蒼の物語

のやなよ

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黒竜襲来

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「我欲で3国を潰し甘い汁を吸った竜は、4国目で苦汁を舐めさせられても目を覚まさず、恋しい味を求めて5国目に食らい付きましたとさ…」
黒髪の掃除係は森の入り口で上空に現れた小さな6個の黒点を見上げて溜め息をついた。
そして青光りする魔法陣を自分の足元に広げ島全体を覆うと、空に向かって両腕を広げた。
彼を軸に、ゆっくりと浮き上がった魔法陣は島の上空に防御壁を築き、その存在を風景の中に溶かしていった。
「痛わしや…痛わしや…」
黒髪の掃除係は傍らにある岩に腰掛けて傍観する様に空を見上げた。

          ※

6頭の黒竜は魔界の城を臨む上空に翼を広げて浮遊し威圧感を漂わせている。
フィンと黒竜の間に沈黙が横たわった。
その緊張を解きほぐす様にフィンの頭の中に女の声が響いてきた。
「黒竜の鱗なぞ怯むに能わず、存分に私を振るうて下さいませ。
魔王様」
フィンの腰からさがる大剣が、彼の頭の中に直接声を送り込んできたのだ。
彼女は『魔剣』呼称を鳳凰(ホウオウ)。
この『魔界』という島を『島(という存在)』と共に海上に上げ一国を築いた『魔剣』である。
戦地にあっては主(魔王)に相応しい武器、または魔物(彼女の場合は鳳凰)となり守護する存在である。
「それは、頼もしいね」
フィンは左手を大剣の柄の上に置き笑顔を浮かべた。
「でも、あまり君を前線に出すのは私の好むところではないのだけどね」
「魔王様!私を労って下さるのですか?!
嬉しゅう御座います!」
「いや、そういう事ではなくてね…」
フィンの笑みが苦笑いに変わる。
「魔王様の傍らにある天運に私は感謝しております。
これは私のお役目。
遠慮は無用に御座います」
フィンの視線が下を向き笑みが消えた。
ただ、そこで静かに見守る魔界最大の魔力の持ち主。
 君は、いつまでソコにあるを是として在るつもりなのかな…ランド。
「これが片付いたら城下のゴミ箱を新調するよ」
 今回の御詫びに…
フィンが息を吐いた。
「まぁ!ランドが喜びますわ!
野良猫が入り込んで困ってましたから!
彼の困り顔が見れなくなるのは残念ですけど…」
 あ…そんな楽しみ方が…あったんですか…
フィンは、後ろ頭を掻いた。
するとフィンの頭の中に女の色香漂う笑い声が響いてきた。
「どうぞ、お気遣いなく。
私達は魔王様が政を行う国元に在る。
それだけで幸せで御座いますから…」
頭の中に響く優しい声にフィンは口元に笑みを浮かべた。
「そう…ですか」
「はい」と鳳凰。
フィンは自身を見下ろす黒竜に向かい合った。
「我が国に何の前触れもなく、大挙して押し掛けて来られた理由をお訊かせ願えますか?
皇帝陛下」
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