしの理想の勇者といっても過言ではないでしょう!」
「ふーん」

 美久は興奮しているが、結菜にはその凄さがよく分からない。
 あけぴょんを語る美久の目は実にきらきらと輝いていた。
 そのきらめく目をしたまま結菜に話しかけてくる。

「わたしは結菜様にもあけぴょんのような勇者になってもらいたいのです!」
「うん、それは分かったんだけど」
「分かりましたか。では、見ましょう!」

 美久は興奮に鼻息を鳴らしながら、そのDVDを再生した。
 場面はあけぴょんと呼ばれている少女が目覚めるところから始まった。


 窓からの日差しの優しい朝、あけぴょんがベッドから起きて時計を見ると、時刻はすでに危ないラインに来ていた。

「うわー、遅刻だぴょーん」
 

 結菜はいきなりずっこけそうになった。

「ぴょーんって何?」
「あけぴょんの元気の源ですよ。あけぴょんはぴょーんを言うと元気になるんです。かっこいいですよね」
「うん」

 かっこいいかどうかはさておき。
 再び画面に集中する


 あけぴょんは慌てて制服に着替えて階段を降りた。洗面所の鏡を見て最低限の身だしなみを整える。リビングに行くと両親は呑気そうにしていた。

「そんなに急いでどうしたんだ?」
「まだ時間には早いでしょう?」
「今日は日直なんだぴょーん。行ってくるぴょーん」

 あけぴょんは食パンを咥えて自転車に乗り、走り出した。
 ナレーションが入る。

『佐々木明美(ささき あけみ)は都内で暮らす普通の中学二年生である。だが、ひとたび悪が現れれば、自転車の勇者あけぴょんとなって戦うのだ』

 学校への道を急いで自転車を飛ばしていたあけぴょんは急ブレーキを掛けて止まった。

「これは助けを求める人の声。今駆けつけるぴょーん」

 あけぴょんは敵のいる場所を目指して走り出した。

 公園では怪人と戦闘員達が暴れて、みんなが困っていた。

「ハッハッハッ、逃げろ逃げろ! お前達の恐怖の感情を我らが偉大なる首領ミツヤザグラ様に捧げるのだ!」
「ひいっ」
「そうはさせないぴょーん」

 自転車でジャンプして豪快に現れたのはあけぴょんだった。怪人は振り返る。

「現れたな、自転車の勇者」
「ミツヤンダーの怪人め、このあけぴょんがいる限り、この町で悪さはさせないぴょん!」

 あけぴょんは自転車でジャンプして変身する。
 ヒーローというよりはふりふりのアイドルみたいな衣装だった。
 あけぴょんは見えを切り、かっこいいポーズを決めた。


「ミツヤンダーって何?」

 結菜は気になったことを訊いてみた。美久は答える。

「この番組のスポンサーをしているのが三谷財閥(みつやざいばつ)というんですよ。都会の方の会社なのでわたしもよく知らないんですが、おそらく番組を通して自社の宣伝をしているのでしょう」
「へえ」

 それが悪の組織の名前というのはどうなんだと思ったが、大人の事情を気にしてもしょうがない。
 結菜は再び画面を見る。

 
 人々の逃げ去った公園で、あけぴょんは敵の攻撃を華麗な自転車テクニックで次々と避け、自転車での体当たりや乗ったままハンドルを振り回しての前輪や後輪でのアタックで戦闘員達を次々とぶっ飛ばしていく。
 あけぴょんの自転車テクニックは実に見事なもので、バトルというよりはサーカスを見ている気分だった。


「ああ、あけぴょんの自転車は本当に素晴らしいなあ」

 美久はうっとりとしていた。

「でも、これって特撮なんじゃないの?」
「いえ、あけぴょんはCGやスタント無しで自分でこれをやっているらしいですよ」
「へえ」

 それは驚きだ。もしかしたら、あけぴょんはサーカスの人なのかもしれない。

 
 あけぴょんの自転車の前輪が怪人をぶっ飛ばし、場面はいつもの採石場へと移った。

「おのれ、あけぴょんめ! 俺の本気を見せてやるぞ!」

 怪人の攻撃で地面から爆発の上がる中、あけぴょんは恐れもせず真っ直ぐ怪人に向かっていく。

「とう! あけぴょんジャーーーンプ!」
「ぬうっ」

 自転車ごと跳躍するあけぴょんを怪人は見上げる。

「シューティングサイクリングアターーーック!」

 高所からの勢いを付けた自転車の攻撃が炸裂し、怪人は爆散した。

「この町にあけぴょんがいる限り、悪は栄えさせないぴょん!」

 最後に綺麗なウインクと決めポーズを決めてあけぴょんが走り去って、番組は終了した。


 美久は両手を組み合わせて興奮して舞い上がっていた。

「ああ、あけぴょんはやっぱりかっこいいなあ」
「ふーん」

 結菜には美久ほどの感動は無かった。
 確かにあけぴょんの自転車テクニックは凄かったけど、それが自分達と何の関係があるのか分からなかった。
 自分達は別に悪の組織と戦うわけではないのだから。
 美久は目を輝かせて言う。

「わたしは結菜様にもあけぴょんのような勇者になって欲しいんです!」
「うん、それはもう聞いた……けど?」

 結菜は自分があけぴょんのようになっているところを想像してみた。

『結菜だぴょーん』

 なりたいようには思えなかった。
 けれど、美久は意欲に溢れていた。

「では、今日の放課後からさっそく修業をしましょう!」
「え」

 そして、結菜の修行が始まった。
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