リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

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第25話 サード王国の悩み

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 城の中は立派な内装に彩られている。タビダチ王国とどっちが立派なんだろう。比べるのは失礼かもしれないが。
 どっちも良くてどっちもあり。それが今の風潮だね。醤油ラーメンも味噌ラーメンも大きいのも小さいのも、みんな良くて有りなのだから。
 立派な建物を建てるのにも理由があるんだね。天井を見上げてそう思う。立派で凄い建物は訪れる人に関心を与える。
 国の建物がみすぼらしかったら、あたし達はこの国大丈夫か? と心配を感じていたことだろう。
 さて、どうでもいいことを考えるのはこの辺にして。あたしは前を見る。
 王様のいる謁見の間に行けばイベントが進行することだろう。おそらくあの中央に見える階段を上れば行けるはずだ。
 その前にどこか見て回った方がいいかなと考えていたら、向こうから立派な鎧を身に着けた人が歩いてきた。
 ちょっと横にどいた方がいいかなと思ったが、彼はあたしとコウの前に来て会釈してきた。
 地位の高そうな威厳を感じる。そう思ったのも当然、本当に偉い人だった。彼は恭しく自己紹介してきた。

「ツギノ村を救った勇者様ですね。噂はこの国まで聞き及んでおります。私はこの国で近衛隊長を務めておりますトラインと申します。ここからは私が案内します。どうぞ王の元までお越しください」
「はい」

 わざわざ近衛隊長ほどの人が迎えてくれるなんてこの国はよほど困っているのか、コウを認めているのかな。多分前者だと思うけど。
 この国で起こっている問題って何だろう。城下町で囁かれている噂は聞いたけど、正確な事を知っている人はいなかった。
 誰にも喋ってはいけないと城で緘口令が引かれているためだろう。情報が城で止められていて町まで流れて来ていない。
 それでも不穏な空気は感じているんだ。
 あたしはいろいろ考えながら景色を眺め、コウと一緒に近衛隊長の後をついて階段を上っていった。


 廊下を歩きながら会う人達が礼をしてくる。何かこそばゆいよ。
 あたしが神様の代理だってことは知られていないけど、コウが勇者だってことはもう城のみんなが知っているようだ。
 今はまだツギノ村を救った程度の勇者だけど、このまま冒険を続けてもっと有名な勇者になったらどうなるんだろう。例えば宇宙ヒーローなんて称号を持っているような勇者になったら。
 コウも大変になるなあ。そう思ってしまう。
 まあ、そんな先の未来の事を考えるのは今はよしておこう。事件は宇宙で起こっているんじゃない。今はこのサード王国で起こっているんだから。
 この国の問題を解決するために城に招き入れられたんだからね。
 廊下を歩いたあたし達の前に謁見の間に入る大きな扉が現れた。さあ、王様に会うよ。

「勇者様をお連れしました」

 扉を開ける近衛隊長トラインさんの後に続いて、あたし達は部屋に入っていった。



 そこではこの国の重鎮達が集まって何やら相談が行われていた。奥の玉座に腰掛けて王様は何かに悩んでいた。初老のその顔に苦悩の色を見せていた。
 近衛隊長が勇者が来たことを伝えるとみんなが顔を上げて注目してきた。
 何か会議室か職員室に来たみたいであたしは落ち着かなかったけど、ここで回れ右して逃げるわけにはいかないよね。
 あたしは勇者の仲間としてここへ来たのだから。
 コウが決意を固めた顔で前へと進んで、あたしはその斜め後ろをついていった。
 玉座に近づいて立ち止まり、王様の前でコウは訊ねた。

「この国で何か悩みがあると伺いました。何かあったのですか?」
「それはな……言っていいものか、ゴニョゴニョ……」

 国王は言いかけた言葉を飲み込み、臣下と相談し、言う事を決めたようだ。

「これはくれぐれも内密に頼むぞ」

 そう前置きして、

「はい」

 コウは素直に答えていたけど。
 高嶺ちゃんと秘密にするとした約束をお兄ちゃんに知られたばかりのあたしとしては気まずくてそわそわしてしまう。
 でも、今回約束したのはコウなんだからいいよね。素知らぬ風を装ってあたしは植木鉢のように黙ってコウと一緒に話を聞こうと思っていたんだけど。
 そうは甘くはいかなかった。王様の目がこちらを見て訊ねてきた。

「つかぬことを伺うが、そちらの少女はどなたかな?」
「彼女は俺の仲間です」
「ふむ、勇者の仲間ならば問題はあるまい。失礼を言った。では、事情を話そう」

 うう、コウと王様からの信頼が重いよ。でも、ここはちゃんとしないとね。
 あたしは今度こそ情報を他人には漏らさないぞと決意して王様の話を伺った。
 この国の悩み、それはこんな内容だった。

「実はな、デッカイ山脈のサンバン谷に住む魔物に我が国の姫がさらわれたのじゃ」
「姫がさらわれたってそれは大変なことでは」
「うむ、大変じゃ。だから困っておるのじゃ」

 凄いよ、コウ。もう情報収集に慣れてきてるね。
 あたしが見ている前で、ポンポン話を進めていくよ。

「魔物はどうして姫をさらったんでしょう? 何か心当たりはおありですか?」
「ある。魔物はずっと前からこの国を狙ってきておるからな。デッカイ山脈を降りて平原に抜けようと思ったら、この国を避けては通れぬ。魔物にとってはこの国は邪魔なのじゃ」
「逆に支配できればちょうどいい前線基地に出来る」
「悩ましいの。先祖はなぜこんな場所に国を建てたのか」

 それは多分、魔物の侵攻を阻んでいた人達が集まってこの国を建てたんだと思う。いろいろ集まる場所だと商人の動きも活発になるしね。
 いずれにしてもこの国を魔物達に支配されたらあたし達も困ってしまう。ここを前線基地にされたら魔物は次にツギノ村やタビダチ王国を狙ってくるだろう。
 何としても食い止めないとね。それはコウも分かっているようだ。元気に勇敢な返事をした。

「分かりました。サンバン谷の魔物は俺達が退治して姫を助けてきます」
「うむ、それでこそ勇者じゃ。任せたぞ」

 こうして次の目的地が決まった。
 さあ、サンバン谷の魔物を倒して姫を救うぞ。
 この国の兵士達が束になっても勝てない相手でも、勇者なら倒せるだろう。ゲームってそういうもんだ。
 あたしはコウの力を信じていて、決して油断なんかしていないと思っていた。
 でも、あんなことになるなんて。この時のあたしには思いもよらなかったんだ。
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