蒼の物語

のやなよ

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弟子入り

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朝食後アオは、リクに追いたてられる様に書類を記入させられ提出先である城へと1人で向かった。
アオは、辺りをキョロキョロと見回しながら街道を北に上る。
「魔界…」
アオは、この国に来て3日目になる。
「街並みの見た目は蒼国とあまり変わらないけどな…」
国名を『魔界』
王様を『魔王様』
と、この国の人々は呼称としているとリクから教えて貰った。
しかしリク自身も25歳の時に母国の港街で偶然拾った『職人募集』のビラの条件の良さにつられて『魔界』行きの船に飛び乗って、旅商人の下働きをしながら身を守ってもらい森を渡って来た新参者だから、他人に説明出来る程あまり詳しくはないと言っていた。
理由は職人見習いになって職人街に住みだしてからは課題の素材を手に入れて作品提出に追われる日々。
職人として1人立ちしてからは仕事を請け負って納品するだけで必死。
ここ数年は何の前触れもなく突然やってくる『綺麗な人』の技術を見よう見まねで身につけようとしているだけで30の歳は気付かない間に過ぎ去っていたという。
現在32歳の師匠(仮)は言っていた。
 多分『綺麗な人』というのは恐らく父さんのことだろうな…
 此処に来てたんだ…
街道筋の店の売り物に見知ったお菓子もあった。
 今、どうしてるんだろう…父さん。
この時、アオは母国が滅亡した事を、まだ知らなかった。

「着いた」
アオは城前にある広場で城を見上げた。
前方は役所や医局となっており思っていたより人の出入りがあり、そういうところは蒼国と似てアオは親しみを覚えた。
違いといえば蒼国の城の様な華美な装飾はなく円柱の柱に四角い屋根がのっている様な単調な石造りの城というところだ。
中央の出入口には案内所が設けられている。
「あそこに、持って行けばいいのかな?」
 蒼王の父が訪ねろというくらいだから、恐らく城の関係者の中にいるんだろうとアオは予想していた。
しかし身元も定かではないアオが、いきなり訪ねて行っても引き会わせて貰えるとは到底思えなかった。
そこで城の中に顔がきくリクの弟子となる事をアオは決意したのだ。
「何か困っていらっしゃいますか?」
いつの間にかアオの横に黒髪の短髪に白い帽子を被った青年がホウキとチリトリを持って立っていた。
制服の様な衣を纏っているところから察すると城の掃除係といったところかな…とアオは当たりをつけた。
「職人見習いの申し込み用紙の提出先は、あそこであってますか?」
アオは若い女性が立っている出入口のカウンターを指さした。
すると掃除係と思われる男は愛想良く返事を返してきた。
「はい。
あちらに今持っていらっしゃる用紙を提出して頂いた後。
今後、誰の指導の下で課題の作品を提出して行くかについて面談があります」
「面談?!」
「はい。
もし希望の指導者が、いらっしゃるのであれば…
いらっしゃる様ですね?!
お顔に不安が感じられない」
掃除係は目元に笑みを浮かべた。
「はい。
とても、ふわふわで美味しいパンケーキを作る師匠なんですよ」
「パンケーキをですか?!」
掃除係は目を丸くした。
「はい!」
「それは、それは是非開店された時には教えて下さい。
それでは私は、これで失礼致します」
「え?!
開店?!あ!ち、違いますよ!!」
アオが掃除係の勘違いに慌てて掃除係の方に向き直ったが時既に遅く掃除係は人ゴミの中に消えていた。
「あ~絶対料理人の修行の方だと思ってる!
でも…ま、いっか。
また、お茶の時間にパンケーキを焼いて誘えばいいんだし」
アオは踵を返してカウンターのある城の出入り口に
足を向けた。

           ※

掃除係が教えてくれた通りの展開になりアオはカウンター近くの一室に通された。
そして応接椅子の長椅子に掛けて待つ様に言われたアオは、体を固くして面接官の到着を待った。
たまに、外のカウンターの応対が聴こえてくる。
「お待たせ致しました」
ちょうど緊張の糸が解れた時に面接官の男が来たのでアオは思わず面接官をガン見してしまった
「どうか、しましたか?」
そんなアオを面接官は顔をひきつらせて見ている。
「何でもありません!」
「そうですか?
それなら、いいのですが…指導者に希望はありますか?」
「リクにお願いしたいと思っているのですが…」
「リクの了解は得ていますか?」
「はい、本人から誘いを受けましたので…」
「リクからですか?!」
「はい!」
「リクは、素材を採取に出た時に弟子を亡くしてから弟子を取らなくなってたんですが…
そうですか彼から弟子を取ると言いましたか!」
面接官の表情が明るくなり、脇に置いていた小箱をアオに向かって差し出してきた。
「これは彼が、まだ見習いであった時に提出してきた作品です」
アオは受け取り小箱を開いた。
すると中にはキャッツアイという石を抱いて眠る猫のブローチが入っていた。
今の僕には手が届かない。
そう思ってしまう作品だった。
これを見習いだった時に提出したのか?!
アオは、これから提出する課題が通る気がしなくなってしまった。
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