パーティーから追放されたあたしは朝顔を育てるスローライフをすることになった

けろよん

文字の大きさ
2 / 4

第2話

しおりを挟む
 次の日の学校の二年三組の教室で、あたしはナメクジのようにジメジメと机に顔を這わせていた。
 離れた場所では楽しそうに元仲間だった陽斗達が集まってお喋りをしている。
 何を話しているんだろうと気になって聞き耳を立てようとしていると、ふとこちらを見た陽斗と目が合ってしまった。
 陽斗は気まずそうに目を逸らすと、パーティーメンバーを連れて教室を出ていってしまった。
 気まずいのはこちらも同じだ。あたしは休み時間は机に顔を埋めて指先でのの字でも書いておこうと思った。
 そんな惨めなあたしに話しかけてきた人がいた。

「どうかした? 陽斗君達と何かあった?」

 顔を上げるあたし。そこにいたのは優しいと評判の佐藤小花ちゃんだった。
 彼女は優しくも控えめでおとなしい目立たない性格をしている。陽斗達からはあいつは戦いに向かないよなあと言われていた。
 あたしも同意して小花ちゃんにはこんなこと出来ないよねと馬鹿にするような態度を取っていたのだが。
 優しい小花ちゃんはこんな惨めなあたしにも慈愛の聖母のような暖かい微笑みを向けてくれた。それがとても嬉しかったが、情けなくもあった。

「ごめん、こんなナメクジのようにジメジメしたのが教室にいて」
「ナメクジでも雨の日には元気だよ」
「ごもっとも」
「今日は雨降ってないけどね」
「そうですね」
「それで何かあったの? ナメ澤さん」
「相澤です」

 あたしは迷ったが、彼女の優しさにすがることにした。

「実は……」
「追放されてしまったんですね」
「まだ何も話してないよ!」

 あたしはびっくりした。その反応に彼女も少し驚いたようだったが、すぐに元の落ち着いた純朴な微笑みを取り戻した。

「いえ、今さっき陽斗君達がそう話していたので、そのことかなと」
「その予想は大当たりだよ!」

 彼女は意外と察しの良い性格のようだった。ただのおっとり少女じゃなかった。
 あたしは小花ちゃんの印象を少し軌道修正することにした。
 彼女は顎に指を当てて少し考えてから言った。

「でも、これは考えてみればいいことかもしれませんよ」
「いいこと? 仲間外れにされたのに?」
「だって、冒険者なんて怖いじゃない。モンスターと戦うなんて女の子がやることじゃないよ。このクラスで陽斗君達のやってることについていってる女子って、相澤さんだけだよ」
「そりゃそうかもしれないけどさ」
「きっと陽斗君達も相澤さんのことを思って追放してくれたんだよ」
「そうなのかなー」

 小花ちゃんの言葉に半信半疑のあたし。でも、何となくそうなのかなーという気もしてきたよ。
 そんなあたしに小花ちゃんはある提案をしてきた。

「この機会だからさ、別の事をやってみない?」
「別の事?」
「もし、良かったらでいいんだけど。わたしと一緒にスローライフ部に入って朝顔を育ててみない?」
「スローライフか。それもいいかも」

 そうして、あたしは優しい小花ちゃんに誘われるままに厳しい戦場を離れて、スローライフすることになったのだった。



 その日の放課後からあたしのスローライフ生活が始まった。
 スローライフとはゆったりと楽しんだ日常を送ろうという意味だ。
 その言葉の意味の通り、あたしは小花ちゃんとゆったりと楽しんだ気分で放課後を過ごすことになった。
 学校の廊下を歩いていって着いた場所は花壇のある中庭だ。運動場から離れた場所で静かで落ち着く場所だったが日当たりは良かった。

「まずは朝顔の種を植えましょう」

 小花ちゃんに種の入った袋を渡されるあたし。
 そこの花壇に植えるのかと思っていたら、小花ちゃんはその奥の壁際に並んでいた植木鉢の方に歩いていった。
 その植木鉢に植えるのかと思っていたら、その横にあった小さなカップのような小鉢を手に取って戻ってきた。

「これに植えてください。ここで少し育ってからあちらの大きめの鉢に移し替えます」
「おっけー」

 小花ちゃんに言われるままに種を植えるあたし。指先で土に小さな穴を開けてそこに種を入れて土で埋めた。こんなことをするなんて小学校の時以来だ。
 あの時にやったことなんてもうすっかり記憶になかったし、おそらく面白くなかったのだろうが、小花ちゃんと一緒なら何だか楽しいことのように思えた。

「ネームプレートに名前を書いてください」
「了解、キャプテン」

 調子に乗って小花ちゃんに渡されたマジックを手に取って、鉢のネームプレートに自分の名前を書くあたし。

「相澤愛華っと」
「あいざわあいか。愛が溢れている素敵な名前ですね」
「まなかですけど」
「…………」

 小花ちゃんは何だか物言いたげな言葉をぐっと呑み込んで、あたしの小鉢を日当たりのいい場所に並べた。

「これで明日になったらもう芽が出ると思いますよ」
「もう明日出るの!?」

 思ったより早くて、びっくりするあたし。植物には詳しくないが、もっと時間が掛かるのかと思っていた。
 無知なあたしに小花ちゃんはにっこりと頷いた。

「ええ、モンスターの現れるようになった昨今、植物も強くなってますからね。生き抜けなきゃいけませんから」
「そうなのかー」

 あたし達がモンスター退治に明け暮れている間、他のところでも進化が続いていたようだ。
 ダンジョンから現れるモンスターに負けまいと植物達も頑張っている。あたしは頑張れ負けるなと、自分の鉢植えにエールを送るのだった。
 小花ちゃんは微笑んでいる。あたしは照れくさくなって他を見た。
 あたしの鉢植えの隣には小花ちゃんの育てている朝顔と数個の知らない人の名前が書かれた朝顔があった。これが他の部員の名前だろうか。今日は姿が見えない。あたしは気になって訊ねた。

「今日は他の部員の人達は?」

 いるなら早く会って挨拶して友達になりたい。あたしはそう思ったのだが、小花ちゃんのおっとりとした顔は途端に曇ってしまった。
 何かいけないことを聞いてしまったのだろうか。心配になるあたしの前で、彼女は少し顔を伏せてから言いにくそうに言った。

「死にました」
「死んだの!?」

 思った以上にいけないことだったよ。何て言ったらいいのか分からなくなってしまって、あたふたとしてしまうあたし。中学二年生、相澤愛華。
 小花ちゃんは暗い顔をしたまま言葉を続けた。

「幽霊になったんです」
「幽霊になったの!?」

 思った以上に進んでいたよ。どうなってしまったの、この時代。
 モンスターが現れるようになって、変なのまで現れるようになっちゃったんだろうか。
 身を震わせるあたしの前で、小花ちゃんは表情を曇らせたまま言葉を続けた。

「幽霊部員になったんです」
「なーんだ、幽霊部員か」

 あたしの気分は晴れた。別に本当に死んだわけじゃなく、死んだような扱いになっているだけのようだった。
 まあ、本当にそんなことがあったら、テレビのニュースや全校集会で騒がれているはずだもんね。
 そんな肩の荷が取れて軽くなった気分のあたしの肩に、小花ちゃんは掴み掛かって訴えてきた。
 小花ちゃんの手が重い。その瞳は真剣だった。

「なーんだじゃないよ! 幽霊部員が幽霊になっているのが上にばれたら、あたしの部活は廃部になってしまうよ!」
「顧問の先生は何て言ってるの?」
「そこはあれで」
「あれか」

 何か知らないが裏の手を使って上手く誤魔化しているようだった。あたしは気配りの出来ない子供じゃない。小花ちゃんが話したくないなら無理に聞きだすことはしない。
 その代わりに言ってやった。肩を掴んでいる小花ちゃんの手を取って、強く握って言い聞かせるように。

「大丈夫だよ。あたしは見捨てたりしないから。幽霊にならないから」
「ありがとう、愛華ちゃん」

 小花ちゃんの笑顔にあたしはドキッとしてしまった。思わず目を逸らしてしまった。
 並んでいる部員達の朝顔が目に入った。
 何見ているんだよとあたしは内心で朝顔に文句を言いながら、その日は活動を済ませて帰ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...