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第4話 彼女と暮らす生活
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「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
二人で手を合わせると食器を流し台へと運ぶ。メアリは自分一人で洗うと言ってくれたが、来たばかりの彼女に任せるのも心配だったので一緒に並んで洗い物をした。
彼女の家事スキルはなかなかの物で心配は杞憂だったが。
「ご主人様は優しいんですね」
「ん?」
「突然押しかけてきたわたしに、こんなによくしてくれて」
「気にしないでいいよ。僕が好きでしている事なんだから」
「でも、ご主人様には奥様がいらっしゃるんですよね」
「え!? いないよ!? 僕、学生だよ!?」
「あ、そうですよね。あまりにこの家を堂々と取り仕切っておられるので旦那様かと思ってしまいました」
「何度も言うけどここ普通の家だからね!?」
メアリは不思議そうな顔をしていた。そんなに僕の生活はおかしいのだろうか?
「でも、ご主人様のお陰で安心しました」
「え? どうして?」
「ここに来る前はどんな人にお仕えするんだろうと不安でした。でも、ご主人様みたいな人が主だと分かって安心しました」
「そうか……ありがとう」
僕は苦笑しながら言った。まさかお礼を言われるとは思わなかったからだ。
「僕の方こそ君のような人に来てもらえて嬉しいよ」
「どういたしまして」
メアリは笑顔で答えてくれた。こうして話してみて思ったのだが、彼女はとても素直で良い子みたいだ。まだ出会って数時間しか経っていないけれど、彼女が悪意を持って近づいて来たわけじゃない事は分かっている。
彼女を追い返さずに家に上げた自分の判断は間違っていなかったようだ。
「それじゃあそろそろお風呂に入ろうかな」
「はい、もう入れてありますのでごゆっくりどうぞ」
「覗かないでね」
冗談っぽく言ったつもりなのだが、メアリは真面目な顔で考え込んでいた。
「……」
「あの、冗談だからね」
「はっ! あ、当たり前じゃないですか! 何言っているんですかご主人様!」
「あはは……」
本当に分っているのかなぁ。何だか少し心配になってくる。まあ、そこまで警戒する必要はないのかもしれないけれど。
「じゃあ、お言葉に甘えて入ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
僕はお風呂場へと向かった。
脱衣所には綺麗に畳まれた着替えが置かれている。自分で出してもよかったんだけど、これはメアリが用意してくれたのだろう。ありがたく使わせてもらうことにする。
僕は服を脱ぎ浴室に入った。
「ふぅ~気持ちいいなぁ……」
一人きりになった事でつい独り言が出てしまう。やはり一人は落ち着くものだ。別にメアリの事が気に入らないわけではないんだけど。
そう思いながら湯船に浸かっていると、ふとメアリの事を思い出してしまった。今頃何をしているだろう。彼女も安心してここで暮らしてくれるといいんだけど……。
そういえば彼女はどんな家に住んでいたんだろう。聞いておけばよかったかな。
「……」
まあいいか。別に聞く必要もないよね。話したくなったら彼女から話してくれるだろう。
しかし、メイドさんか……メイド喫茶とかは見たことあるけど、実際に家に来てくれるとは思ってなかったな。メイド服を着た女の子が家の中を掃除したり洗濯をしたり、料理を作ってくれる。考えただけでも素晴らしいじゃないか。
そんな事を考えながらしばらく浸かっていた頃、メアリが声を掛けてきた。
「あ、ご主人様、お湯加減はいかがですか?」
「ああ、うん。丁度良いぐらいだよ」
「それは良かったです。では、お背中をお流しましょうか?」
「いや、大丈夫だから! すぐ出るから待ってて!」
「あ、いえ、急かしているわけではなくてですね。どうぞごゆっくりお入りになっていてください」
「う、うん」
そう言ってメアリの気配は風のように消え去った。ここは断って良かったんだよな?
いきなりあんな事を言われたのでビックリしてしまった。
確かにメイドとして何かしらの奉仕をするのは当然だと思う。ただ、僕としてはやはり健全にお付き合いしたいのだ。そういう関係になるのはまだ早いと思う。
「……って、彼女は背中を流すと言ってくれただけなのに僕の方が考え過ぎなのか。もうのぼせそうだし早く出よう」
そう言ってお風呂から出た僕。するとそこにはバスタオルが用意されていた。これも彼女が用意してくれたのだろう。
「ありがとう」
僕はそれを手に取って体を拭いた。下着を着てパジャマを身に着ける。そしてリビングに戻った僕にメアリが言った。
「お帰りなさいませ。それではお布団を敷いてきますので少々お待ちくださいね」
「あ、僕も行くよ」
「はい」
今日は何だか眠くてあくびが出てしまう。僕達は一緒に寝室へと移動する。
メアリは押入れから布団を取り出して広げた。シーツを掛け枕を置き掛け布団を掛ける。あっという間に寝床が完成した。実に手際が良い。
僕が感心していると彼女は部屋の照明を消してきた。部屋が薄暗くなるとベッド脇までやってくるメアリ。
「では、ご主人様。メアリはあちらの部屋で休ませてもらいますね。何かありましたら声をお掛けください」
「うん、ありがとう。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
メアリはそう言い残して去るかと思えたが、何かを考えるように立ち止まった。
僕はわけも分からずドキドキしてしまう。思い切って声を掛けてみる。
「どうしたの?」
「え、あの、その、一緒に寝なくていいですか? ご主人様」
「え?」
一瞬思考が停止した。彼女はいったい何のサービスをしてくれるというのだろう。
期待が伝わってしまったようで彼女は慌てて弁解してきた。
「いや、その、変なお誘いをしているわけではありませんよ? ただ、前の家ではみんな同じ部屋で一緒に寝ていたので一人は何か落ち着かないというか、いいのかなって……」
「そ、そうだったんだ。僕は君が良ければ構わないよ」
来たばかりの家で一人は不安ということだろうか。僕としては彼女の自由にして構わないと思う。下手に断って機嫌を損なわれても困るしね。
それに人の頼みを断るというのはどうも苦手なのだ。人付き合いが下手ともいう。
僕はドキドキしていたが、彼女の表情がパッと明るくなったので安心した。
「本当にご主人様の部屋でご一緒していいんですか?」
「うん、いいよ。そんなたいした部屋じゃないけどね」
「いえいえ、そんなご謙遜を。でも、本当に良いんですか?」
「う、うん」
僕が答えるとメアリは嬉しそうな顔で近寄ってきた。
「わーい! ベッドだー」
そしてそのままベッドにダイブしてくる。僕の隣に。
「えへへ、やっぱりご主人様は優しいです。これがベッドなんですね。家の布団と柔らかさが違う」
「ちょ、ちょっと、近いよ。ここで寝るの?」
「え? はい、駄目ですか?」
メアリは無邪気な顔でこちらを見つめてくる。こんなの断れないよ。
「いや、駄目じゃないけどさ」
「やったー!」
メアリははしゃいでいた。どうやら僕の方が布団を持って来ないといけないようだ。まあ、いいか。彼女が喜んでいるならそれで。
僕はベッドから下りようとするのだが……
「では、ご主人様。隣失礼します。お休みなさい」
「ああ、お休み、メアリ。あ、もう寝た」
メアリは隣に入るとすぐに眠ってしまった。彼女も初めて来た家で疲れていたのかもしれない。
でも、そこにいられると僕が出られないんだけど。反対側は壁なのだ。
眠った彼女を起こすのも可哀想だし仕方ない。僕は諦めてここで一緒に眠ることにした。
ドキドキする。僕はなんで女の子と一緒に寝ているんだろう。
緊張しながら横を見ると、メアリの無防備な寝顔があった。思わず見惚れてしまう。可愛い……こんな子が僕の家にいるなんて信じられないよな。神様に感謝しないと。
「んん……」
メアリは寝返りを打った。彼女の吐息が首筋にかかる。
ドキッとした。心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。このままじゃ眠れそうにない。でも、寝ないと。
僕は落ち着いて羊を数える。
「羊が一匹、二匹、三匹……」
「ん……ご主人様……」
「え!?」
起きてる!? と思ったけど違った。どうやら寝言らしい。
「羊さんいっぱいいて可愛いですよね……むにゃ……」
「……」
僕は黙って眠ることにした。
「お粗末様でした」
二人で手を合わせると食器を流し台へと運ぶ。メアリは自分一人で洗うと言ってくれたが、来たばかりの彼女に任せるのも心配だったので一緒に並んで洗い物をした。
彼女の家事スキルはなかなかの物で心配は杞憂だったが。
「ご主人様は優しいんですね」
「ん?」
「突然押しかけてきたわたしに、こんなによくしてくれて」
「気にしないでいいよ。僕が好きでしている事なんだから」
「でも、ご主人様には奥様がいらっしゃるんですよね」
「え!? いないよ!? 僕、学生だよ!?」
「あ、そうですよね。あまりにこの家を堂々と取り仕切っておられるので旦那様かと思ってしまいました」
「何度も言うけどここ普通の家だからね!?」
メアリは不思議そうな顔をしていた。そんなに僕の生活はおかしいのだろうか?
「でも、ご主人様のお陰で安心しました」
「え? どうして?」
「ここに来る前はどんな人にお仕えするんだろうと不安でした。でも、ご主人様みたいな人が主だと分かって安心しました」
「そうか……ありがとう」
僕は苦笑しながら言った。まさかお礼を言われるとは思わなかったからだ。
「僕の方こそ君のような人に来てもらえて嬉しいよ」
「どういたしまして」
メアリは笑顔で答えてくれた。こうして話してみて思ったのだが、彼女はとても素直で良い子みたいだ。まだ出会って数時間しか経っていないけれど、彼女が悪意を持って近づいて来たわけじゃない事は分かっている。
彼女を追い返さずに家に上げた自分の判断は間違っていなかったようだ。
「それじゃあそろそろお風呂に入ろうかな」
「はい、もう入れてありますのでごゆっくりどうぞ」
「覗かないでね」
冗談っぽく言ったつもりなのだが、メアリは真面目な顔で考え込んでいた。
「……」
「あの、冗談だからね」
「はっ! あ、当たり前じゃないですか! 何言っているんですかご主人様!」
「あはは……」
本当に分っているのかなぁ。何だか少し心配になってくる。まあ、そこまで警戒する必要はないのかもしれないけれど。
「じゃあ、お言葉に甘えて入ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」
僕はお風呂場へと向かった。
脱衣所には綺麗に畳まれた着替えが置かれている。自分で出してもよかったんだけど、これはメアリが用意してくれたのだろう。ありがたく使わせてもらうことにする。
僕は服を脱ぎ浴室に入った。
「ふぅ~気持ちいいなぁ……」
一人きりになった事でつい独り言が出てしまう。やはり一人は落ち着くものだ。別にメアリの事が気に入らないわけではないんだけど。
そう思いながら湯船に浸かっていると、ふとメアリの事を思い出してしまった。今頃何をしているだろう。彼女も安心してここで暮らしてくれるといいんだけど……。
そういえば彼女はどんな家に住んでいたんだろう。聞いておけばよかったかな。
「……」
まあいいか。別に聞く必要もないよね。話したくなったら彼女から話してくれるだろう。
しかし、メイドさんか……メイド喫茶とかは見たことあるけど、実際に家に来てくれるとは思ってなかったな。メイド服を着た女の子が家の中を掃除したり洗濯をしたり、料理を作ってくれる。考えただけでも素晴らしいじゃないか。
そんな事を考えながらしばらく浸かっていた頃、メアリが声を掛けてきた。
「あ、ご主人様、お湯加減はいかがですか?」
「ああ、うん。丁度良いぐらいだよ」
「それは良かったです。では、お背中をお流しましょうか?」
「いや、大丈夫だから! すぐ出るから待ってて!」
「あ、いえ、急かしているわけではなくてですね。どうぞごゆっくりお入りになっていてください」
「う、うん」
そう言ってメアリの気配は風のように消え去った。ここは断って良かったんだよな?
いきなりあんな事を言われたのでビックリしてしまった。
確かにメイドとして何かしらの奉仕をするのは当然だと思う。ただ、僕としてはやはり健全にお付き合いしたいのだ。そういう関係になるのはまだ早いと思う。
「……って、彼女は背中を流すと言ってくれただけなのに僕の方が考え過ぎなのか。もうのぼせそうだし早く出よう」
そう言ってお風呂から出た僕。するとそこにはバスタオルが用意されていた。これも彼女が用意してくれたのだろう。
「ありがとう」
僕はそれを手に取って体を拭いた。下着を着てパジャマを身に着ける。そしてリビングに戻った僕にメアリが言った。
「お帰りなさいませ。それではお布団を敷いてきますので少々お待ちくださいね」
「あ、僕も行くよ」
「はい」
今日は何だか眠くてあくびが出てしまう。僕達は一緒に寝室へと移動する。
メアリは押入れから布団を取り出して広げた。シーツを掛け枕を置き掛け布団を掛ける。あっという間に寝床が完成した。実に手際が良い。
僕が感心していると彼女は部屋の照明を消してきた。部屋が薄暗くなるとベッド脇までやってくるメアリ。
「では、ご主人様。メアリはあちらの部屋で休ませてもらいますね。何かありましたら声をお掛けください」
「うん、ありがとう。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
メアリはそう言い残して去るかと思えたが、何かを考えるように立ち止まった。
僕はわけも分からずドキドキしてしまう。思い切って声を掛けてみる。
「どうしたの?」
「え、あの、その、一緒に寝なくていいですか? ご主人様」
「え?」
一瞬思考が停止した。彼女はいったい何のサービスをしてくれるというのだろう。
期待が伝わってしまったようで彼女は慌てて弁解してきた。
「いや、その、変なお誘いをしているわけではありませんよ? ただ、前の家ではみんな同じ部屋で一緒に寝ていたので一人は何か落ち着かないというか、いいのかなって……」
「そ、そうだったんだ。僕は君が良ければ構わないよ」
来たばかりの家で一人は不安ということだろうか。僕としては彼女の自由にして構わないと思う。下手に断って機嫌を損なわれても困るしね。
それに人の頼みを断るというのはどうも苦手なのだ。人付き合いが下手ともいう。
僕はドキドキしていたが、彼女の表情がパッと明るくなったので安心した。
「本当にご主人様の部屋でご一緒していいんですか?」
「うん、いいよ。そんなたいした部屋じゃないけどね」
「いえいえ、そんなご謙遜を。でも、本当に良いんですか?」
「う、うん」
僕が答えるとメアリは嬉しそうな顔で近寄ってきた。
「わーい! ベッドだー」
そしてそのままベッドにダイブしてくる。僕の隣に。
「えへへ、やっぱりご主人様は優しいです。これがベッドなんですね。家の布団と柔らかさが違う」
「ちょ、ちょっと、近いよ。ここで寝るの?」
「え? はい、駄目ですか?」
メアリは無邪気な顔でこちらを見つめてくる。こんなの断れないよ。
「いや、駄目じゃないけどさ」
「やったー!」
メアリははしゃいでいた。どうやら僕の方が布団を持って来ないといけないようだ。まあ、いいか。彼女が喜んでいるならそれで。
僕はベッドから下りようとするのだが……
「では、ご主人様。隣失礼します。お休みなさい」
「ああ、お休み、メアリ。あ、もう寝た」
メアリは隣に入るとすぐに眠ってしまった。彼女も初めて来た家で疲れていたのかもしれない。
でも、そこにいられると僕が出られないんだけど。反対側は壁なのだ。
眠った彼女を起こすのも可哀想だし仕方ない。僕は諦めてここで一緒に眠ることにした。
ドキドキする。僕はなんで女の子と一緒に寝ているんだろう。
緊張しながら横を見ると、メアリの無防備な寝顔があった。思わず見惚れてしまう。可愛い……こんな子が僕の家にいるなんて信じられないよな。神様に感謝しないと。
「んん……」
メアリは寝返りを打った。彼女の吐息が首筋にかかる。
ドキッとした。心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。このままじゃ眠れそうにない。でも、寝ないと。
僕は落ち着いて羊を数える。
「羊が一匹、二匹、三匹……」
「ん……ご主人様……」
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起きてる!? と思ったけど違った。どうやら寝言らしい。
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