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第6話 転校生、月丘有美
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やがて学校に辿り着く。この高校は進学校として有名だが、見た感じでは普通の学校と変わりがない。
あえていえば設備が充実していて敷地がゆったりとして広くて校舎が綺麗ということぐらいだろうか。
僕は校門をくぐって昇降口へ向かう。
「ん?」
何か違和感を感じたが、それが何か分からない。気のせいだろうと思って気にせず教室へ向かった。
「おはよー」
「おう、おはよう」
僕が声を掛けるとクラスメイト達は挨拶を返してくれた。こんな光景も中学の頃と変わらない。そして、そのまま談笑を始める。
いつも通りの光景だった。しかし、やはり何かがおかしい気がした。
「なあ、何かおかしくないか?」
「は? いきなりどうしたんだよ」
「いや、何かが変なんだ」
「そうか? 特に何も変わってないと思うけど」
「何かがあってもこの学校には最新の防犯設備があるから大丈夫だよ」
「うーん、そうか」
確かに言われてみれば変わった所はないのかもしれない。でも、何かが違う。何か……
「あ」
「今度はどうした?」
「いや、何でもない」
分かった。そうか、そういうことか。僕はようやく理解した。
この学校にはメイドさんがいるのだ。メアリ以外の。あのチラシを見て応募してきたのはメアリだけではなかったんだ。
彼女達はおそらく学校ではメイド服ではなく制服を着ているだろうから分からなかっただけで、メアリを見ていた僕ならメイドの佇まいや雰囲気というのが何となく理解できる。多分。
原因に気づいた僕はそれとなくクラスメイトに聞いてみる事にした。
「なあ、この学校ってメイドさんが働いているよな?」
「え?」
僕が質問をぶつけてみると皆が驚いた顔をした。まるで何言ってるんだこいつと言ったような反応だ。まさか……
「お前知らないのかよ」
「何を?」
「この学校が配ってたメイドさんを募集するって案内だよ。あれに応募してきた人がこのクラスにも何人かいるんじゃないか」
「ええ!?」
クラスメイト達は衝撃を受けていた。まるでそんな話は初めて聞いたとばかりに。
何でそんなに驚いているんだろう。学校が配っていた案内に載っていた事なのに。
まあ、扱いが小さかったし僕もメアリに見せられて初めて知ったんだけど。
僕は不安を押し殺すようにあえてオーバーに言ってやる。
「マジでみんな知らなかったの? 学校の案内に載ってたんだけど。小さくて気づきにくかったけどさ」
「ああ……」
「知らなかったな」
「ああいうの面倒だからみんな読まないよ」
「お前は真面目なんだな」
「まあね……」
僕は力無く苦笑するしかなかった。どうやら本当に誰も知らなかったらしい。ということは……
(あの案内はメアリの自作自演だった? いや、他にもメイドさんがいるという事は誰か選ばれた者にだけ配布されているのだろうか。学校の目的が分からないな)
僕は少し悩んでいた。しかし、クラスメイト達は気楽なものだった。
「つまり、うちのクラスの誰かもそのメイドさんかもしれないっていうことか」
「誰がそうなんだろうな」
「あの子なんかそれっぽいんじゃないか」
「おい、やめろよ。うっ」
その瞬間、何だか殺気のような物を感じた。それはクラスメイト達も同じだったようで、全員一斉に口をつぐんで声を潜めた。
「気のせいか?」
「多分な……」
「でも、嫌な予感がするぜ……」
僕たちは顔を見合わせると、すぐに視線を逸らして黙々と授業の準備を始めた。これ以上余計な事を喋るのは危険だと本能的に察したのである。
やがてチャイムが鳴って朝のホームルームが始まる。その頃には緊張していた空気も元に戻っていた。いったいあれは何だったんだろう。
僕は疑問に思いながらも深く考えないようにして先生の話を聞くことにした。
先生はいきなりクラスのみんなが騒ぐような事を言った。
「今日は転校生を紹介するぞ」
「おお!」
「女子ですか!?」
男子生徒達が盛り上がる。もちろん僕も内心ではテンションが上がっていたが、それを表に出すわけにもいかない。
僕はクールに澄ました顔で窓の外を眺めながら考えていた。
(そう言えばメアリはまだ来ていないな。別のクラスなんだろうか?)
僕は可能性を考えてみた。もしかしてあの案内は政府の選んだ人間に配られた物でこの学校は密かにスパイを育成していた。メイド募集と偽っていたのは人々を油断させるカモフラージュか何かの暗号だった?
僕自身は何も知らないけど僕の両親は海外で何か大きなプロジェクトに携わっているようだし、メアリは何か目的があって僕に近づいてきたのかもしれない。
でも、それだと彼女が自分から案内を見せてきた理由が分からない。油断させる罠だったのかな。でも、普通の女の子にしか見えないんだよな。
彼女は実に優秀なスパイになれそうですよ、学園長。
そんな事を考えていると教室のざわめきが大きくなった。どうやら転校生が入ってきたようだ。どんな人なのか興味はあるけど振り向く勇気はなかった。
だって、このタイミングだと絶対に来るのメアリじゃん。お互いに気まずくなるのが目に見えてしまうのだ。
「はい、静かにしろよー」
先生の声が響くが生徒たちの興奮を抑えることは出来ないようだった。まあ、無理もないよね。メアリは可愛いから男子が喜ぶのは当然だ。小動物っぽい愛嬌もあるから女子にも人気が出るかもしれない。
やがてチョークで名前を書き綴る音が聞こえてから女の子の可愛いちょっと緊張した声が聞こえた。だが……
「初めまして、月丘有美(つきおか ありみ)といいます。皆さんよろしくお願いします」
「え!?」
メアリじゃないの!? 僕は驚いて教壇の方を見て……固まった。
そこに立っていたのは明らかにメアリだった。服装は見慣れたメイド服ではなくこの学校の制服でなぜか変装するように髪形を変えて眼鏡まで掛けていたけど明らかにメアリだった。
僕が彼女を見間違えるはずがない。でも、なんだって変装して名前まで変えているんだろう。
もしかしてこっちの方が本名なんだろうか。メアリというのは彼女のスパイとしてのコードネームで……
「はい、じゃあ、月丘さんの席は……そうだな。折田の隣でいいか」
「はい」
メアリは返事をするとこちらに向かって歩いてくる。僕は混乱しながら彼女の動きを目で追う事しか出来なかった。
やがてメアリは自分の机に鞄を置くと、隣の席の僕に話しかけてくる。小声で他の人に聞こえないように。
「なんでご主人様の隣なんですか」
「僕の方が聞きたいよ」
良かった。彼女はやはり僕の知っているメアリだった。僕は安心感に包まれた。
彼女は少し考えてから注意するように言った。
「学校では仕事の事は話さないでください」
「分かった」
どういうわけか学校の案内にも載っている事なのにメイドの事は話してはいけないようだ。そんな空気を感じる。
理由は分からないが、メアリがそう言うのなら僕としては従おうと思うのだった。
「分からない事があったら何でも聞いてよ」
「はい」
こうして僕たちの日常が始まった。
あえていえば設備が充実していて敷地がゆったりとして広くて校舎が綺麗ということぐらいだろうか。
僕は校門をくぐって昇降口へ向かう。
「ん?」
何か違和感を感じたが、それが何か分からない。気のせいだろうと思って気にせず教室へ向かった。
「おはよー」
「おう、おはよう」
僕が声を掛けるとクラスメイト達は挨拶を返してくれた。こんな光景も中学の頃と変わらない。そして、そのまま談笑を始める。
いつも通りの光景だった。しかし、やはり何かがおかしい気がした。
「なあ、何かおかしくないか?」
「は? いきなりどうしたんだよ」
「いや、何かが変なんだ」
「そうか? 特に何も変わってないと思うけど」
「何かがあってもこの学校には最新の防犯設備があるから大丈夫だよ」
「うーん、そうか」
確かに言われてみれば変わった所はないのかもしれない。でも、何かが違う。何か……
「あ」
「今度はどうした?」
「いや、何でもない」
分かった。そうか、そういうことか。僕はようやく理解した。
この学校にはメイドさんがいるのだ。メアリ以外の。あのチラシを見て応募してきたのはメアリだけではなかったんだ。
彼女達はおそらく学校ではメイド服ではなく制服を着ているだろうから分からなかっただけで、メアリを見ていた僕ならメイドの佇まいや雰囲気というのが何となく理解できる。多分。
原因に気づいた僕はそれとなくクラスメイトに聞いてみる事にした。
「なあ、この学校ってメイドさんが働いているよな?」
「え?」
僕が質問をぶつけてみると皆が驚いた顔をした。まるで何言ってるんだこいつと言ったような反応だ。まさか……
「お前知らないのかよ」
「何を?」
「この学校が配ってたメイドさんを募集するって案内だよ。あれに応募してきた人がこのクラスにも何人かいるんじゃないか」
「ええ!?」
クラスメイト達は衝撃を受けていた。まるでそんな話は初めて聞いたとばかりに。
何でそんなに驚いているんだろう。学校が配っていた案内に載っていた事なのに。
まあ、扱いが小さかったし僕もメアリに見せられて初めて知ったんだけど。
僕は不安を押し殺すようにあえてオーバーに言ってやる。
「マジでみんな知らなかったの? 学校の案内に載ってたんだけど。小さくて気づきにくかったけどさ」
「ああ……」
「知らなかったな」
「ああいうの面倒だからみんな読まないよ」
「お前は真面目なんだな」
「まあね……」
僕は力無く苦笑するしかなかった。どうやら本当に誰も知らなかったらしい。ということは……
(あの案内はメアリの自作自演だった? いや、他にもメイドさんがいるという事は誰か選ばれた者にだけ配布されているのだろうか。学校の目的が分からないな)
僕は少し悩んでいた。しかし、クラスメイト達は気楽なものだった。
「つまり、うちのクラスの誰かもそのメイドさんかもしれないっていうことか」
「誰がそうなんだろうな」
「あの子なんかそれっぽいんじゃないか」
「おい、やめろよ。うっ」
その瞬間、何だか殺気のような物を感じた。それはクラスメイト達も同じだったようで、全員一斉に口をつぐんで声を潜めた。
「気のせいか?」
「多分な……」
「でも、嫌な予感がするぜ……」
僕たちは顔を見合わせると、すぐに視線を逸らして黙々と授業の準備を始めた。これ以上余計な事を喋るのは危険だと本能的に察したのである。
やがてチャイムが鳴って朝のホームルームが始まる。その頃には緊張していた空気も元に戻っていた。いったいあれは何だったんだろう。
僕は疑問に思いながらも深く考えないようにして先生の話を聞くことにした。
先生はいきなりクラスのみんなが騒ぐような事を言った。
「今日は転校生を紹介するぞ」
「おお!」
「女子ですか!?」
男子生徒達が盛り上がる。もちろん僕も内心ではテンションが上がっていたが、それを表に出すわけにもいかない。
僕はクールに澄ました顔で窓の外を眺めながら考えていた。
(そう言えばメアリはまだ来ていないな。別のクラスなんだろうか?)
僕は可能性を考えてみた。もしかしてあの案内は政府の選んだ人間に配られた物でこの学校は密かにスパイを育成していた。メイド募集と偽っていたのは人々を油断させるカモフラージュか何かの暗号だった?
僕自身は何も知らないけど僕の両親は海外で何か大きなプロジェクトに携わっているようだし、メアリは何か目的があって僕に近づいてきたのかもしれない。
でも、それだと彼女が自分から案内を見せてきた理由が分からない。油断させる罠だったのかな。でも、普通の女の子にしか見えないんだよな。
彼女は実に優秀なスパイになれそうですよ、学園長。
そんな事を考えていると教室のざわめきが大きくなった。どうやら転校生が入ってきたようだ。どんな人なのか興味はあるけど振り向く勇気はなかった。
だって、このタイミングだと絶対に来るのメアリじゃん。お互いに気まずくなるのが目に見えてしまうのだ。
「はい、静かにしろよー」
先生の声が響くが生徒たちの興奮を抑えることは出来ないようだった。まあ、無理もないよね。メアリは可愛いから男子が喜ぶのは当然だ。小動物っぽい愛嬌もあるから女子にも人気が出るかもしれない。
やがてチョークで名前を書き綴る音が聞こえてから女の子の可愛いちょっと緊張した声が聞こえた。だが……
「初めまして、月丘有美(つきおか ありみ)といいます。皆さんよろしくお願いします」
「え!?」
メアリじゃないの!? 僕は驚いて教壇の方を見て……固まった。
そこに立っていたのは明らかにメアリだった。服装は見慣れたメイド服ではなくこの学校の制服でなぜか変装するように髪形を変えて眼鏡まで掛けていたけど明らかにメアリだった。
僕が彼女を見間違えるはずがない。でも、なんだって変装して名前まで変えているんだろう。
もしかしてこっちの方が本名なんだろうか。メアリというのは彼女のスパイとしてのコードネームで……
「はい、じゃあ、月丘さんの席は……そうだな。折田の隣でいいか」
「はい」
メアリは返事をするとこちらに向かって歩いてくる。僕は混乱しながら彼女の動きを目で追う事しか出来なかった。
やがてメアリは自分の机に鞄を置くと、隣の席の僕に話しかけてくる。小声で他の人に聞こえないように。
「なんでご主人様の隣なんですか」
「僕の方が聞きたいよ」
良かった。彼女はやはり僕の知っているメアリだった。僕は安心感に包まれた。
彼女は少し考えてから注意するように言った。
「学校では仕事の事は話さないでください」
「分かった」
どういうわけか学校の案内にも載っている事なのにメイドの事は話してはいけないようだ。そんな空気を感じる。
理由は分からないが、メアリがそう言うのなら僕としては従おうと思うのだった。
「分からない事があったら何でも聞いてよ」
「はい」
こうして僕たちの日常が始まった。
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