氷の貴公子は隣国の仮面令嬢に恋をする。

ゆずこしょう

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婚約破棄

ずっと我慢してきた… リディアーヌ視点

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「今年の平和協定は本国で行われることになった。」


一年に一回、平和協定を結んでいる国と行われる会議がある。毎年会議を行う国は変わり、今年は我が国セリエール国で行われることになるそうだ。


「承知いたしました。それで、私は何故ここに呼ばれたのでしょうか?」

まだ王族ではなく王太子のである私がなぜ呼ばれているのか…しかも婚約者である王太子はいないようだ。


「リディアーヌよ。お前はエピナールの婚約者だ。王族として参加するのは当たり前だろう。」


ニヤニヤしながら言ってくる国王陛下。
先代の国王陛下はかなりのやり手だったが、エピナールの父親に代替わりしてからというもの、この国はどんどん腐敗していっている。

先代の時に側近として働いていた貴族たちは現国王陛下に代替わりした瞬間辞めさせられた。

理由は簡単。

現国王陛下に楯突いたからだ。

まぁ、楯突いたと言っても「仕事をしてください」とか「それは国民の税金です。私腹を肥やすものではありません。」とか当たり前のことを言っていただけなんだけど…


その当たり前が通じないのがこの国王陛下だった。

そしてまともな人達は全員王宮を去り、今では魔物の巣窟となっている。



「はぁ…それでその肝心の婚約者様のお顔がないようなのですが…」


この顔はまたよからぬ事を考えているようなそんな気がしてならない。


「エピナールは今隣国へ遊学中だ。平和協定会議までには戻ってくるだろう。」

最近、嫌がらせを受けないなと思っていたけど、いなかったからなのね…あのうるさい雌兎のキャロットが居ないのもエピナール王太子殿下について行ったからなのだろう。


「そうでしたか。それでご用件は…」


「お前にはこれから平和協定会議の準備を頼みたい。」


なんとなくそうなのではないかと思っていたけど…本当にあのクズの父親なだけあるわ。


どうしたら親子2代でこんなクズになるのか…


「それは、そちらにいらっしゃる宰相様たちのお役目では無いのですか?」


国王陛下の横に立っている宰相様の方を向くと宰相様もニヤニヤしている。


「いいからお前は言われたことだけやっていれば良いのだ。それとも何か?お前は家族を路頭に迷わせたいのか?」

何かにつけてすぐに家族を引き合いに出してくる国王陛下。

家臣に見放されて路頭に迷うのはお前だと言ってやりたいところだが、そんな事言ったらお父様やお母様、それにお兄様夫婦までどうなるかわかったものでは無い…

私は言いたい言葉をグッと飲み込んで手を強く握りしめた。

「分かれば良いのだ。」


シッシッと手を振って出て行けと言われた私はその場を退出した。



⟡.·*.··············································⟡.·*.
 

今から10年前。


「リディアーヌ。こちらに来なさい。」


「はい…お父様。」


6歳の頃、子供ながらに目の前にいる男の子と婚約することになるのは何となくわかった。

父に挨拶するように言われ、必死に覚えた挨拶を失敗しないようにと気をつけながら、覚束無い足を1歩後ろに引いてカーテシーした。

その時男の子に言われた一言を一生忘れることは無いだろう。


「お前、そんな事も出来ないのかよ!なんでおれがお前みたいなブスと結婚しなきゃならないんだ。おれはお前を結婚相手として認めないからな!」


今思い出すとエピナール王太子殿下との最悪な出会いだった。


それから10年。本当に長かった。


正式に婚約者となってから王太子妃教育が始まり、家に帰ることも許されず、王宮に籠って勉強だけの毎日。

文字を間違えるとその日1日間違えた字をひたすら練習させられ、国の名前や歴代の国王陛下の名前を覚えるまで寝かせて貰えず…

ダンスは振りを1つ間違えれば、間違えずに踊れるようになるまでダンスを繰り返す。

それ以外にも淑女の嗜みとしてヴァイオリンや、刺繍。ありとあらゆるものをやらされた。

泣きそうになれば

「こんなことで泣くなんてみっともない。王太子妃となるのですからこのくらいできて当然です。次泣いたらお仕置部屋に連れていきますからね!」と鞭を持った手で言われる。


何度お仕置部屋に入れられたか分からない。初めの頃はもしかしたら誰か気づいて助けに来てくれるのでは無いかと思ったけど、途中からそんな淡い期待はしなくなっていた。


それからしばらく経って、泣くことも少なくなった頃。エピナール王太子殿下と共に、この国の社会情勢について一緒に授業を受けることになった。


しかし、エピナール王太子殿下は何もせず、授業の時間になれば消える。授業を受けたとしてもずっと寝ていて話を聞いていない…


しかし…誰も怒ることはしなかった。
それどころか、その皺寄せがこちらに来るようになったのだ。


「いいですか。貴方はエピナール王太子殿下の1歩後ろを歩き、フォローだけしていれば良いのです。貴方がエピナール王太子殿下の頭になればいいだけの事。ですので貴方がエピナール王太子殿下の代わりに覚えてください。わかりましたね?目立つことは許しません。」



そして最後は…

「表情を出すことは許しません。王族たるもの自分の感情は押し殺しなさい。」

私の表情までもが奪われた。



それからもエピナール王太子殿下のフォローは続く。お茶会などに参加をしても顔すら覚えていないので、挨拶もできない。

子供同士のダンスパーティーも一切エスコートなし。今は分からないけどあの時はダンスも踊れず、毎回足を踏んでくるから、参加するのも億劫にだった。


「どうやったら結婚しないですむのか」そればかり考えて現在に至る…



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