当たり前の幸せ

11.

朝起きると当たり前だけど煇はいなかった。目蓋も腫れていて目もほとんど開かない。昨日の煇の話がショック過ぎて何もする気も起きない。でも、仕事の依頼を無視は出来ないので携帯を開く。案の定着信が昨日の倍入ってた。折り返しの電話もしていないので当たり前だ。しかし今日の着信がないことに気付いた。メールを開いてみるとメールもすごい数が入っていた。

電話できないか？まだ着かないのか？事故じゃないよな？大丈夫か？の後に原因が分かりましたと入っていた。
原因の内容は実に簡単なことだった。電源を入れるのが早かっただけのこと。百貨店のメインPOSは0時に更新される設定にしている。メインPOSが更新されないとサブPOSももちろん更新されない。ということは全部のPOSが更新されないままになる。今新宿店は北海道物産展を開催していて催事の業者が深夜から入っているそうだ。社員がそのため0時前にメインPOSを立ち上げた為更新されないままサブPOSも立ち上がりアプリが更新されないのでポイントも前日のまま付与されないしもちろんアプリも使えない。北海道物産展に行った客のクレームが多かった為気付いたそうだ。メインPOSは必ず0時を過ぎてから立ち上げるように言っておいたのに知らない応援の社員が立ち上げたそうだ。そして最後にすまなかったと入っていた。煇から電話があったらしい。今度からは煇を通して連絡すると入っていた。

仕事を依頼されてこんな無責任なことをしてしまった自分が許せなかった。先輩にメールですみませんと前置きしてこれから先輩からの依頼は受けられません。無責任なこと役に立てなくて本当にすみませんでしたとメールを入れた。

本当は直接電話したかったけどこの声では逆に心配させてしまう気がしたので気持ちに余裕が出来た時に改めて謝罪しようと思った。

着信はお母さんからもあったがこちらも心配するだろうと思いメールで煇が帰ってきたから連絡できなかったと入れておいた。

「これからどうすればいい？煇。」

別れることはできそうにもない。きっと僕からは無理だ。子供が出来ない身体になることと番の解消が出来ればきっとまだ一緒にいれくれる。
煇が面倒くさいと言っていたことをなくすことが第一だ。

さっそくパソコンで番解消方法を探す。

一度番になったオメガは解消出来ないと一番最初に出てくる。発情期に項の噛むと一生消えない傷ができる。そのメカニズムは分かっていないがアルファの犬歯で噛むと番になることがわかっているみたいだ。オメガは一度付けられた後は他のアルファに噛まれてもその者とは番になれない。番になるとオメガはそのアルファのフェロモンしか反応しなくなるしそのアルファにしかフェロモンは感じられなくなる。アルファはその他のオメガも番にできる。と知っていることしか出てこない。読み進めていると色々な機関が研究をしていて噛み跡に怪我をした人がフェロモンを感じなくなったとか噛み跡を消す方法としてレーザー治療や切除術など出ていた。そして、番と別れてしまうとオメガは狂ってしまうと。精神が不安定になってしまうためだ。長くて5年。死ぬ人が多いと書いてある。自殺が多いらしい。煇と別れてしまうと5年しか生きられない。

次に妊娠できなくするにはと打ち込むと避妊薬などが出てくる。オメガには直腸奥に子宮がありヒートになると降りてくるらしい。なのでヒート中の性行為は妊娠100％。ヒートは3カ月の周期なのだが何度もしているのに妊娠はしていない。煇が避妊薬アフターピルを飲ませているんだと思う。オメガはヒート中アルファの精子を受けないといつまでもヒートが続いて行き場のない熱が続いてしまう。
色々調べていると子宮除去手術が出来る病院があると出ていた。子供が欲しくない人へと病院の紹介に書いてある。

「あった。」

嬉しくなった。一歩煇との距離が近づいたような気がした。すぐに手術がどのくらいかかるのか入院期間などを調べた。保険が効かないらしく100万位で入院期間を入れると

「150万位あれば足りそう。」

１週間で退院出来るみたいだしお腹切るわけではなく肛門から内視鏡と鉗子を入れて遠隔で取れるみたい。なんと手術した次の日には歩けるらしい。すごい。しかし問題点もありホルモンバランスが崩れヒートが安定しなくなる恐れありと書かれていた。でも、妊娠の心配もなくなるので何度でも抱いてもらえると考えればいいのでは？と思い絶対手術しようと思った。でも最大の問題点は

「身元保証人…。」

身元保証人にサインしてくれる人を探さないといけない。煇に頼むのが一番いい。きっと喜んでサインしてくれるはずなんだけど。

「昨日電話聞いてないって嘘ついたしなぁ～何で嘘ついたか説明すると昨日泣いてたのも煇が気にしちゃうし。でも家族に頼むことは無理だよね。絶対反対するだろうし。」

とりあえず病院の場所をチェックしてわりと近くにあることに喜んだ。１週間家を空けてしまうと煇が変に思うだろうし。出張とかで家を空ける日を狙うしかなさそうだ。とりあえず保留にしてと。
昨日は絶望的な気持ちだったのに煇とまだ一緒にいれる希望が出てきたので前向きになれる。

「とりあえず目を冷やそう。」

半分しか開かない目を冷やしに冷蔵庫に向かうとテーブルの上にご飯が乗っていた。手紙も添えてある。

「拓起きるまでいてやれなくてごめん。
今日は帰れそうにないから。
目を冷やしてゆっくり寝てて。
夜電話する。

拓みたいに美味しくないと思うけどご飯食べてね。

愛してる。」

オメガで面倒くさい僕にここまでしてくれる煇は本当に優しい。僕は煇の為に煇と一緒にいれる為に早く手術して番を解消しなくてはと誓う。