氷の貴公子は隣国の仮面令嬢に恋をする。

ゆずこしょう

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婚約破棄

隣国の夜会

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毎年、近隣諸国の重鎮たちを集めて行われる会議がある。開催国は毎年変わり、今年は隣国セリエール国で行われることになっていた。

我が国ルノアール国からも国王と王妃様、それと宰相である父が参加することになっていた。

そして後学のためにと宰相の息子である俺と、サミュエル王太子殿下も今回は参加している。


「もう少しリュシアンも笑顔を見せた方が良くないか?そしたら婚約者だってすぐできるだろう。ほら、今だって話しかけたくてうずうずしている女性が沢山いるじゃないか…」


笑顔か…。


何度か笑った顔とやらに挑戦したことがあったが、何故か父と母に止められたことを思い出す。


お前はそのままでいいと言われたからこのままで今まで来たのだが、やはり笑えた方がいいのだろうか。


「ふむ…笑顔か。今度練習してみよう。」


「おぉ。そうしてみろ。俺はもう少し可愛い子猫ちゃんたちと話してくるからさ、お前はこの辺で待っていてくれ。」


サミュエル王太子殿下は昔から人付き合いが上手い。
少し軽いナンパな印象も持たれがちだが…普段からずっとと言う訳ではない。基本は国のために動いているし、今だって女性達のところに行ったのは情報収集のためだろう。


俺ももう少し軽い雰囲気を出せればいいのだが…なかなかサミュエル王太子殿下のようには行かない。


コミュニケーションの苦手な俺は一度、サミュエル王太子殿下の側近でいていいものか聞いたことがある。


そしたら、

「そういうのは得意不得意があるだろ?俺には俺のお前にはお前のいい所がある。それに人間皆同じじゃつまらないじゃないか!お前は俺が間違った時に間違ったと言える立ち位置にいてくれ。」

なんてかっこいいことを返してきたのだ。


俺が女だったら惚れているかもしれない。



サミュエル王太子殿下いわく適材適所と言うやつらしい。たまたまこのような雰囲気がサミュエル王太子殿下に合っているだけで、勿論サミュエル王太子殿下が苦手な部分もある。お互いがお互いを補って行ければいいそうだ。


サミュエル王太子殿下を見送ると、俺は近くの壁によりかかる。ヴァイオリンや、チェロ、ヴィオラ、コントラバスが奏でる演奏を聴きながら、踊っている者たちを眺めていると、この場の雰囲気とは似つかわしくない音が音楽を止めた。



「リディアーヌ様!酷いですぅ…グスッ…なんでこんなことするんですかぁぁぁ!!」




周りの皆も同じことを思ったのだろう、何事だとザワザワとしだした。


「折角買って貰った私の大事なドレスなのにぃぃぃぃ…グスッグスッ…うわあああああん」


この席でこの泣き方…あまりに酷いのではないだろうか…まるで子供が駄々を捏ねて泣き喚いているようにしか聞こえない。


しかもこんな他国の重鎮たちがいる場で…度胸がありすぎる。

普段であれば女性同士の喧嘩に興味を持つことは無いのだが、何故だか今日は少し気になったため、興味本位で人だかりのできた所へ向かった。


---「またあの子なの?本当に何度目かしら…いつもあの子ばかり虐めて…」


---「顔も変わらず何考えているか全然分からないのよね。本当不気味だわ。だから仮面令嬢なんて呼ばれるのよ…クスクス」


---「ほら…そろそろ来るわよ。王子様が…婚約者なのに見向きもされないなんて滑稽ね…クスクス」


正直先程まで聞いていた音楽の余韻もこの騒動とこの陰口のせいで全て水の泡だ。


それにしてもここまでの事を言われている女性は一体どんな人なのだろうか。


そんなことを思っていると俺とは反対方向から煌びやかな格好をした人がコツンコツンと近づいくる。


「…確かあれはエピナール・セリエール王太子殿下だったか…」


エピナール・セリエール王太子殿下。
隣国セリエール国の王太子殿下であり、現在我が国ルノアール国に遊学中だと聞いているが、セリエール国に戻ってきたようだ。確かエピナール王太子殿下には婚約者がいたはずだが…あのうるさいのが婚約者なのだろうか。  


いや、先程の令嬢たちの話を聞く限り、逆か…


それにしても子犬のようにキャンキャンうるさいから早く泣き止ませて欲しい。


「エピナールさまああああ!!グスグズッ…また…うっ…リディアーヌ様がぁぁ…うわぁぁぁん!!」


よくみてみると泣き喚いている少女のドレスにはシミが出来ている…


もしかしてそのリディアーヌとやらがわざとドレスに掛けたというのだろうか…。


「リディアーヌ!!またお前か!!キャロットを虐めたのは…」


エピナール王太子殿下が寄っていく方を見ていると、他の人でよく見える訳では無いが、一人の女性が凛とした佇まいで立っていた。


「いえ…私は何もしておりません。たまたまこちらの壁の近くに立っていただけでございます。」



扇子で顔を半分隠しながら話す女性…
いや、少女だろうか…一切顔が笑っていない。それどころか毛虫を見るような目でエピナール王太子殿下を見ている。


「またそうやって嘘を言うのか!!キャロットが可哀想じゃないか!!その目をやめろ。俺をバカにするなぁぁ!!!」


エピナール王太子殿下はキャロットという子を抱きしめリディアーヌ嬢から守る体制を取った。


リディアーヌ嬢はそれを見て呆れた顔をしていた。
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