リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

文字の大きさ
5 / 34

第5話 王様との謁見

しおりを挟む
 城内には兵士が巡回していた。良い鎧だなあとあたしが見ているとぺこりと会釈してきた。コウと母親が挨拶を返す。どうやら勇者の家族は国では知られた存在のようだ。
 いろいろと珍しい物がありそうな城の中だが、勝手に歩き回るわけにはいかないだろう。
 あたしは神の代理で来た精霊ということになっているから頼めば言う事を聞いてくれるだろうが、その場合は身分を明かすことになってしまう。
 騒ぎを起こして特別視されることはあたしの望みでは無いので今は勇者の行動を見届けることにした。
 さすがに王様にペコペコ、城の人達にペコペコ、町の人達にペコペコなんてされた日にはあたしの立つ瀬が無いからね。
 あたしは気まずくてもうこの国にはいられなくなってしまう。
 大人しく目立たないようにひっそりとすることを意識して。あたしは二人に続いて城内の綺麗な絨毯の上を歩いて階段を昇り、謁見の間に入った。いよいよ王様との謁見だ。
 騎士の守護する奥の玉座に立派な身なりをした王様が座っていた。煌めく王冠、立派なマント、神様よりも威厳と叡智が感じられると言ったら神様に失礼だよね。
 部外者はおとなしくしていよう。黙って見守るあたし。コウと母親が前に進み出た。
 王様が威厳を持った声でコウに向かって話しかけた。彼は厳しそうに見えたが、その瞳には親しい者と会った優しさがあった。

「よく来たな、コウ。ついに旅立つ時が来たのか」
「はい、魔王を倒しに行って参ります」
「そうか。予言の日が訪れたのじゃな」

 そこで王様の目がチラリとこちらを見てきて、あたしは背筋を伸ばした。コウの目も釣られるようにこちらを見てきて、あたしは軽く小さく片手を振ってやった。
 応援したつもりだったのだが、彼は黙って目線を王様の方に戻してしまった。もしかして緊張しているのだろうか。
 ならば応援のオーラを送ってやらねばなるまい。あたしは両手をぎゅっと握りしめて応援のオーラを送ってやった。これは何も特別なスキルではない。みんなもするようにほんの真心を気持ちに込めて送っただけだ。あたしは自分の立場とは関係なくコウを応援していた。頑張れコウ。
 王様が小声でコウと何か話している。そんな小さな声で話されるとこっちまで聞こえないんだけど。
 神様から授かった能力で聴力強化のスキルを使えば聞こえただろうけど、内緒話を聞くことが悪い事ぐらいあたしは心得ている。どうしても聞きたいなら後でコウに訊ねればいいだろう。そう思うことにして、あたしはコウの背中を見守った。
 あたしには聞こえていなかったが、彼らはこう話していた。読者の皆には教えてあげるね。

「あのお洒落で可愛い娘は誰じゃ? この国では見かけん顔じゃのう」

 あたしは気づかなかったが、神様から与えられた服でお洒落さが上方補正されているあたし。現実世界ではされたことのないお洒落で可愛いとの評価を受けていた。
 王様は国民全ての顔を覚えている。コウと一緒に来た見知らぬ少女が気になったのだ。勇者と違って特別な血は引いてない王様にはルミナの神々しさまでは感じられないようだ。普通の少女と思っている。
 コウはルミナから自分が精霊だということは話すなと言われていたので、適当なところで話を誤魔化すことにした。

「彼女は別の国から来て、俺に旅立つように伝えてくれたのです」
「ほう、なるほどのう」

 コウは何も嘘は言っていない。ルミナが神の国から来た精霊だということを黙っていただけだ。王様はさらに声を潜めてきて小声で突いてきた。

「別の国から来てお前を頼るとは、お前も隅に置けんの。この旅で勇者らしくかっこいいところを見せて、彼女のハートを鷲掴みにするんじゃぞ」
「彼女はそんなんじゃないですってば!」

 今度のは大きい声だったのであたしにもよく聞こえた。彼女って誰だろう。気にしているとコウがこちらを振り返ってきた。
『あたし?』って感じで自分を指さしてみるが、コウは大きく首を横に振って王様の方に顔を戻してしまった。どうやら違うようだ。
 王様が何やらにやついているような気がしたが、すぐに表情を引き締めて高らかに宣言した。

「では、旅立つお前に餞別を取らせよう!」

 王様の合図で謁見の間に入ってきた兵士が宝箱を運んできてコウの傍に置いた。

「わあ、宝箱だあ」

 初めてリアルに見る宝箱にあたしは目を煌めかせてしまう。こうして見ると大きいね。
 コウは緊張の面持ちでその箱を開け、中にある物を取り出した。

<コウは棍棒と30ゴールドを手に入れた!>

 横にいた楽器を持った兵士がわざわざファンファーレを鳴らしてくれた。

「まあ、期待は出来ないか」

 こういう場面で渡される宝はしょぼい。
 ゲームの知識で分かっていたことだが、あたしはやっぱり落胆の息を吐いてしまう。
 まあ、いきなりドラゴンキラーや100万ゴールドとか入っていても勇者のためにならないだろうけどさ。
 もうちょっと良い物をくれてもいいのにとは思うよね。
 王様から渡された宝がこんなしけた物でもコウは嫌な顔一つ見せずに王様にお礼を言った。良い子だね、本当に。あたしは見ていてちょっと感動してしまった。

「ありがとうございます、王様。必ずや魔王を倒してきてご覧にいれます」
「うむ、世界の平和を任せたぞ。では、旅立つがよい!」

 王様の宣言とともに高らかに鳴らされる旅立ちの音楽。兵士達が景気づけのように演奏してくれている。
 ゲームだったらオープニングのスタッフロールが流れそうな場面だ。あたしはどこかから文字が現れたり、黒い画面が迫ってきたりしないかと周囲を伺っていたが、そんな物が現れそうな様子は無かった。
 きょろきょろと四方八方を伺っていると、近づいてきたコウが話しかけてきた。

「じゃあ、行こうかルミナ。どうかした?」
「うーん、どこかからスタッフロールが流れてこないかと思って」
「スタッフロール??」

 このゲームを作ったスタッフがいたら知りたいよね。きょとんとするコウ。そこであたしは我に返った。

「もちろん知ってるよ。これがゲームじゃなくて現実の世界だってことは」
「プッ、ルミナってたまに変なことを口走るよな」
「ガーーーン」

 コウに変な奴呼ばわりされた。距離を近づけたいとはあたしから願ったことだけどこれは近すぎるよ。
 あたしは居住まいを正して精霊としての威厳を持って発言することにした。

「では、行きますよ。冒険に行くからと言って気を抜かないように」
「おう」

 景気の良い旅立ちの音楽を背にして、謁見の間を出ていく。
 そうして、あたし達の冒険が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』

髙橋彼方
児童書・童話
一ノ瀬龍拓は新宿で行列の出来るラーメン屋『龍昇』を経営していた。 新たなラーメンを求めているある日、従業員に夢が叶うと有名な神社を教えてもらう。 龍拓は神頼みでもするかと神社に行くと、御祭神に異世界にある王国ロイアルワへ飛ばされてしまう。 果たして、ここには龍拓が求めるラーメンの食材はあるのだろうか……。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...