5 / 10
第5話 彼女のいる朝
しおりを挟む
翌朝目が覚めるとメアリの姿はなかった。もう起きたのだろうか。あるいは青少年の願望が見せた夢だったのかもしれない。
僕は体を起こして伸びをする。そして、ベッドから降りて部屋を出る事にした。
「おはようございます」
リビングに行くとメアリは朝食を作っていた。昨日の事を思いだして僕は慌てて挨拶を返す。
「あ、ああ、おはよう。メアリ」
「今朝はフレンチトーストにしてみました」
メアリは一緒に寝た事は気にしていないようだ。いつも通りの彼女だった。
僕もご主人様としてしっかりしないといけないな。落ち着いて席に座る。
テーブルには焼きたてのパンが置かれていた。香ばしい匂いだ。
「良い香りだね」
「はい、どうぞ召し上がってください」
「じゃあ、早速」
ナイフを入れるとサクッとした音がして中から湯気が立ち上った。口に運ぶと甘さが広がる。とても美味しい。
彼女の料理の腕は僕以上かもしれないな。あるいは彼女の作ってくれた料理だからそう感じるのかもしれない。
夢中で食べていると目の前に座るメアリと目が合った。彼女はニコニコしながらこちらを見ている。見られていると食べにくいな。
それでも何とか完食し一息つくとメアリは言った。
「おかわりありますよ」
「いや、もういらないよ」
「そうですか」
こころもち残念そうに言う。いやいや、確かにこれは美味しいけど朝からそんなには食べられないよ。それにのんびりしていると学校に行く時間になってしまう。
「ご馳走さま。とても美味しかったよ」
「お粗末様です」
メアリは笑顔で答えた。僕は食器を流し台に置いてから学校に行く準備を整える。
制服を着て鞄を持って準備完了だ。
「それでは、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様。お帰りをお待ちしております」
こうして僕は家を出ようとして……メイド服のまま玄関に立っているメアリを振り返った。
「……って、メアリも一緒に学校に行くんじゃないの?」
確か昨日の話では働きながら同じ学校にも行くと言っていたはずだ。
「いえ、わたしは片づけを終えてから向かいますので」
「そうなんだ」
僕は少し考えてから言った。
「じゃあ、手伝うから一緒に行こうよ」
「いえ、それはお断りします」
メアリは首を横に振って否定した。
「どうして?」
「ご主人様に安心していただく事がメイドの仕事ですので、邪魔をするわけにはいきませんから」
「別に邪魔にはならないと思うけど」
「なります。ご主人様は安心して余裕を持って登校するべきです」
「う~ん……そうかぁ」
どうしたものか。強引に手伝うわけにもいかないし。きっと彼女は機嫌を損ねるだろう。
僕が悩んでいるとメアリが急かしてきた。
「ほら、早くお出でになってください。ご主人様が行ってくれないとわたしも片づけが出来ませんから」
「あ、うん」
メアリがそう言うので、僕は靴を履いて外に出た。すると彼女は玄関の前でお辞儀をして言った。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、行ってくるよ」
僕はメアリに手を振ると歩き出した。一人で通学するのは何だか懐かしい気分だ。
それだけメアリと一緒にいるのに慣れていたのかもしれない。いや、慣れたというより彼女と一緒にいると安心できるという感じかな。
僕はふと後ろを振り返る。もう家の見えない場所まで来たので見えるはずがないんだけど。
メアリの姿はまだ見えない。まだ家で片づけをやっているんだろうか。
引き返して手伝ってやりたい気持ちも湧いてきたが、今自分のやる事は学校に行く事だ。メアリがそう望んでいたから僕は前を向いて歩いて行く。
春の通学路は太陽が明るくて眩しかった。
僕は体を起こして伸びをする。そして、ベッドから降りて部屋を出る事にした。
「おはようございます」
リビングに行くとメアリは朝食を作っていた。昨日の事を思いだして僕は慌てて挨拶を返す。
「あ、ああ、おはよう。メアリ」
「今朝はフレンチトーストにしてみました」
メアリは一緒に寝た事は気にしていないようだ。いつも通りの彼女だった。
僕もご主人様としてしっかりしないといけないな。落ち着いて席に座る。
テーブルには焼きたてのパンが置かれていた。香ばしい匂いだ。
「良い香りだね」
「はい、どうぞ召し上がってください」
「じゃあ、早速」
ナイフを入れるとサクッとした音がして中から湯気が立ち上った。口に運ぶと甘さが広がる。とても美味しい。
彼女の料理の腕は僕以上かもしれないな。あるいは彼女の作ってくれた料理だからそう感じるのかもしれない。
夢中で食べていると目の前に座るメアリと目が合った。彼女はニコニコしながらこちらを見ている。見られていると食べにくいな。
それでも何とか完食し一息つくとメアリは言った。
「おかわりありますよ」
「いや、もういらないよ」
「そうですか」
こころもち残念そうに言う。いやいや、確かにこれは美味しいけど朝からそんなには食べられないよ。それにのんびりしていると学校に行く時間になってしまう。
「ご馳走さま。とても美味しかったよ」
「お粗末様です」
メアリは笑顔で答えた。僕は食器を流し台に置いてから学校に行く準備を整える。
制服を着て鞄を持って準備完了だ。
「それでは、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、ご主人様。お帰りをお待ちしております」
こうして僕は家を出ようとして……メイド服のまま玄関に立っているメアリを振り返った。
「……って、メアリも一緒に学校に行くんじゃないの?」
確か昨日の話では働きながら同じ学校にも行くと言っていたはずだ。
「いえ、わたしは片づけを終えてから向かいますので」
「そうなんだ」
僕は少し考えてから言った。
「じゃあ、手伝うから一緒に行こうよ」
「いえ、それはお断りします」
メアリは首を横に振って否定した。
「どうして?」
「ご主人様に安心していただく事がメイドの仕事ですので、邪魔をするわけにはいきませんから」
「別に邪魔にはならないと思うけど」
「なります。ご主人様は安心して余裕を持って登校するべきです」
「う~ん……そうかぁ」
どうしたものか。強引に手伝うわけにもいかないし。きっと彼女は機嫌を損ねるだろう。
僕が悩んでいるとメアリが急かしてきた。
「ほら、早くお出でになってください。ご主人様が行ってくれないとわたしも片づけが出来ませんから」
「あ、うん」
メアリがそう言うので、僕は靴を履いて外に出た。すると彼女は玄関の前でお辞儀をして言った。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、行ってくるよ」
僕はメアリに手を振ると歩き出した。一人で通学するのは何だか懐かしい気分だ。
それだけメアリと一緒にいるのに慣れていたのかもしれない。いや、慣れたというより彼女と一緒にいると安心できるという感じかな。
僕はふと後ろを振り返る。もう家の見えない場所まで来たので見えるはずがないんだけど。
メアリの姿はまだ見えない。まだ家で片づけをやっているんだろうか。
引き返して手伝ってやりたい気持ちも湧いてきたが、今自分のやる事は学校に行く事だ。メアリがそう望んでいたから僕は前を向いて歩いて行く。
春の通学路は太陽が明るくて眩しかった。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる