恋愛小説に踊らされている婚約者様へ。悪役令嬢になりますので早めの婚約破棄を所望します

編入生。

編入生？

翌日、貴族院に行くと朝からある噂で持ち切りだった。


ーーー「今日編入生が来るらしいわ。」


ーーー「それ、私も聞いたわ。なんでも2年生になるらしいわよ。」


ーーー「しかも女の子なんですって…養女になる事になったらしいわ。」


編入生。

貴族は全員貴族院に通う決まりになっているが、どうしても初めから通えない場合がある。


婚外子だったり、急に養女や養子になった場合だ。
なかなか養女や養子になることなんてないんだけど…


あるとしたら平民の女性と、貴族男性が再婚したりとか、身寄りのない子供を養子にしたりとかだろうか？男爵位とか、騎士爵位であれば無くはないだろうけど、もしそれ以外で子連れと結婚するのは…訳ありくらいのものだ。

　 
「編入生なんて、珍しいこともあるものね…問題を起こさない人だったらいいんだけど。」


















　
なんて思ったこともありました…。






「編入生を紹介する。今日からこのクラスに入ることになった…」



そう、目の前にはあの女が立っていたのです。





「エミーリエ・ルーデンだ。ルーデン男爵家の養子になったそうだ。貴族として知らないことが多いから色々教えてあげて欲しい。」




「あ、あ、あのぉぉぉ…初めましてぇぇ。エミーリエ・ルーデンでぇぇぇすぅぅぅ。えっとぉぉ、エミーリエとぉ、仲良くしてくれたらぁ、嬉しいですぅ。よろしくお願いしまぁぁす。」




　…



　……



　………



クラス全員が一斉にこちらを向いた。



やめて欲しい。これ以上私は見たくもなければ関わりたくもない…出来ればエミーリエを見てあげて下さい。頑張って上目遣いして、ぶりっ子していますよ。


今も効果音に"きゅるるん"という音が着いてきそうです。


私は皆目を合わさないようにそーっと窓の方を見た。


「今日はとてもいい天気ね…」


「あぁ、そうだな…ヴェロニカ・ロンベルク。」


思った以上にクラスがシーンとしていたのか、どうやら私の独り言が響いていたらしく、先生が近くに寄ってきていた。


「丁度いい。お前の隣の席が空いているからな。お前が面倒見てやれ！」



「え…え…ちょっと！先生！？どういう事ですか！？」



「どういう事も何も今言った通りだ。エミーリエ・ルーデン。君はここの席に座るように。ヴェロニカが色々教えてくれるから、何かあったら聞きなさい。」



それだけ話すと先生は人の話も聞かずにスタスタと教室を出ていった。
誰か席を代わってくれないかと周りを見渡すと皆揃って顔を逸らす…。


エミーリエはビクビクしながら私の隣の席に座った。


「え、え、えっとぉぉぉ。よろしくね！ヴェロニカちゃん。」



えっ！？まさかのちゃん付け！？



「私、貴方とよろしくするつもりなんてないですから。身の程を知った方がいいですわ…」


本当に身の程を知った方がいいと思う。



「だ、だって…グスｯ…先生が仲良くしろって言ってたよぉ。」



いやいや、仲良くしろなんて言ってないでしょ。ただ、面倒見てやれといったいただけだ…


しかも泣いているし…


悪役令嬢なんかやらなくても、勝手に悪役令嬢に仕立ててくれそうじゃないか。


「いや、先生は面倒を見てやれと言っただけで、仲良くしろとは言っていなかったわよ。」


皆が私の言葉に頷く。

関わりたくは無いけど私たちのやり取りは聞いている。そんな感じだろうか…


ジャンリーネ達に至っては態と顔を逸らしているし。肩が震えている所を見ると、声を出さないように笑いを抑えているんだろう。


－－－「ヒロイン効力ってすごいわね…」


－－－「ちゃん付け！？まさかの？ヴェロニカにちゃん付け似合わないわぁ！！」


－－－「やばー！笑い堪えるのが辛いわぁ…」


とか思ってそうだ…。



「で、でもぉ面倒をみてくれるってことはぁ…仲良くしてくれるってことでしょぉぉぉ？」



「いや、ただ隣の席だから教科書が揃うまで見せてやれってことでしょ？全く意味が違うわ。教科書なら私のお下がりあげるからそれ使いなさい。貴方にはそれがお似合いよ。それと貴族が語尾を伸ばすのやめた方がいいわよ。品が無く見えるから…」



誰が教科書なんて一緒に見るものか。そもそも隣にいるのでさえ辛いと言うのに。教科書ならイザベラお姉様のやつを貰えばいい。


「そ、そんな、言い方ないじゃいですかぁぁぁ…どうしてエミーリエのこと虐めるんですかぁ？グス…そんなにアドルフ様を取られたこと根に持っているんですかぁ…？グスッ…」


煽っているつもりはないのだろうけど…やたらと煽ってくるわね。そもそもアドルフを取られたことを根に持っているつもりもないし、語尾を伸ばすのをやめた方がいいのは本当のことである。なんなら親切心で言ったつもりだったのだけど。


しかも取ったと言う自覚はあるのね…。


「別に虐めていないわ。本当のことを言っただけよ。それに…アドルフ様を取られた？まだ婚約破棄しているわけじゃないもの。アドルフ様が貴方を選んだとはならないんじゃなかしら。」


こちらからすれば王命だから渋々婚約しているだけ。別に婚約破棄されようが痛くも痒くもない。それよりもエミーリエはどうやって男爵家なんかと知り合ったんだろうか…。


この歳でこんな何も取り柄のなさそうな女を養女にするなんて…あまりに計画性がない。


なんだか嫌な予感がするのだ…念の為帰ったらお姉様と話をしてみよう。


別の事を考えていると、大きな声でエミーリエが泣き出した。


「うわぁぁん！ヴェロニカちゃん酷いわぁぁ…絶対アドルフ様は私を選んでくれるものぉ。ヴェロニカちゃんなんかお友達になってあげないんだからねぇ。」



それだけ言うと教室から勢いよく出ていくエミーリエ。


お友達なんてこちらから願い下げよ…。




この後廊下で大きな声で泣き喚く声が響いていたが、私のクラスの人達は誰も助けようとはしなかった…。