蒼の物語

のやなよ

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謀(はかりごと)

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「流行り病が出たと、先程おっしゃってませんでした…か?」
シンは言いながら顔が引きつるのを感じた。
しかし蓮は至極落ち着いた様子で彼の左にある
戸棚の方に視線を向けた。
「流行り病が発生したと言われているのは…」
戸棚の横に立て掛ける形で保管されていた筒から蓮は地図を抜き取ると机上に広げ指さした。
その地図を指し示す蓮の指先をシンは目で追う。
「…大国の東の端。
旅人を相手に宿泊と料理を提供している宿屋が点在している村『トト』だ。
感染爆発を起こしたとされているのは呑み屋『魚魚』
首都『ロンダ』とは島の正反対の位置関係にある。
村の周りには、広大な麦畑が広がっていて農業が盛んな村でもあった。
今は焼き払われて何も残っていないそうだけどね」
「ふん!あの変態のことだ。
村から出た旅人も洗い出して村もろとも焼き払ったんだろう?」
胸の前で腕を組んでシンは鼻から息を吐いた。
「シン、一国の国王を変態呼ばわりは、あまり感心しないな。
いざ面識を得た時に顔に出てしまうぞ?」
「ふん!一生拝謁したくな…!」
シンは、そう言いさして、ハタと招かれている蓮に顔を向けた。
顔色が悪い。
「…蓮…」
「帰ってきたウチの職人が『トト』の隣村に泊まっていたらしいんだが、洗い出して捕縛する様な荒事は、なかったらしいんだ。
これは私の推測だけど感染から発病、それが表沙汰になって役人の手が介入するまでの期間が短か過ぎる」
胸の前で組んでいた腕をシンは解いた。
「流行り病ではない?!」
「…可能性が高いね。
まるで、そこで何があったか知っていたみたいだ」
蓮は地図を筒状に丸めた。
「目的は?」
「リキが売りにいった宝玉を手に入れるためだろう?」
蓮は筒の中に地図をしまって元にあった所に立て掛けた。
「…宝玉は向こうの手にあるんだから欲しければ、わざわざ蓮を呼び出さなくても騒動の中で失くした事にすれば…いいのでは?」
「うん。普通なら…ね」
蓮は顔をうつ向けた。
「どういう意味でしょうか?!」
「リキが、売りにいった宝玉の中に名を掘り込んでいない私の作品が入れてあったんだ。
恐らく、それを見抜かれた?かも知れない」
「何故、そんな事を?!」
「餞別だよ。
島を出て宿屋をするという教え子に…
だから自業自得なんだ。
腹をくくって大国へ行ってくるよ」
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