サイクリングストリート

けろよん

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第三章 勇者の挑戦

第51話 悠真と姫子の約束

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 近所では名の知られたお嬢様学校の教室で席につき、姫子は朝からにやついていた。
 親友のそんな浮かれた態度が気になって、苺は休み時間で賑わう教室で彼女に訊ねた。

「姫ちゃん、何か良いことあったの? 何か凄く幸せそうなオーラを出してるけど」
「分かります? うふふ~、実は今度の日曜日に悠真さんとデートをしようって約束したの」
「ああ、それで」

 苺は納得した。彼氏とデートをするなんてそれはさぞ幸せなことだろう。
 まさにごちそうさま、どうぞご自由にと言えるものだった。

「姫ちゃん、前の大会で結果を出してたもんね。それに引き換えわたしは……」

 苺としては姫子に相談したいことがあったのだが、幸せに浸っている彼女の邪魔をするつもりはない。
 姫子は勝って自分の望みを手にしたのだから。

「楽しいデートになるといいね」

 浮かれて周囲の見えなくなっている友達に、寂しげにそう呟くのだった。


 大学のサークルで悠真は葵と大会の模様やバニシングウェイの調査結果をまとめていた。
 勇者の戦いとそれが行われた道だ。町の歴史としてもまとめておく価値はあった。
 バニシングウェイ自体は歴史に名を残していない知られざる道だったが、歴史というものは不思議な物で、興味を持って注目してみるとその道の周囲からはいろいろと小さな発見があった。
 だが、どれも小さな枝葉に過ぎない。本質を語るには情報が足りない。葵はそれが不満のようだった。
 そのことで葵は悠真に提案した。

「翼に話を聞けないか? 彼女なら歴史の本に載っていないことでもいろいろと知っているだろう?」

 翼はレースを提案した張本人だ。バニシングウェイについても知識を持っているはずだった。
 悠真としては滅相もない話だった。

「無理だろう。こっちは普通の大学生、相手はこの町一番のお嬢様なんだぞ。平凡な庶民の俺達なんかがあの人と話なんて出来るはずがないだろう」
「前は話してたじゃないか」

 葵が言っているのは大会の会場で少し翼と話した時のことだった。それは悠真も分かっている。

「あれは姫子さんに呼ばれて、たまたま傍にいたから声を掛けてくれただけだぞ。本来なら俺なんかが近づける人じゃないんだよ」
「ふーん、翼の方はお前に気があったみたいだけどな」
「いくら俺でもそんな常識外れなことを信じるほど馬鹿じゃないぞ」
「これを見てもそう言えるか?」

 そう言って葵が出してきたのは、翼が楽しげに微笑んで悠真が照れている、大会の時に少しだけ話した時の写真だった。
 そんな物があるとは思いもしなかった悠真はびっくりして後ずさった。

「お前、どうしてそれを」
「カメラで撮っておいたんだよ。彼女、良い笑顔をしてるだろう? 写真とは良い物だなあ。良いシーンを撮っておけば後でいつでも見ることが出来るんだから。気の無い相手にこんな顔を見せるとは私は思わないけどな」
「いや、あの時は大会のお祭り騒ぎの中だったし、みんなもいたからだろう。俺だけに笑顔を見せてくれたわけじゃないぞ」
「強情な奴だ。まあお前がいらないならこの写真は破って捨てておくか」

 写真を破ろうとする葵。悠真は慌てて止めた。

「いや、ちょっと待て」
「ん?」
「せっかく良い写真が撮れたんだ。捨てるなんてもったいないじゃないか」
「でも、お前がいらないって言うし、このサークルで使える物でもないし」
「いいから寄越せ」

 悠真は葵の手から写真を引っ手繰った。葵はいたずらっぽい嫌らしい笑みを浮かべていた。
 悠真は嵌められたと思うが、写真を手放す気はなかった。

「正直になれよ、悠真。決めるなら早い方がいいぞ」
「何をだ?」
「このまま姫子さんに義理を通すか、大鷹翼に乗り換えるかだ」
「お、俺が姫子さんを裏切るはずがないだろう。馬鹿馬鹿しい。やっと自転車の一件も片付いて付き合えるようにもなったのに」
「私としてはお前が早まって翼に告白して玉砕してどっちもにフラれると楽しいんだけどなあ」
「結局はそれがお望みなんだろ。だが、お生憎様だ。俺が翼さんと会う機会なんてもう無いからな」

 悠真は写真をポケットに入れて、鞄を手に持った。

「調査に行ってくる」

 外に出て駐輪場に向かい、サークルで所用している自転車に乗ったところで足を止め、ポケットから写真を取りだした。
 翼は本当に目を惹かれるほどに綺麗な良い笑顔をしていた。

「葵のくせに良い写真を取りやがる。だが、待て待て。奴の言いなりにはならないからな」

 自転車を漕ぎ出す。

「もう姫子さんとデートの約束もしたしな。俺が今気にしていいのはそのことだけだ」

 そして、前を向いて走って行った。
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