リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

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第32話 ルミナの決断

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 謁見の間は薄暗い闇の空気で満たされていた。暗くて分かりにくいが玉座に座っている兵士に見えるのがネクロマンサーなのだろうか。
 兜を被っていて顔は見えないが、魔術師の恰好じゃないのは意外だなと思った。
 彼はうつむいていた顔をわずかに上げて言った。

「我が計画を邪魔立てしたのは貴様らか」
「そうだ、勇者の俺がお前を討伐してこの国を救いに来た!」
「まあ、本当にお前を倒してこの国を救う英雄になるのは盗賊である俺だけどな!」
「ちょっと、二人とも! 敵の台詞は最後まで聞いてから戦いを始めてよ!」
『…………』

 すぐに跳びかかりそうな二人をあたしは止めた。あたしはゲームの台詞は最後まで聞かないと気が済まない主義だった。

『…………』

 何でみんな黙ってるの!? ネクロマンサーやサカネちゃんまで!

「コホン」

 何かあたしが言わないといけないような雰囲気になっていたので、あたしは言うことにした。
 ネクロマンサーに儀式が完成するまでの時間稼ぎをさせるわけにはいかないものね。ズバリと核心を突いて言ってやるよ。

「ネクロマンサー、あなたの目的は分かってる。竜封玉を奪ってからドラゴンをけしかけてこの国を襲うつもりだったんでしょうけど、その野望は潰えたわ!」
「私の目的はそんなことではない」
「違うの!?」

 赤っ恥を掻いちゃったよ。ネクロマンサー先生は間違った人を笑ったりせずに答えを教えてくれた。

「魔王様から頂いたドラゴンの力。あれは余りにも荒々しく私の手にも制御できかねる物だった。そんな時に竜封玉の話を聞き、一度ドラゴンの力を封じて殺すことに決めたのだ。ゾンビにすれば私の死者を操るスキルで操れるからな」
「そんなことを……考えていたのね!」
「野望が潰えたのは別の意味でだな。お前達、ドラゴンの死体をどこにやったのだ? 私が教えたのだから、お前も教えてくれてもいいだろう?」
「えーっと、それはね……」

 くっ、このネクロマンサー、お兄ちゃんみたいな事を。こっちが教えたんだからそっちも教えろと要求している。
 言っていいのだろうか。次元の狭間に送っちゃったって。言っても問題は無さそうだけど。
 だが、ネクロマンサー先生は出来の悪いあたしの解答なんて待っちゃいなかった。

「だが、もうどうでもよくなった、ドラゴンなぞ。ここにもっと価値のある勇者が来たのだからな。私は勇者の体を手に入れる。そして、この国も支配しよう!」

 ネクロマンサーが立ち上がるとともに闇の風が吹き荒れ、辺りの暗闇からゾンビの軍団が次々と姿を現した。
 ちょ、数多! あたしゾンビのゲーム好きじゃないのに。喜々として撃ち抜けるお兄ちゃんとは違うんだよ。

「ルミナ! もう戦っていいのか!」
「うん! 思う存分やっつけて!」
「なら、先手は俺の物だ!」
「させるか!」

 コウとディックは同時に相手に飛びかかった。玉座に座るネクロマンサーに向かって。
 これって見えない力に跳ね返されるパターン?
 あたしはそんな感じを受けて覚悟を決めるのだが、二人の攻撃は見事に玉座に座るネクロマンサーを貫いた。

「顔を見せやがれ!」

 ディックが敵の兜を跳ね上げる。現れた顔はゾンビだった。

「!!」

 コウとディックはすぐに異変を察知して、剣を抜いてその場を飛びのいた。
 玉座にいたゾンビが立ち上がって他のゾンビと同じように向かってくる。

「どうなっているんだ? あいつがネクロマンサーじゃなかったのか?」

 二人とも戸惑っている。あたしにも分からない。神様の権限を使えば見破れただろうけど、そんなのはテストを受ける前に解答用紙を見るような物だ。
 コウの冒険の為にならない。あたしはいらついた。この特別な力はただあたしを困らせるだけだった。
 高嶺ちゃんと同じ立場だったなら……一緒に仲良く戦えるのに。海底トンネルでのことを思い出してしまう。今なら彼女がなぜ特別な力を断ったのか分かる気がした。

「構うことはない。全部倒せばいいだけだ!」
「ルミナの前で良い恰好を見せるのは俺だぜ!!」

 コウとディックは群がるゾンビ達を次々と倒していく。でも、ゾンビは倒した傍から次々と復活していく。
 これはあれか。全部同時に倒すか本体を見つけて倒さないといけないパターンかな。
 でも、あたしにはどれが本体なのか分からない。ゾンビなんて全部同じに見えるよ。
 ゾンビ軍団は勇者と目的を邪魔するディックにしか興味が無いらしく、あたしの方には向かってこない。
 敵からも味方からも相手にされない。それが今のあたしなんだ。

「ルミナさん!」

 サカネちゃんがあたしを呼んでいる。あたしに戦いに介入するように訴えている。
 この敵集団を一掃するにはあたしの攻撃魔法が必要だ。本体に目星が付けられない以上、方法は一度に全体攻撃しかない。
 でも、駄目なんだよ。あたしの強すぎる力じゃコウの冒険を破壊してしまう。
 ネクロマンサーなんて一撃で倒してしまって、コウもディックもサカネちゃんも自分達が冒険をするなんてアホらしくなって解散してしまうだろう。
 そんなの耐えられるわけないよ。戦いには勝ててもあたしは今の冒険を続けられなくなってしまう。あたしにとっては敗北だ。

「こんな力……無くて良かったのに……」

 あたしにはどうしていいか分からなかった。誰かに代わりに助けて欲しかった。
 うつむいてしまうあたしにコウとディックは悔しそうな顔を見せた。

「くそっ、本体はどいつなんだ!」
「俺にも見破れねえよ! ここにはいないんじゃないか!?」
「フフフ、私はここにいるぞ。お前達のことはよく見えておるわ!」

 確かにネクロマンサーはここにいるのだろう。ゾンビ軍団は正確にコウとディックの位置を掴んで攻撃していた。
 でも、どこにいるのだろう。声は右から聞こえてきたかと思えば今度は左から聞こえてくる。ゾンビはいっぱい蠢いていて音で見つけるのは無理そうだ。
 天井を見ても怪しい監視カメラや使い魔の類はみつけられなかった。
 あたしはもう、みんなに任せて待つことしか出来なかった。そんな時、

『覚えていてください。あなたが困った時には助けてくれる人がいることを』

 不意に高嶺ちゃんに言われた言葉が脳裏に閃いた。
 でも、誰があたしを助けてくれるのだろう。コウもディックもサカネちゃんも一生懸命に戦っている。助けになっていないのは自分だけだ。
 誰か助けて欲しい。そう思った時、思い出したことがあった。
 助けが必要な時は呼んでくださいと言っていた言葉を。あたしはその名を呼んだ。

「ヘルプちゃん!」
「はいはーい、お助け天使のヘルプちゃんですよー」

 あたしの呼びかけにヘルプちゃんはすぐに来てくれた。こんな魔王の幹部との戦闘中なのに呑気そうな様子で。

「うわっ、ゾンビがいっぱいですねー。早く掃除をした方がよろしいのでは?」
「うん。でも、これはコウの戦いだから邪魔をしちゃいけないの」

 だが、これが神々から見る世界なのだ。その達観した特別な立場はあたしもヘルプちゃんと同じで……
 だからこそ、あたしはもうこんな特別な権限なんて必要としなかった。

「あたし、神様の代理を辞めたいの! コウ達と同じ立場で戦いたいの! どうすればいいか教えて!」
「ええ! 辞めちゃうんですかー!」

 あたしの決断にヘルプちゃんはとてもびっくりした顔。でも、もう決めたんだ。
 ヘルプちゃんは驚きながらも神様と連絡を取ってくれた。そして答えが戻ってきて言った。

「神様はまたルミナ様がこの世界に来てくれたら、見捨てないでくれたら好きにしていいとおっしゃっています」
「じゃあ、それで。お願いします」
「でも、いいんですか? ここで一度神様の権限を返してしまうともうこの場所では権限を行使できなくなりますよ。ヘルプちゃんの権限では神様の力を返すことは出来ても与えることは出来ませんから」
「はい、それでいいです。構いません」
「分かりました。それでは天の使いの権限において、あなたの授かった権限を神様へと返納します」

 ヘルプちゃんは気が進まない様子だったが、あたしの考えを優先してくれた。
 彼女が杖を振るとあたしの体から光が飛び出し、あたしのレベルはコウと同じになった。
 服に込められた神様が付与した効果も無くなって、あたしの服はただのノーマルな魔法使いの服となった。でも、これで良かった。

「ありがとう、ヘルプちゃん」
「どういたしまして。ヘルプちゃんはあなたの旅を応援しています。神様も一緒です。ネクロマンサーの弱点は聖属性です。頑張ってください」
「うん! ありがとう、ヘルプちゃん」
「ではではー」

 これぐらいの手助けは構わないと判断したのだろう。ヘルプちゃんは最後にヒントを残して去っていった。
 聖属性か。今のあたしの手持ちの魔法にはないね。
 聖属性どころか今のあたしには隕石やフレアのような上級魔法の類も無かった。
 でも、これでいいと決めたんだ。あたしは自信を持って前に進んでいける。
 ゾンビと剣を交えながらコウが訊いてくる。

「ルミナ! 何をやったんだ!?」
「コウ、あたし、神様の代理を辞めたの! もう精霊じゃ無くなっちゃた。こんな普通のあたしだけどパーティーに入れてくれていいかな?」
「何言ってるんだ。ルミナはいつだって俺達の仲間だろ!」
「こいつが嫌だって断っても俺が仲間にしてやるから安心しな!」
「ルミナさん、決意をされたんですのね」
「うん。さあ、あたし達の戦いを始めるよ!」

 あたしは杖を掲げ、ゾンビの軍団に向かって高らかに呪文を詠唱した。
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