冷蔵庫を開けたら中がダンジョンになっていた

けろよん

文字の大きさ
3 / 3

第3話

しおりを挟む
「ふう、疲れた」
「ミチル、凄いな」
「えへへー、もっと褒めてもいいのよ?」
「お前の名はミチルというのか。素晴らしい戦いぶりだったぞ」
「勇者さんこそお強いですね。さすがです」
「ああ、私などまだまだだよ。君は本当に強かった」
「いえ、そんなことありませんよ」
「謙遜することは無い。君の実力なら私以上の勇者になれるはずだ」
「勇者ですか……実は私、勇者に憧れてたんです」
「そうなのかい?」
「はい。小さい頃はよく勇者ごっこをして遊んでました。でも、ある日を境にそれが出来なくなってしまいまして……」
「……そうか、すまない。辛いことを思い出させてしまったようだ」
「いいえ、気にしないでください。もう昔のことですから」
「君さえ良ければ私の弟子にならないか?」
「えっ!?」
「もちろん無理にとは言わないが……」
「いいえ、是非お願いします!」
「本当か! ありがとう! これからよろしく頼むよ!」
「こちらこそよろしくお願いいたします!」

 すっかり行く気になっている妹の態度に俺はうろたえてしまった。

「おい、ミチル。お前行ってしまうのか!?」
「うん、ごめんね。お兄ちゃん」
「どうしてだ? もう昼飯やプリンも取り戻したんだし一緒に帰ろうぜ」
「でも、勇者になるって決めちゃったから……」
「お前がやりたいっていうのを止める権利は俺にはないけど……」
「じゃあ、いいじゃない」
「だけどなあ……」
「大丈夫だって。お兄ちゃんは心配性なんだから。それに勇者様だって一緒だし」
「うーむ」
「お兄ちゃんだって頑張る私を応援してくれたでしょ?」
「それはそうだが……」
「だったらいいじゃん! これからも頑張るから応援してて!」
「まあ、それもそうだな」
「うんうん! お兄ちゃんは素直が一番!」

 こうして俺は勇者とミチルを見送る事にして自分の世界へ帰るのだった。

***

 それから三年が経過して、ダンジョンが現れるのも珍しくなくなった俺達の世界ではミチルが魔王を倒したというニュースが流れていた。

「やった! ついにやり遂げたんだ!」

 俺はテレビの前で拳を突き上げた。

「これで俺達の平和が戻ってくるんだ!」

 俺は勇者に超時空電話をかけることにした。

『もしもし』
「おう、俺だ」
『久しぶりだな。元気にしているかね?』
「ああ、俺は相変わらずだ。それよりミチルのことだが、あいつは今どこにいるんだ?」
『ミチルは私の家にいるよ。君の妹君はとても優秀だ。今では立派な勇者になったよ』
「そうなのか。良かったな、ミチル」
『ところで君の方は何をしているのかな? ミチルから聞いた話では冒険者になったとか』
「ああ、今は世界を旅する旅人だ。たまにギルドの依頼を受けてモンスター討伐を手伝ったりしている」
『ほう、それは面白いね。それで、また私とも会ってくれないだろうか? ミチルにも会いたいだろうし、久しぶりに食事でもしようじゃないか』
「ああ、喜んで」

 あれから次々と現れるようになったダンジョンは脅威でもあったが二つの世界を身近な物ともした。
 交流とともに新しいルール作りもいろいろと行われていったが、それもこれからは落ち着いていくだろう。
 こうして、俺達は再びの再会を果たすのであった。

「おい、ミチル。起きろ。朝だぞ」
「んー、あと五分」
「ダメだ。さっさと起きるんだ」
「ぶー、分かったよー」
「早く着替えないと遅刻するぞ」
「はーい」
「ほら、朝食もできているぞ」
「わーい、いただきます!」
「今日は帰りに買い物に付き合えよ」
「いいけど、なんで?」
「醤油と味噌が無くなってきたんだよ。買わないとな」
「えー、面倒くさい」
「文句言うなよ。お前も少しは料理覚えたらどうだ?」
「えー、めんどくさいし、それに私はお兄ちゃんの作った美味しいものを食べれれば幸せだよ」
「まったく。これだからミチルは……」
「ふふん、どうせ私は食いしん坊ですよーだ」
「そう拗ねるなって。お前は可愛い妹なんだから」
「そ、そんなこと言っても何も出ないよ」
「別にいいよ。その代わり帰ったらプリン作ってやるよ」
「え、ほんとに!? もう魔物の食材は食べ飽きちゃってさ。約束だよ!?」
「わかったって。じゃあ、そろそろ学校に行く時間だ」
「うん、行ってきまーす」
「おう、気をつけてな」

 こうしてミチルは再びこの世界で学校に通うようになった。
 この三年間でミチルはすっかり逞しくなった。

「お兄ちゃん、プリン楽しみにしてるからねー」
「わかってるよ。それよりお前、聖剣持っていくのを忘れるな。まだダンジョンは現れてるんだからな」
「あ、忘れてた」

 ミチルは慌てて剣を取りに戻る。
 その姿はあんまり世界を救った勇者には見えない。ただの可愛い妹だ。
 出ていく様子を見送りながら俺は笑みを浮かべた。

「さて、俺も仕事に行くか」

 俺は家の扉を開ける。するとそこはダンジョンになっていた。

「嘘だろ!? ああ、もうめんどくせえ!」

 こうして、俺の冒険はまた始まるのだった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

煎られたひよこ豆

配信系ばかりなのでこういうの探してました

解除

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。