謎の彼女

けろよん

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第11話 有彩の謎の行動

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 キーンコーンカーンコーン。

 放課後になった。ホームルームが終わると有彩はすぐに教室から出て行った。

「用事があるから」

 と言い残して。
 ずっとくっついてたのに俺を置いていったい何の用事があるのか気になった。舞は部活があるから来ないだろう。
 俺は机の上に鞄を置く。ストーカーと言われるかもしれないが、俺は有彩の後をつけることにした。



 階段を下りて昇降口へ続く廊下に出る。そこに有彩の姿があった。彼女は下駄箱から靴を出すところだった。
 俺は見つからないように柱に隠れて様子を見ることにする。すると、彼女の前に一人の男子生徒がやってきた。
 あれは確か生徒会の……。名前は忘れた。何かしゃべっているのを見ただけで何も接点がない男子だ。
 二人は知り合いなのだろうか。耳をすませてみるが何を言っているのか聞き取れない。これは俺の妄想だが、

『ねえ、あなた変だよ。私に付きまとうのは止めてくれる?』
『有彩さんが悪いんですよ。僕を振ったりするから』
『だって、あなたのこと好きじゃなかったもん。ごめんなさい。もう私に付きまとわないで』

 みたいな事を話し合っているのだろうか。全く聞き取れない。
 二人はいくつか言葉を交わし合うと、有彩が頭を下げて男が困ったように笑って去っていった。
 いったい何があったのだろうか。様子を見守っていると有彩がこっちに歩いてきて、

「ストーカー君、発見」
「違うよ!」

 俺は有彩に見つけられてしまった。彼女はころころ笑っている。

「何が違うの?」
「いや、気になったから後をつけただけで……」
「やっぱりストーキングしていたんだね」
「ちがっ」
「ふふ、冗談だよ。翼君は優しいからそんな事はしないよね」

 どうやらバレていたらしい。

「……気づいていたのか」
「……って言うか、翼君の熱い視線が突き刺さってきた」
「そんな目はしてないよ!」

 誤魔化しても無駄らしい。彼女を笑わせるだけだ。
 有彩に冗談で勝てないのは分かっているので、俺は正直に話す事にした。

「さっきの男と何を話してたんだ?」
「大垣君と? 気になるの?」
「気になる」

 あの男は大垣というのか。聞いても思いだせない名前だった。

「手芸部に入らないかと誘われたんだ。私って転校したばかりでまだ部活に入ってないから。それで見て回ろうと思ってたんだけど。私って手芸が出来そうに見えるのかなぁ」
「さあ、どうだろうなあ」

 有彩は少し不思議そうな顔をする。確かに有彩にはそういうイメージはないな。うっかり自分の指を針で刺して舐めている姿しか浮かばない。
 どちらかと言えば運動部とかの方が似合いそうだし。

「断ったのか?」
「うん、まだ決めるのは早いかと思って。翼君は何の部活に入ってるの?」
「う……」

 それを俺に聞かれても困ってしまう。人付き合いの苦手な俺はどの部活にも入っていないのだ。
 だが、正直に答えると有彩の俺への好感度が下がる気がする。ここは何と答えるべきか。三択で選ぼう。

A:どの部活にも入ってないんだ。正直に答える。
B:何を隠そう帰宅部だぜ! かっこつけて答える。
C:そう言えば今日の晩御飯は何かなあ。話をはぐらかせる。

 この選択肢の中から選ぶとしたら……。

「…………部活には入ってないんだ」

 結局俺はAを選んだ。
 ストーカーした上に嘘までついては申し訳ないと思ったのだ。

「えー、何もやってないの!? つまらない人生を送ってるねぇ」
「ごめんな、有彩。俺はこういう人間なんだ」
「今言ったのは私じゃないよ」
「ええ!?」

 振り向くと俺の背後には舞がいた。

「何をやってるんだ、舞」
「えーと、声真似? 似てたでしょ」
「ああ、似てたよ。びっくりしたよ。舞は声優でも目指しているのか?」
「目指してないよ!」

 舞は怒ったような表情をする。怒らせてしまったようだ。俺は話題を変えようとして訊ねる。

「お前、部活じゃなかったのか?」
「そうなんだけど、転校生を誘ってこいって言われたんだよ。昼休みにあたしが有彩さんを探してた事を気づかれたみたいで。それで一応聞くけど、有彩さん、うちの部活に見学に来る?」
「う~ん。今は遠慮しておくよ」
「断るの!?」

 有彩は首を横に振った。舞はまさか断られると思っていなかったのか愕然としていた。
 有彩は困ったように笑って言った。俺の腕に自分の腕を絡めて。

「翼君が誘いに来てくれたからね。今日は帰宅部を見学させてもらいます」
「有彩、それでいいのか? 俺なんかに付き合ったら陰キャ街道まっしぐらだぞ」
「大丈夫だよ。私、翼君の事好きだもん。だから全然平気」
「好きって言われてもなあ。俺はお前の事よく知らないし」
「これから知っていけば良いよ」

 有彩は屈託のない笑顔を見せる。本当に何の裏もない笑みだった。……こんな顔が出来るのなら、きっと彼女は何も企んでいないのかもしれない。

「そうか、分かったよ。それじゃあ、一緒に帰るか」
「うん!」

 こうして俺達は学校を出る事になった。
 呆然と立ち尽くして灰のように何かうわ言を呟いている舞を置いて。
 俺達は帰宅部の活動を始めるのだ。
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