氷の貴公子は隣国の仮面令嬢に恋をする。

ゆずこしょう

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帰路

帰宅 リディアーヌ視点。

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婚約破棄をされたあと、私はそのまま自領であるオデール公爵領に戻った。


「お父様、お母様、お兄様!!ただいま戻りましたぁ!!!」


自邸に戻るとわたしは大きな声でお父様たちのことを呼ぶ。


私の声が聞こえたのか、皆バタバタとエントランスに出て来る。  


「リディアーヌ!!」


「お母様!!!」


私はお母様に駆け寄って抱きつく。

お母様と会うのは実に10年振りだ。勿論お兄様とも10年振りである…。

なんだか、少しだけお母様が小さく感じるのは私が成長したからだろうか…

だって最後にあったのは…私が6歳の時だったから…


「やっと会えた。本っ当に大きくなったわね……リディアーヌ…。」

 
「お母様…ずっと会いたかったです…お元気そうで安心しました…」


それからお兄様、お父様とも抱擁する。


この10年。何があったのか話したいことは沢山あったけれど、それよりも今の状況の方が大切だ。


「お父様たちにお話があります。私やっと…やっと…グスッ…エピナール王太子殿下と婚約破棄出来ましたわ!!」


元々オデール公爵家はセリエール国で浮いている。と、言うのも我が国アデール公爵家は亡国となったアルデール国の王族だからだ…


先代の国王陛下のときは夜会に参加することも出来たのだが、現国王陛下になってからは夜会などに参加することすら許されなかった。



お父様と会うことが出来たのだって国が出さなければならないお金をうちが払っていたから…言ってしまえばこの国の財布となっていたからである。


お父様も私に会うことを条件にお金を出してくれていた。

それが無ければ私はずっと1人でひたすら耐え続けるだけになっていたことだろう。


お陰で父はお財布公爵…私は仮面令嬢なんて呼ばれていたけど…


でも、それも今日で終わりだ!!


「ほ、ほ、本当か?本当なのか?」


お父様が私の腕を掴んで揺さぶってくる。
頭がガクガクと前と後ろに振られて若干痛いです…。


「はい。こちら書状です。」


お父様に書状を渡すと、巻いてある書状を広げて読みはじめた。

「なになに…婚約破棄することに合意し、、オデール公爵家をセリエール国からの独立することを認めるぅぅううう!?」


お父様の声が大きくて、思わず皆耳を塞いだ。


「はい!ここに、セリエール国王とさらにその息子のエピナール王太子殿下のサイン、さらに国璽(王の印)も入っています。」


いつもお守りのように持ち歩いていた書状。
セリエール国王に書類のサインと国璽を求めたとき、何も確認せずサインと押印だけしていたことがあった。


その時に思ったのだ。
大切な書類すら読まずにポンポン押印していく姿を見て、これなら婚約破棄の書状も見ずにサインしてくるのではないか…と。


バレた時はバレた時。
お金の関係で私を殺すことは無いだろうし、いいとこ反省部屋に入れられるか公務が倍に増えるくらいだと考えたら私は書類に紛れ込ませて、婚約破棄証明書を提出した。



全ての書類が戻ってきた時、確認してみると…

婚約破棄証明書にサインと国璽が押印されていたのである。


「陛下に提出する書類にコソッと隠して入れて置いたのです。そしたら案の定…確認もせずサインをしてくれました。しかも国璽付きで!!」


この時はクズ国王陛下に感謝したものだ。


証明書を貰ったのだからその場ですぐ婚約破棄…とも考えたけど…この国には味方という味方が居ない。こんなの出鱈目だと国王陛下が言ってしまえば全て水の泡になってしまうだろう。


そう思った私はずーっと好機を狙っていたのだ。

そしてその好機が今日だったのだ。

まさか…あんなに上手くいくと思っていなかったけど…

「しかし、これだけではあの国王を欺けないだろう。変な所で頭の回るヤツだ。」


「はい…この書類を本物にするためには観客が必要でした。出来れば他国の…」


他国の貴族たちが来ることは平和協定会議がある時くらい…

普段は実に閉鎖的な国だ。

そうなったのも今の国王陛下になってからだけど…。表向きは平和と謳っているが、国王陛下自身はそこまで重きを置いていないことだろう。

自分たちが王として存在できる国さえあれば良いのだ…

「そして、平和協定会議の夜会でエピナール王太子殿下が堂々と婚約破棄を宣言してくださったのです。」


夜会当日あったことを事細かにお父様たちに伝える。


「し・か・も、次の婚約者まで皆さんの前で発表されていました。」


私が拍手をすると、お父様達もそれにつられて拍手をする。


「そ、そうか…やっとこれで…先代達には悪いが、今のセリエール国には未来が無かった。セリエールの国民たちには悪いがオデール公爵領の皆が今まで通り暮らせるならそれでよい。」


オデール公爵領は少し特殊だ。
大きな樹海の中に位置し、公爵領に敵意があるものは近づくことすら出来ない。


樹海の木を伐採して探そうとしても次の日には木が生えているし、木を伐採した者はその後から森に一歩も近づけなくなるのだ。


引きこもってしまえば婚約破棄も簡単なのでは…と何度思ったことか…


それでも我慢してきたのは、先代達の気持ちを踏みにじりたくないという思いと、領民たちが外に出た時に迫害を受けないようにするためでもあった。
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