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第7話 初めてのバトルと一時の別れ
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町を出るとそこは草原の広がるフィールドだ。
いよいよこの世界でのあたし達の冒険が始まる。まだ見ぬ出会いにあたしはわくわくしていた。
と、コウがさっさと行こうとする。あたしは慌てて呼び止めた。
「ちょっとコウ! どこに行くのよ!」
「ツギノ村へ行くんだろ? だったらまずはあそこに見える橋を渡らないとな」
コウの示す先、遠くにうっすらと橋が見える。あれを渡らないとツギノ村へは行けない。それはあたしもコウと一緒に町の人から話を聞いていたから知っているんだけど……
なおも歩こうとするコウをあたしは再度呼び止めた。
「駄目駄目。橋を渡っちゃダメーーー」
「何で駄目なんだ? 橋を渡らないとツギノ村へは行けないんだぞ」
コウはちょっと不満そう。あたしの必死の態度に困惑も感じているようだ。
そりゃすぐに旅に出たい気持ちは分かるよ。でも、あたしには言うことがある。
コウは利口だ。困ったように髪を掻いてあたしの説明を待ってくれた。
息を落ち着かせてから、あたしは教えてやることにした。ゲームの常識というものを。
「橋を渡るとね。出現するモンスターが急に強くなるの。今のコウのレベルと装備じゃあっという間にやられて死んでしまうわ。まずはここら辺に出現するモンスターでレベル上げとお金稼ぎをして装備も少し良い物を買わないとね」
「俺、死ぬところだったのか。教えてくれてありがとうな、ルミナ」
「いえいえ、礼には及ばないわ。コウの冒険を導くことがあたしの使命だからね。まずはここら辺をうろうろしてモンスターを探すよ!」
あたしとコウはここら辺をうろうろして出現するモンスターを探すことにした。
まだコウは弱いし、薬草を一つしか持っていないので、あまり町からは離れないようにする。コウも分かっているのか、あたしから大きく離れることはしなかった。
やがてそう探す必要もなくモンスターが現れた。
プルルーンと青い水滴のように現れたのはスライムだ。ゲームで見たのと同じ憎めない顔をしている。初めてリアルで見るスライムにあたしは感動して言葉を失ってしまった。
そんなあたしの前にコウが庇うように割って入った。
「気を付けろ、ルミナ! スライムだ!」
「うん、知ってる!」
さて、ここで一つ注意しておく事項がある。それは神様から特別な力と権限を預かったあたしが敵を倒しても経験値やお金が手に入らないということだ。
神様だからそうなっているのかもしれないし、ズルを封じる効果なのかもしれないし、能力の高すぎるあたしと1のコウとのレベル差の補正かもしれない。
ちなみにあたしのレベルは『-』だ。もう数値では計れない特別な強さのようだ。能力値やスキルも軒並み強い。
まあ、こういう縛りでもないとすぐに経験値の多そうな強いモンスターの出る遠くの大地まで飛んでいって、広範囲に隕石でも落とせば簡単にレベル上げが出来そうだもんね。
あたしはコウにはまっとうな勇者になって欲しいので、もしこういう仕様になって無かったとしても、そういう無茶なレベリングをするつもりは無いけれど。
何にしてもあたしがコウの戦いに手を貸してあげることは出来ない。あたしに出来ることは知恵を貸すこと、勇者を導くことだ。
「あたしは手を貸せないけど、コウ、戦える?」
「任せろ!」
さすがは勇者。良い返事だ。コウは勇敢に棍棒を振り上げてスライムに向かっていく。あたしはその後姿を見送った。
「やっぱり棍棒はかっこよく無いなあ。早くコウに剣を持たせてやりたい」
あたしは頑張ってスライムと戦うコウの姿を眺めながらそう思っただけで、女の子の前でかっこを付けたい男子の気持ちなんてちっとも理解していなかった。
やがて数回の殴り合いを経て、戦闘は終了した。スライムを倒してコウはわずかばかりの経験値とお金を得た。
「ルミナ! お金を手に入れたぞ!」
「うん、やったね。この調子でどんどん倒していこう!」
まだコウのHPには余裕がある。家に帰って休む必要は無いだろう。あたし達は再びここら辺をうろうろしてモンスターを探した。
やがてバサバサと空から音がした。今回現れたのは大きなカラスだった。コウがそれの正体を教えてくれる。
「あれは化けガラスだ!」
「コウ、戦えるの?」
「もちろん!」
さすが男子、元気で活発だ。昼休みにサッカーをしに行く学校の男子のように、コウは威勢よく大きなカラスに立ち向かっていった。
棍棒を振り回して上手くカラスにダメージを与えていく。体が大きい分、現実のカラスよりも動きが鈍く攻撃が当てやすいようだ。大きいというのも良いことばかりでは無いんだね。
その戦闘にも勝利してさらに何回か戦って、ついにコウのレベルが一つ上がった。レベル2になったのだ。
「やったね、コウ。レベルアップしたよ」
「おう、このままどんどん戦っていくぜ」
「ちょっと待って、HPが減ってるよ」
あたしはコウの家に帰って一旦休もうと提案したつもりなのだが、コウは道具袋から薬草を出していた。
「そろそろ薬草を使う時だな。それ!」
薬草を使って、コウの体力は回復した。
うーん、家に帰ればただだったんだけど。まあ、いいか。変に薬草をケチるような人間になられても困るし。
さらに戦い続けるコウをあたしは見守った。やがてスマホに着信が入った。あたしのポケットのスマホからだった。
この世界に来る時に服を着替えたが荷物は移してくれていたらしい。気の利く神様だった。そして、着信はその神様からだった。
あたしはコウの戦いぶりを見ながら近くの岩に腰掛け、電話を取った。
「もしもし、神様。こっちの方は順調よ」
『それは良かった。こちらからも見ておったぞ。連絡したのは、お前の家の者が夕飯が出来たと呼んでおるからじゃ』
「もうそんな時間ですか」
こっちの世界ではまだ昼なので実感が無かった。
だが、夕飯の時間だと言われるとお腹が減ってきた。こっちの世界とあっちの世界では時間の進み具合が違うようだ。あたしは帰る時が来たことを悟った。
「じゃあ、ヘルプちゃんを呼びますね」
『うむ、何でも知りたいことがあったら訊いてやるがよい』
あたしは神様との通話を終えてヘルプちゃんを呼ぶことにした。コマンドウインドウを開いてヘルプの項目を選ぶと、ヘルプちゃんはすぐにやってきた。
見慣れたいつもの天使スマイルをして少女が現れる。
「はいはーい、ヘルプちゃんですよー。知りたい項目をお選びください」
「元の世界に帰りたいんだけど、どうすればいい?」
訊ねると、ヘルプちゃんはすぐに答えてくれた。
「それならメニューから冒険の中断をするをお選びください。次に転送する時はここから始められます。あなたのしていたゲームにこの世界へのアクセスゲートを繋いでおきますから、またこの世界に来る時はあのゲームを起動してください」
「ありがとう。分かったわ」
「ではではー」
説明を終えてヘルプちゃんの姿が消える。あたしはメニューウインドウをスクロールさせて冒険を中断するコマンドがあることを確認し、コウの戦闘が片付いたところで声を掛けることにした。
「コウ、あたしはこれから帰らないといけないけど、あなたも無理をしないところで帰って休むのよ」
レベルが上がって戦闘は楽になっているようだが、油断は禁物だ。あたしがそう声を掛けるとコウは悲しそうな顔をした。
「ルミナ、帰ってしまうのか」
「もう、そんな顔しないでよ」
しょげたうちの犬みたいにという言葉は飲み込んで、
「また来るからさ」
「また来てくれるのか?」
「うん、あたしもここに来るの楽しいからね。あたしのいない間に無茶はしないこと。それと勝手にゲームを進めないでよ」
「ゲーム??」
やはりコウはゲームを知らない様子。あたしは軽く流すことにした。
「あたしのいない間に橋を渡ってツギノ村へは行かないでってことよ」
せっかく面白い世界に来たのだ。イベントの見逃しはしたくないところであった。
あたしの思惑はさておき、コウは快く頷いた。
「ああ、俺ここでレベル上げして待ってるからさ。また来てくれよな」
「うん!」
そうしてあたしはこの世界に一時の別れを告げて、元の自分の世界へと帰っていったのだった。
いよいよこの世界でのあたし達の冒険が始まる。まだ見ぬ出会いにあたしはわくわくしていた。
と、コウがさっさと行こうとする。あたしは慌てて呼び止めた。
「ちょっとコウ! どこに行くのよ!」
「ツギノ村へ行くんだろ? だったらまずはあそこに見える橋を渡らないとな」
コウの示す先、遠くにうっすらと橋が見える。あれを渡らないとツギノ村へは行けない。それはあたしもコウと一緒に町の人から話を聞いていたから知っているんだけど……
なおも歩こうとするコウをあたしは再度呼び止めた。
「駄目駄目。橋を渡っちゃダメーーー」
「何で駄目なんだ? 橋を渡らないとツギノ村へは行けないんだぞ」
コウはちょっと不満そう。あたしの必死の態度に困惑も感じているようだ。
そりゃすぐに旅に出たい気持ちは分かるよ。でも、あたしには言うことがある。
コウは利口だ。困ったように髪を掻いてあたしの説明を待ってくれた。
息を落ち着かせてから、あたしは教えてやることにした。ゲームの常識というものを。
「橋を渡るとね。出現するモンスターが急に強くなるの。今のコウのレベルと装備じゃあっという間にやられて死んでしまうわ。まずはここら辺に出現するモンスターでレベル上げとお金稼ぎをして装備も少し良い物を買わないとね」
「俺、死ぬところだったのか。教えてくれてありがとうな、ルミナ」
「いえいえ、礼には及ばないわ。コウの冒険を導くことがあたしの使命だからね。まずはここら辺をうろうろしてモンスターを探すよ!」
あたしとコウはここら辺をうろうろして出現するモンスターを探すことにした。
まだコウは弱いし、薬草を一つしか持っていないので、あまり町からは離れないようにする。コウも分かっているのか、あたしから大きく離れることはしなかった。
やがてそう探す必要もなくモンスターが現れた。
プルルーンと青い水滴のように現れたのはスライムだ。ゲームで見たのと同じ憎めない顔をしている。初めてリアルで見るスライムにあたしは感動して言葉を失ってしまった。
そんなあたしの前にコウが庇うように割って入った。
「気を付けろ、ルミナ! スライムだ!」
「うん、知ってる!」
さて、ここで一つ注意しておく事項がある。それは神様から特別な力と権限を預かったあたしが敵を倒しても経験値やお金が手に入らないということだ。
神様だからそうなっているのかもしれないし、ズルを封じる効果なのかもしれないし、能力の高すぎるあたしと1のコウとのレベル差の補正かもしれない。
ちなみにあたしのレベルは『-』だ。もう数値では計れない特別な強さのようだ。能力値やスキルも軒並み強い。
まあ、こういう縛りでもないとすぐに経験値の多そうな強いモンスターの出る遠くの大地まで飛んでいって、広範囲に隕石でも落とせば簡単にレベル上げが出来そうだもんね。
あたしはコウにはまっとうな勇者になって欲しいので、もしこういう仕様になって無かったとしても、そういう無茶なレベリングをするつもりは無いけれど。
何にしてもあたしがコウの戦いに手を貸してあげることは出来ない。あたしに出来ることは知恵を貸すこと、勇者を導くことだ。
「あたしは手を貸せないけど、コウ、戦える?」
「任せろ!」
さすがは勇者。良い返事だ。コウは勇敢に棍棒を振り上げてスライムに向かっていく。あたしはその後姿を見送った。
「やっぱり棍棒はかっこよく無いなあ。早くコウに剣を持たせてやりたい」
あたしは頑張ってスライムと戦うコウの姿を眺めながらそう思っただけで、女の子の前でかっこを付けたい男子の気持ちなんてちっとも理解していなかった。
やがて数回の殴り合いを経て、戦闘は終了した。スライムを倒してコウはわずかばかりの経験値とお金を得た。
「ルミナ! お金を手に入れたぞ!」
「うん、やったね。この調子でどんどん倒していこう!」
まだコウのHPには余裕がある。家に帰って休む必要は無いだろう。あたし達は再びここら辺をうろうろしてモンスターを探した。
やがてバサバサと空から音がした。今回現れたのは大きなカラスだった。コウがそれの正体を教えてくれる。
「あれは化けガラスだ!」
「コウ、戦えるの?」
「もちろん!」
さすが男子、元気で活発だ。昼休みにサッカーをしに行く学校の男子のように、コウは威勢よく大きなカラスに立ち向かっていった。
棍棒を振り回して上手くカラスにダメージを与えていく。体が大きい分、現実のカラスよりも動きが鈍く攻撃が当てやすいようだ。大きいというのも良いことばかりでは無いんだね。
その戦闘にも勝利してさらに何回か戦って、ついにコウのレベルが一つ上がった。レベル2になったのだ。
「やったね、コウ。レベルアップしたよ」
「おう、このままどんどん戦っていくぜ」
「ちょっと待って、HPが減ってるよ」
あたしはコウの家に帰って一旦休もうと提案したつもりなのだが、コウは道具袋から薬草を出していた。
「そろそろ薬草を使う時だな。それ!」
薬草を使って、コウの体力は回復した。
うーん、家に帰ればただだったんだけど。まあ、いいか。変に薬草をケチるような人間になられても困るし。
さらに戦い続けるコウをあたしは見守った。やがてスマホに着信が入った。あたしのポケットのスマホからだった。
この世界に来る時に服を着替えたが荷物は移してくれていたらしい。気の利く神様だった。そして、着信はその神様からだった。
あたしはコウの戦いぶりを見ながら近くの岩に腰掛け、電話を取った。
「もしもし、神様。こっちの方は順調よ」
『それは良かった。こちらからも見ておったぞ。連絡したのは、お前の家の者が夕飯が出来たと呼んでおるからじゃ』
「もうそんな時間ですか」
こっちの世界ではまだ昼なので実感が無かった。
だが、夕飯の時間だと言われるとお腹が減ってきた。こっちの世界とあっちの世界では時間の進み具合が違うようだ。あたしは帰る時が来たことを悟った。
「じゃあ、ヘルプちゃんを呼びますね」
『うむ、何でも知りたいことがあったら訊いてやるがよい』
あたしは神様との通話を終えてヘルプちゃんを呼ぶことにした。コマンドウインドウを開いてヘルプの項目を選ぶと、ヘルプちゃんはすぐにやってきた。
見慣れたいつもの天使スマイルをして少女が現れる。
「はいはーい、ヘルプちゃんですよー。知りたい項目をお選びください」
「元の世界に帰りたいんだけど、どうすればいい?」
訊ねると、ヘルプちゃんはすぐに答えてくれた。
「それならメニューから冒険の中断をするをお選びください。次に転送する時はここから始められます。あなたのしていたゲームにこの世界へのアクセスゲートを繋いでおきますから、またこの世界に来る時はあのゲームを起動してください」
「ありがとう。分かったわ」
「ではではー」
説明を終えてヘルプちゃんの姿が消える。あたしはメニューウインドウをスクロールさせて冒険を中断するコマンドがあることを確認し、コウの戦闘が片付いたところで声を掛けることにした。
「コウ、あたしはこれから帰らないといけないけど、あなたも無理をしないところで帰って休むのよ」
レベルが上がって戦闘は楽になっているようだが、油断は禁物だ。あたしがそう声を掛けるとコウは悲しそうな顔をした。
「ルミナ、帰ってしまうのか」
「もう、そんな顔しないでよ」
しょげたうちの犬みたいにという言葉は飲み込んで、
「また来るからさ」
「また来てくれるのか?」
「うん、あたしもここに来るの楽しいからね。あたしのいない間に無茶はしないこと。それと勝手にゲームを進めないでよ」
「ゲーム??」
やはりコウはゲームを知らない様子。あたしは軽く流すことにした。
「あたしのいない間に橋を渡ってツギノ村へは行かないでってことよ」
せっかく面白い世界に来たのだ。イベントの見逃しはしたくないところであった。
あたしの思惑はさておき、コウは快く頷いた。
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