リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

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第34話 冒険を続けるよ

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 サード王国に平和が戻り、あたし達は城に招かれて歓迎パーティーを受けることになった。
 ツギノ村ではパーティーを受けそこなったあたしだけど、今回は受けることが出来たよ。
 みんな楽しそうに騒いでいて、あたしも楽しかった。
 ただ晩御飯の前だというのに、みんなにやたらと料理を勧められたのは困ったけど。
 自分の食べる物ぐらい自分で選べるよ。もしここで食べ過ぎて家の晩御飯が食べられなかったらどうしよう。
 友達に誘われて一緒に買い食いしてきたと言い訳しようかな。
 ごめんね、高嶺ちゃん。その時は口裏を合わせてね。あたしは今の内に心の中で唯一の友達に願っておいた。
 そんなあたしをサカネちゃんが不思議そうに見ていた。
 パーティーの席で王様達と話をした。
 ここから他の国に行くにはデッカイ山脈にあるハザマ山道を通らないといけないようだ。
 あたし達は次の目的地に向かうためにそのデッカイ山脈を越えるハザマ山道を通る許可を得て、その旅にサカネちゃんも同行してくれることになった。
 この国を救ってくれた恩返しをしたいそうだ。あたし達にとってもヒーラー職がいるのは助かるので断る理由はなかった。国王の薦めもあって、ありがたく来てもらうことにした。
 パーティーの後で王様は宿屋を手配してくれた。町一番の上等な宿屋だそうだ。
 あたし達は城に残るサカネちゃんに見送られ、その宿屋に向かった。
 立派な宿屋の天井をあたし達は見上げてしまう。

「立派な宿屋だねー」
「今日はここに泊まるんだな」
「立派過ぎて還って落ち着かないかもな」
「じゃあ、ディックは野宿すれば?」
「コウ、お前も言うようになったな?」
「もう二人とも。戦いが終わったばかりで喧嘩しないでよ」

 あたしはまた喧嘩しそうなコウとディックを宥める。もうペットが二人いるみたいだよ。家の犬は利口だけど。
 この二人には落ち着いて話し合う時間が必要だね。あたしと高嶺ちゃんが一緒に旅をして仲良くなれたように。
 あたしは自分は帰ることに決めた。どのみちもうすぐご飯の時間だろう。

「じゃあ、あたしは帰るから。二人とも仲良くするんだよ」
「え? ルミナは泊まっていかないのか?」
「うん、あたしには帰るところがあるからね」

 あたしの事情を知らないディックが驚いた顔を見せる。まあ、そこら辺の説明はコウに任せておけばいいだろう。これから時間はあるのだから。

「コウ、後の事をお願いね」
「ああ、ルミナの留守は勇者の俺に任せとけ!」
「二人とも仲良くするんだよ」

 あたしはまだ不満そうな二人に見送られ、自分の世界に帰っていった。



 さすがに連日で友達の家に泊まる言い訳は無理があると判断したのか、家に帰ると今日はお兄ちゃんも帰っていた。
 ご飯を食べてお風呂に入り、パジャマに着替えてからあたしはお兄ちゃんの部屋へ行って、事情を知る二人きりで話をすることにした。

「お兄ちゃん、向こうの世界ではどこに行ってたの?」
「お前はどこまで行ったんだ?」
「…………」

 前はお兄ちゃんから先に情報を提示された。だから今度はあたしの方から情報を言う事にした。

「あたし達はサード王国を救ったところだよ。もう、ネクロマンサーが強くて参ったよ」
「お前、ネクロマンサーなんかに苦戦したのか?」
「ええ!?」

 不満そうなあたしの顔を見たからだろう。お兄ちゃんはあたしからそのネクロマンサーの情報を聞いた上で教えてくれた。

「ネクロマンサーは使役できるアンデッドの数やサイズの合計の上限が決まっているんだ。ゲームの言葉で言えばコストって奴だな。前衛に人型サイズの遅いのが大勢いたなら後衛に小さい素早い奴がいてフォローしていると思った方がいいな。相手だって考えてパーティーを組んでいるんだから。お前だってこれぐらい考えればもっと上手く立ち回れただろ? ゾンビは全部で何体いたんだ?」
「えっと、それは……」

 そんなの覚えてないよ。ゾンビはいっぱいいたんだ。あたしの知っていることはそれだけだ。
 あたしの顔を見て、お兄ちゃんは言葉を続けた。

「何かネクロマンサーがネズミに化けていたヒントは無かったのか?」
「そう言えば普段はネズミ一匹通さない警備をしているけどその日は油断していたとか、下水道を通れるのはネズミぐらいとか言ってたような……」

 あたしの反応を見て、お兄ちゃんは今度は呆れたように息をついた。

「お前な、戦うならもっと戦場をよく見ろよ。ヒントもちゃんと提示されてるんじゃないか。まだまだ観察力が足りないな」
「むう、そんなこと言ったって」
「でも、頑張っているのは確かだな。旅は順調か。勝てて良かったじゃないか。お前が勇者を導くなら俺は魔王を導くのもいいかもな。その方がゲームがフェアになるかもしれない」
「もう、そんな冗談言わないでよ。ネクロマンサーを倒すのにも苦労したんだから」
「ハハハ、そろそろ自分の部屋に戻れよ。お前はお前でやる事があるんだろ。俺もゲームがしたいんだからな」
「うん」

 そして、あたしは自分の部屋に戻り、学校の宿題をすることにした。


 学校に行けば友達と会うことが出来る。そう思うと学校に行くことも少しは楽しいと思えるかもね。
 あたしは休み時間に高嶺ちゃんと話をすることにした。
 みんなの耳のあるところで向こうの世界の事を直接話すことは出来ないけど、ゲームとしての話ならいいよね。あたしは新しい誤魔化しのスキルを手に入れたようだ。
 あたしはゲームっぽく向こうの世界の冒険の話をした。真面目な彼女は興味深そうに聞いてくれた。

「それで次はハザマ山道に行くことにしましたのね?」
「うん。あれ? ハザマ山道のこと言ったっけ?」

 あたし、デッカイ山脈を越えることにしたとしか言わなかったと思うんだけど。彼女は冷静に頷いた。

「ええ、言いましたわよ」
「そっか」

 どうやら言ったようだ。あたしにはまだまだ注意力が足りない。
 お兄ちゃんに言われた事も反省して、あたしはまたいつか高嶺ちゃんと冒険できたらいいなと思ったのだった。


 帰宅して家の愛犬のコウに挨拶したあたしは自室に向かって今日もファンタジアワールドに転移する。
 お馴染みの天界へとやってきたあたしを神様とヘルプちゃんは温かく迎えてくれた。

「今日も行ってきてくれるのじゃな」
「うん、行ってくるよ」
「頑張ってきてくださいー」

 さて、ここで一つ言っておくことがあるね。
 一度は神様の代理としての権限を返却したあたしだったんだけど、いろいろ考えて神様に再びそれを与えてもらったんだ。
 あたしはやはり導きたいのだ。コウの冒険を。その為には必要な力だった。
 あたしは転送ポータルに乗って地上に向かう。これからもコウの冒険を導くために。精霊のルミナとして。

「それじゃ、行ってきます」
「うむ、気を付けてな」
「困った時はいつでもこのヘルプちゃんを呼んでください」
「はい」

 優しい二人に見送られて、あたしは前に冒険を中断したサード王国へと降りていった。
 さあ、あたし達の冒険が再び始まるよ。


 王国の宿屋一階のロビーは朝からお客さん達で賑わっていた。その中に出発前からお互いを牽制しあってる二人、コウとディックがいた。
 やれやれ、二人は仲良く出来ていたのかな。あたしは近づいて話しかけることにした。

「おはよう、二人とも。昨日は仲良く出来た?」
「ルミナ! ああ、俺が勇者として仲間に気を使ってやったからな」
「俺が大人としてお前に気を使ってやったんだろ。ルミナ、今日はどこに行くんだ?」
「デッカイ山脈を越えるんだよ。その前にまずは城にサカネちゃんを迎えに行こう」

 宿屋で合流して城に向かうあたし達。サカネちゃんはすでに身支度を整えて城門の前で待っていた。

「おはようございます、皆さん。本日は絶好の山登り日和ですわね」
「うん。みんな準備は出来た? 出来たなら出発するよ」

 あたし達は道具や装備の確認をして、城のみんなに見送られて旅立った。


 前はサンバン谷に入ったデッカイ山脈。今度はハザマ山道から入って山越えのルートを進むことにする。
 入口で見張りの兵士と挨拶して、あたし達は険しい山道を登っていく。

「ほら、みんな頑張って」
「ルミナは元気だなあ」
「さすがは俺の女だぜ」
「口が効けるならまだ頑張れるね」

 あたしが元気なのは特別な権限を持っているからで現実ならこうはいかないんだけど。今は優越感に浸っておこう。

「ダメージを受けたらすぐに回復しますから、安心してください」

 サカネちゃんからのありがたい申し出。
 回復魔法で疲れを取ることも出来るだろうかとあたしは考えるが……必要は無いよね。山を登るだけなら。
 必要な場面ならサカネちゃんが使ってくれるだろう。あたしは判断を任せることにする。

 あたし達は山道を登っていく。ふと、眺めの良い展望台のような場所に出た。あたしは道を逸れてそこに立った。
 そこからの眺めは良く、サード王国や遠くの海に浮かぶチイサナ島まで見ることが出来た。

「これが今まであたし達の旅してきた場所なんだ」
「山を越えると何があるんだろうな」
「そこまでは俺も行ったことがないぜ」
「山頂に行けば村があるそうですよ」
「じゃあ、まずはそこを目指そう」
「そこで情報収集をするんだな」
「店も見たいね」
「宿屋があるといいな」
「お茶ぐらいは出してもらえると思いますわ」

 あたし達は再び山道を歩き出す。みんなとともに歩いていく。

「あたしは冒険を続けるよ」


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