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第二章 新たな道へ
第37話 翼からのプレゼント
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修業することになった。
と言っても特にやることが思いつかない。
次の日の放課後、結菜は何となく道を自転車で走って練習した気分に浸っていた。
美久は練習のメニューを組んでくるといって、その日は授業が終わってすぐに下校していた。
結菜は自転車を漕ぎながら考える。
自転車は漕げば進む普通の乗り物だ。早く進みたいなら早く漕ぐだけでいい。改めて何を練習すればいいのだろう。
自転車はもう喋ることはない。道は自分で見つけなければならない。
「自転車かあ」
改めて考えるとよく分からない乗り物だと思える。
信号が赤になって止まる。道の先に本屋があるのが見えた。
「分からないことは本屋で調べてみるか」
結菜はその本屋に寄ることにした。青に変わった信号を渡っていき、本屋の前の駐輪場に自転車を止めて店内に入っていった。
それなりに広い本屋にはそれなりに人がいた。
「自転車の本なんてあるのかなあ」
探しながら棚を順番に見て歩いていく。
ある棚の前で足を止めた。
「あ、自転車の本あるじゃない。しかも何冊も」
自転車は意外と人気のあるジャンルらしい。いくつかの本の中から結菜は適当に取ってめくってみた。
その顔がすぐに歪んだ。
「何これ。わけが分からないよ」
すぐに戻した。専門的なものは結菜にはレベルが高すぎた。
「もっと分かりやすそうなもの……あ、これなら」
結菜はそれに手を伸ばそうとした。だが、その時、不意に声を掛けられて結菜はその手を引っ込めた。
「あら、あなたも本を調べに来ましたのね」
「翼さん?」
そこにいたのは翼だった。相変わらずいかにもお嬢様らしい華やかなオーラを発している。
彼女も下校途中だったのだろう。もうすでに見慣れたお嬢様学校の制服を着ていた。
翼は結菜の見ていた本棚に目を向けた。
「わたくしも自転車は初めてなので見に来ましたのよ」
「そうなんだ」
「ええ」
お互いに初心者同士で勝負というのはどうなんだと思ったが、お互いに素人なら気楽なのかもしれない。使うのもさっきの本に乗っていたよく分からない物じゃなくて普通の自転車だし、走るのもお互いに一人づつだから大勢で走って何だかよく分からない分担を考えることもない。
そう思っていると、翼は話を続けてきた。
「お父様は知り合いの自転車クラブを紹介してくれると言ってくださったんですけどね」
「うぐ」
さすがにお金持ちのお嬢様は違う。結菜はそう思わざるを得なかった。
「ですが、これはやはりわたくし達の勝負。試合までの期日もそうありませんし、数日だけの習い事でお世話になるのも向こうにとっては迷惑でしょう。そう思ってお断りしたのです。それで、結菜さん。何か良さそうな本はありますか?」
「うーん、これかなあ」
結菜は一番簡単で分かりやすそうな物を手に取った。翼はそのタイトルを読み上げる。
「猿でも分かる自転車ですか。本当にそれでいいんですか?」
「わたしって頭良くないし、難しい物って分からないんですよね」
「では、それはわたくしに買わせてください。結菜さんには町を救ってくれたお礼をまだしていませんでしたし、プレゼントだと思ってくだされば」
「じゃあ、お願いします」
結菜は少し立ち読みをするだけのつもりだったが、買ってくれるというのなら断る理由はなかった。
翼はその本をレジに持っていった。
「翼様だ」
「翼様が本をお買いになっているぞ」
何だかお客さん達が騒がしい。
「この本をお願いします」
「これは翼様。承りました」
何だが周りの人達がこそこそと騒ぐ中、翼は戻ってきた。
「どうぞ、結菜さん」
「ありがとうございます」
結菜は翼から包装紙に包まれた本を受け取った。
他に特に用事もないので結菜は翼と一緒に本屋を出ることにした。
「翼さんは本、見ないんですか?」
「ええ、結菜さんと同じ本を取り寄せてもらうことにします」
結菜が買った本はこれで最後で、もうこの本屋には残っていなかった。
翼は駐輪場の中から自分の自転車を取り出した。お嬢様が乗るにしてはどこにでもあるような普通の自転車だった。
結菜は不思議に思ったことを訊いてみた。
「翼さんってお嬢様の頂点とか呼ばれてるのに護衛の人とか連れてないんですか?」
その言葉を聞いて翼は面白そうに笑った。
「それ、たまに言われるんですけど、わたくしはそこまで偉くはないんですのよ。大統領や総理大臣ほどの凄い方達ならボディガードが必要なのかもしれませんけど、わたくしはただ町で少し知られているというだけのただの娘ですから」
それは翼の謙遜が多分に入っていたが、それを理解するほど結菜は翼のことを知っているわけではなかった。
翼は朗らかに言う。
「それにここは平和の町ですもの。勇者もいますしね」
勇者と言われて結菜はむずがゆくなった。翼の目が真剣みを帯びる。
「ですが、わたくしはまだそれを見たわけではありません。勝負の日を楽しみにしていますわね」
翼は気さくな笑顔で別れを告げて、自転車をこいで走り去っていった。
と言っても特にやることが思いつかない。
次の日の放課後、結菜は何となく道を自転車で走って練習した気分に浸っていた。
美久は練習のメニューを組んでくるといって、その日は授業が終わってすぐに下校していた。
結菜は自転車を漕ぎながら考える。
自転車は漕げば進む普通の乗り物だ。早く進みたいなら早く漕ぐだけでいい。改めて何を練習すればいいのだろう。
自転車はもう喋ることはない。道は自分で見つけなければならない。
「自転車かあ」
改めて考えるとよく分からない乗り物だと思える。
信号が赤になって止まる。道の先に本屋があるのが見えた。
「分からないことは本屋で調べてみるか」
結菜はその本屋に寄ることにした。青に変わった信号を渡っていき、本屋の前の駐輪場に自転車を止めて店内に入っていった。
それなりに広い本屋にはそれなりに人がいた。
「自転車の本なんてあるのかなあ」
探しながら棚を順番に見て歩いていく。
ある棚の前で足を止めた。
「あ、自転車の本あるじゃない。しかも何冊も」
自転車は意外と人気のあるジャンルらしい。いくつかの本の中から結菜は適当に取ってめくってみた。
その顔がすぐに歪んだ。
「何これ。わけが分からないよ」
すぐに戻した。専門的なものは結菜にはレベルが高すぎた。
「もっと分かりやすそうなもの……あ、これなら」
結菜はそれに手を伸ばそうとした。だが、その時、不意に声を掛けられて結菜はその手を引っ込めた。
「あら、あなたも本を調べに来ましたのね」
「翼さん?」
そこにいたのは翼だった。相変わらずいかにもお嬢様らしい華やかなオーラを発している。
彼女も下校途中だったのだろう。もうすでに見慣れたお嬢様学校の制服を着ていた。
翼は結菜の見ていた本棚に目を向けた。
「わたくしも自転車は初めてなので見に来ましたのよ」
「そうなんだ」
「ええ」
お互いに初心者同士で勝負というのはどうなんだと思ったが、お互いに素人なら気楽なのかもしれない。使うのもさっきの本に乗っていたよく分からない物じゃなくて普通の自転車だし、走るのもお互いに一人づつだから大勢で走って何だかよく分からない分担を考えることもない。
そう思っていると、翼は話を続けてきた。
「お父様は知り合いの自転車クラブを紹介してくれると言ってくださったんですけどね」
「うぐ」
さすがにお金持ちのお嬢様は違う。結菜はそう思わざるを得なかった。
「ですが、これはやはりわたくし達の勝負。試合までの期日もそうありませんし、数日だけの習い事でお世話になるのも向こうにとっては迷惑でしょう。そう思ってお断りしたのです。それで、結菜さん。何か良さそうな本はありますか?」
「うーん、これかなあ」
結菜は一番簡単で分かりやすそうな物を手に取った。翼はそのタイトルを読み上げる。
「猿でも分かる自転車ですか。本当にそれでいいんですか?」
「わたしって頭良くないし、難しい物って分からないんですよね」
「では、それはわたくしに買わせてください。結菜さんには町を救ってくれたお礼をまだしていませんでしたし、プレゼントだと思ってくだされば」
「じゃあ、お願いします」
結菜は少し立ち読みをするだけのつもりだったが、買ってくれるというのなら断る理由はなかった。
翼はその本をレジに持っていった。
「翼様だ」
「翼様が本をお買いになっているぞ」
何だかお客さん達が騒がしい。
「この本をお願いします」
「これは翼様。承りました」
何だが周りの人達がこそこそと騒ぐ中、翼は戻ってきた。
「どうぞ、結菜さん」
「ありがとうございます」
結菜は翼から包装紙に包まれた本を受け取った。
他に特に用事もないので結菜は翼と一緒に本屋を出ることにした。
「翼さんは本、見ないんですか?」
「ええ、結菜さんと同じ本を取り寄せてもらうことにします」
結菜が買った本はこれで最後で、もうこの本屋には残っていなかった。
翼は駐輪場の中から自分の自転車を取り出した。お嬢様が乗るにしてはどこにでもあるような普通の自転車だった。
結菜は不思議に思ったことを訊いてみた。
「翼さんってお嬢様の頂点とか呼ばれてるのに護衛の人とか連れてないんですか?」
その言葉を聞いて翼は面白そうに笑った。
「それ、たまに言われるんですけど、わたくしはそこまで偉くはないんですのよ。大統領や総理大臣ほどの凄い方達ならボディガードが必要なのかもしれませんけど、わたくしはただ町で少し知られているというだけのただの娘ですから」
それは翼の謙遜が多分に入っていたが、それを理解するほど結菜は翼のことを知っているわけではなかった。
翼は朗らかに言う。
「それにここは平和の町ですもの。勇者もいますしね」
勇者と言われて結菜はむずがゆくなった。翼の目が真剣みを帯びる。
「ですが、わたくしはまだそれを見たわけではありません。勝負の日を楽しみにしていますわね」
翼は気さくな笑顔で別れを告げて、自転車をこいで走り去っていった。
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