【完結】転生ババアの下剋上~貴方の居場所はもうありませんので、愛人とお幸せに~

ゆずこしょう

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南領地改革

突然の来訪者。ラルフリード視点。

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 ダニエルはすくすくと育ち、最近では注意しても邸を走り回り、ミシェルは申し訳なさに、いたたまれない思いをする時がしばしばあった。

 そんな、ダニエルであったが、マティルダ夫人を始めとする邸の方は、穏やかに見守ってくれている。

 しかし、ある日ダニエルは急に高熱を出して、ベッドで休んでいる。

 ダニエルの笑い声がなく、しんと静まり返った邸は、しばらくなかった光景だった。

 マティルダ夫人がすぐに公爵家の侍医を呼んで、診察してもらうと、胸の中が悪くなっているそうで、薬をいただいて、様子を見るしかないとのことだった。

 この病いは、悪化するとそのまま亡くなることもあるそうで、私とマティルダ夫人はとても心配している。

 赤子の時から、ダニエルが病いにかかると、マティルダ夫人はすぐに侍医に診察してもらっているから、病いにかかったとしても、すぐに快方に向かい、ここまでダニエルが具合い悪そうにすることは、今までなかった。

 マティルダ夫人には、私共々大変お世話になりっぱなしで、もし、彼女が私に何かを命じるなら、私は命すら差し出すだろう。

 それほどまでに、マティルダ夫人はダニエルに私一人なら到底与えられないものを、与えてくれている。

 その中でも、一番はやはりダニエルへの愛だ。

 一人親の私には、ダニエルを愛してくれる人がいることは、何より嬉しいことだった。

 だからこそ、ダニエルはこの邸の方みなさんに大切にされ、いつも元気いっぱいだったから、高熱を出し、呼吸も乱れている今、私はダニエルが心配だし、何より彼がいなくなったらどうしようと思い、怖くて仕方がなかった。

 特に夜中は、邸全体が静まり返り、荒いダニエルの呼吸と咳、一向に下がらない熱が私を不安にさせる。

 お願い、どうかダニエル、元気になって。
 病いに負けないで、頑張って。

 眠っているダニエルを見つめながら、私には祈ることしかできない。

 私が代われるならば、すぐにでも代わって、どんな病いにも打ち勝つのに。

 まだ小さなダニエルが、この病いに負けたらどうしよう。

 不安に押し潰されそうになって、知らずに涙を流していた。

「ダニエルはどうだい?」

 バーナード様が気遣わしげに、部屋にやって来た。

 そして、泣いている私を見ると、足を止めた。

「バーナード様…。」

「どうしたんだい?」

「すみません、私、ダニエルを失うのではないかと、怖くなってしまって。」

 バーナード様は私が泣いていると、何故かやって来てくれる。

「大丈夫だよ。
 私も一緒にいるから。」

 泣きながら震える私を、バーナード様は抱きしめた。

「ごめんなさい、バーナード様に迷惑をかけてしまって、もう大丈夫ですから。」

 私はバーナード様に慰めてもらうのは申し訳ないし、彼の着ている夜着が、私の涙で汚れてしまうのではないかと、心配して離れようとした。

 すると、

「ミシェルの大丈夫は、大丈夫じゃない。
 しばらくこうしていよう。」

 バーナード様はさらに私が逃れないように、きつく抱きしめてくれた。

 彼はいつも優しいし、こうしてくれていると安心感が私を包む。

 私は抗うことをやめて、バーナード様の背中にそっと手を回し、もたれかかる。

 ほんの少しだけ、ほんの少しだけでいいから、彼とこうしていたい。

 それ以上は望まないから。

 それは、私がカーターを失ってから、初めて男性に抱きしめられた安堵感でいっぱいの抱擁だった。

 もし、こんな時に夫がいる人ならば、みんなこうやって、優しく慰めてもらっているのね。

 私には手に入らないものだわ。

 こんな時に、一人でないことはなんて心強いの。
 またも私は、バーナード様の優しさに甘えている。

 バーナード様に抱きしめられた私は、次第に落ち着きを取り戻した。

「バーナード様、ありがとうございます。
 もう大丈夫です。」

「うん。
 もう大丈夫そうだね。
 でも、私もこのまま朝までここにいよう。
 一人では心配なんだろう?」

「はい、でも、バーナード様にご迷惑をおかけするわけにはいきませんので、バーナード様はもうお休みください。

 ダニエルの病いが、あなた様にうつってしまったら大変ですので。」

「大丈夫だよ。
一緒に見守るだけだから。」

「ありがとうございます。」

 私達は時々ダニエルのおでこの布を交換する以外は、何もすることができず、ただ二人で、一向に良くならないダニエルの荒い呼吸を見守った。

 でも、心配はしているけれど、不思議と怖さはない。

 一人きりでなく、二人でいることが、こうした不安の中にいる時には、どれほど心強いか、身に染みてわかった。

 バーナード様が、そばにいてくれれば、私は強くなれる。

 でも、彼は優しくしてくれるけれど、本来ならば、雲の上の人。

 また不安な時は、こうやって一緒にいてほしいなんて、望んではいけない。

 彼は、善意で私達に良くしてくれているのだし、負担になってはいけないわ。
 でも、頼りたい思いが膨らむ。

 彼を慕ってはいけないのだから、もう私は、新しい夫になってくれる人を、探さないといけないのかしら。

 彼のような頼りがいのある優しい男性で、ダニエルにも良くしてくれる人、そんな人がいるのかしら?

 この邸を出て、新しい夫と暮らすなんて、男性を見る目が全くない私には、残念ながら無理な話ね。

 ミシェルとバーナードは、ダニエルを見つめながら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 朝早くに、ダニエルの様子を見に来たマティルダ夫人が部屋を訪れて、ダニエルの周りで、二人が寄り添いながら寝ている姿を見つける。

 でも、二人に声をかけることはなかった。

 数日後、ダニエルは病いを克服して、元気を取り戻した。

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