蒼の物語

のやなよ

文字の大きさ
上 下
31 / 36

魔王様の2人の嫁

しおりを挟む
城の屋根の上に座り、遠く彼方をボーッと見つめるフィンの後ろから女と言うには、まだ少し早い少女2人が空中に浮遊しながらフィンの両肩に、それぞれの両手を置いた。
「「フィン様」」
「ナナとノノか。
おはよう。二人共早いね」
フィンが後ろを振り向き2人に挨拶をした。
「おはよう」
2人の容姿は髪型以外、そっくり。
まずショートヘアの黒髪の少女ナナがフィンの肩に手を置いたまま微笑みを浮かべて挨拶を返してきた。
「…おはようございます…」
背中まであるストレートのロングヘアーを風になびかせて、振り向こうとしたフィンから距離をとったノノが遅れて返してきた。
「ノノは相変わらずの照れ屋さんね?」
後方で顔を少しうつ向き加減に浮遊するノノを見てナナは息を吐く様な仕草をした。
2人は仲の良過ぎる双子だった。
「そうだね」
フィンがナナに賛同しながらノノの姿を見て微笑んだ。
「そのうち慣れるよ。
時間は何もなければ永遠にあるんだし…
ゆっくりで構わないよ」
フィンの言葉を聞いたナナが向こう側の景色が透けて見える体を寄せてフィンの背中から腕を回した。
「これくらいしても………いいのよ~~」
後半は転移魔法で傍に戻って来たノノに腕を掴まれ投げ飛ばされたナナが空中で一回転して返してきたものである。
「私もノノもフィンの~奥さんなんだから~!!」
まだ続くナナの言葉にノノが魔法で空中に生み出した100個以上の雪玉を…
「おお…」
ナナが、それを見て顔をひきつらせる。
そしてそれはナナに向かっていっせいに放たれた。
「うああああああ…!!」
死んで幽体となった体でも双子の姉の放った魔法にはダメージを受けるらしい…
ナナの頭の上に乗っていた雪玉がコロンッと転がり落ちて他の雪玉がナナの周りに作った雪の小山の上を転がって行った。
「はい、怒らない、怒らない」
フィンは浮遊するとノノの頭を撫でた。
「これが出来るのは君だけなんだから…」
シュワーーッとナナの周りの雪が一気に気化して風に流れて行った。
ナナは、それを一瞥してフィンに頭を撫でられて直立不動になっているノノの姿に視線を向けて微笑んだ。
「いつになったら私を天に帰してくれるの?ノノ」
ナナは2人に聞こえない様な小さな声で呟いた。

          ※

ノノは夕刻仕事を終えて帰ってきた家の前で家族に買ってきたバケットの入った紙袋を地面に落とした。
そして前のめりになる体を転ばない様に腕でバランスをとり、両足で地面を踏みしめながら家に自分の体を運んだ。
窓ガラスに飛んだ赤い液体が重力に抗えず下に向かって垂れているのがノノの青い瞳に映る。
「気を付けて、いってらっしゃい」
朝にかけて貰った妹の声が耳に残っていて、その時の光景と共に頭の中で響いた。
「ナナ…ナナー!」
ノノはやっと辿り着いた半開きになっている玄関ドアのノブに手を掛けて開け放った。
すると仕事で嗅ぎなれている臭いがノノに漂って来て胸を鷲掴みにした。
 息が出来ない…
体が、その臭いを嗅ぐ事を拒絶したらしい。
ノノは両手を口元に当てて呼吸を整えた。
彼女の頬を汗が伝い流れた。
ノノの、呼吸が落ち着きを取り戻すと、家の中に足をゆっくりと踏み入れた。
「お母さん!お父さん!」
家に入って直ぐにある居間には赤く血に染まった両親の体が転がっていた。
絶命しているのは確かめるまでもない惨状で…
「ナナ…」
ノノは、そこに姿のない双子の妹を探した。
まだ繋がりを絶たれた感覚は感じていない!
まだ繋がっている!
きっと、まだ生きてる!
ノノは妹が、いつも座って外を眺めている彼女の部屋に足を向けた。
ガクガクと震える膝にバランスを崩して転びそうになる。
「ナナー!」
ナナは生まれた時から体が弱かった。
それなのに魔力は人一倍強く更に彼女の体に付加をかけていた。
その力が常に対価を大きく必要とする『先予見』にある事が、過去だけを見るノノに分かった時には、もう遅かった。
ナナの『占い』は、よく当たる。
噂は噂を呼び。
片田舎の麦畑に囲まれた一軒の家に、客人が訪ねて来ない日はなくなっていたのである。
しおりを挟む

処理中です...