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エレス争奪戦カイマク
逃走劇カイシ
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虚無王たちの事件から一週間が過ぎ、午後に予定されていた最終種目は今年は中止となり、再び今日から学園生活が戻ってきた。
「おはようエレス、あれから一週間だね」
「おはようミレア、そうだね。色々あったね…」
エレスと学園長は英雄扱いされ、ミレアは瓦礫の山と化した競技場とその周辺を何もなかったかのように元に戻し、今日に至る。
「それにしても、街を直すのは流石に骨が折れるわね…」
「…うん、周りの目がこんなに辛いと思うのは始めてだ」
そのため、エレスたち二人は学園を通う際、誰にも気付かれぬよう、早くから登校することになってしまった。
「母さんは『流石私の自慢の息子!』って褒め称えられたけど、逆にプレッシャーだよ…」
「あらら…私は察してくれているのかあのことについては聞いてこなかったよ」
「まぁ、悪気がないのは分かっているけれど、そっとしておいて欲しかったなぁ………ん?」
校門を通過すると、目と鼻の先になぜか学園長と生徒会長がいた。しかもこちらを見て不気味なほどの笑みを浮かべている。
「エレス君、ミレアさん、おはようございます」
「おはよう、ございます…どうされたのですか?先程から笑みが溢れていますが…」
「あぁっ、もしかしてあのことを覚えてないようだね?」
「えっ?何を?」
全く身に覚えがないので首を傾げることしかできなかった僕に対し、二人は今にも声を出して笑いそうな雰囲気をしている。
「その様子じゃドンピシャの様だね、まぁ、楽しみに待っていると良いよ」
「……???」
―その時、僕は知らなかった。今日という日常が一瞬にして地獄の様な日に変わってしまうことに。
「…先生方まで学園長たちと同じ雰囲気だったね」
「うん…僕は、何かとんでもないことを忘れている気がする…」
「確かに、あの様子だからねぇ…」
「それじぁエレス、またお昼に」
「うん、またね」
こうして僕らはそれぞれの校舎に向かった。校舎に入るとやはり人影一つもなく、安心して教室に向かえた。まぁ、しばらくの辛抱だと思えば楽だった。
「ふぅ…」
自分の席に着くと、安堵の息を漏らした。この時間が続かないかなと思う位まで心が疲れていた。しかし、じきに生徒が登校し始めるので朝礼まで屋上でやり過ごすことにした。
………そして、朝礼の時間がやって来た。
「皆さんおはようございます。これから集会のため、体育館に向かいます」
明らかに何かあるとエレスは悟った。普段あまり笑わないケイル先生までも笑っているからだ。ちなみに僕はチャイムと同時に席に着いたため、誰にも話しかけられずに済んだ。
だが、体育館に向かう皆はなぜか僕の方に視線を寄せている。その意には好意のモノと憎悪のモノの二種が入り混じっている気がする。僕はこの空気を知っている、けどこの空気が何を意味するかまでは思い出せなかった。
そして、全校生徒が体育館に集まった。クラスでの視線より、更に多くの視線が僕に集まってることに少し恐怖を覚えた。
今朝の学園長や先生達の笑みから薄々なにか嫌なことが起こると予感はしていたが、この学校全体の空気でそれは確信へと近づいていく。原因がなにかまではわからないけど。
「皆さん、おはようございます。あの事件から一週間が過ぎてなお、あなた達の姿を見られることを幸福に思います」
「さて、皆さんザワザワしているので今日のゲストを紹介しましょうか。正直私も待ちきれません。それでは、どうぞ」
『ゲスト?こんな時になにやってるんだ?』と思いながら聞いていた。だが、そのゲストが姿を表したとき、僕は更に困惑することになった。
「(…へ?なんで?ちょっと訳がわからない…。)」
舞台裏から出てきて堂々と歩く女性、あの事件当時のドレスとは違い、高貴さを残しつつも少し動きやすそうな感じの服のスルカ様の姿がそこにあった。…にわかに信じられなかった…。
「皆さん、おはようございます。王妃のスルカ=アスタリアです。本日はお招き頂き、ありがとうございます。皆さん、熱くなっているようですね。正直私も気持ちが高ぶっています。…これから始まる戦いに!」
「(ちょっと…戦いってなにですか!?あんな事件後に戦いなんて言葉使っていいんですか!?)」
そんな不安を他所に彼女は話し続ける。
「ルールは単純、制限時間は三時間、皆さんには捕獲対象を追って頂きます。使っていい魔法、及び召喚は他方の妨害のためのみに使う攻撃系統と移動系統のみです。そして捕まえる対象は……」
息を少し大きく吸い込むと僕の方を見ながら指差し、言い放った。
『エレスさん、あなたです!』
「ちょ、ちょっと待って?なんで僕なの!?」
「私はあなたに言いましよ。『あなたを私の婚約者にする』と」
更に頭を抱えることになった。確かに言っていたが、状況が状況だから完全に忘れていた。先程から感じていた悪意の視線が更に増したことからこの空気の正体がわかった。
――正しく、“ハーレム”という状態になってしまっていたということに。
「彼を捕まえた者には私の権限でその者に見合った報酬を与えます。男性陣の多くは部費等でしょうか?ですが、女性陣の場合は…」
「エレスさんとお付き合いすることを望むことでしょう。ですが、この戦いには私も参加します。もちろん私の望みはエレスさんを婿とすることですので、誰かに先を譲る気はありませんわ」
「(…あぁ…学園が地獄絵図と化した…)」
笑顔で語る彼女のラブコールには恐れさえ感じてしまう。そんな僕はこの学園全てから追われることを認識すると共に、決死の覚悟を決めた。
「(こうなったら仕方ない。絶対…逃げ切ってやる!)」
「もちろんエレスさんは魔導装機の使用は禁止です」
元から使う気がない。そんなことしたらこの地獄が一気に逃げても良し、全員続行不可に陥れてもよし、という僕の無双ゲーへと変換されてしまうからだ。
そして、『このままでは開始早々蜂の巣にされてしまうだろう』と思った僕は、黒いローブを身に纏ってすぐにその場を去った。
「あら?こちらの意図に気付いてしまいましたか。でも、それでこそ私が認めたお方…。待っていてください、必ずあなたを私の婿にしてみせます」
この時の彼女の自身に溢れた不敵な笑みをみることなく、勢いよく体育館を飛び出して行った。
こうして、僕の学園を舞台とした地獄の逃走劇が始まるのだった。
「おはようエレス、あれから一週間だね」
「おはようミレア、そうだね。色々あったね…」
エレスと学園長は英雄扱いされ、ミレアは瓦礫の山と化した競技場とその周辺を何もなかったかのように元に戻し、今日に至る。
「それにしても、街を直すのは流石に骨が折れるわね…」
「…うん、周りの目がこんなに辛いと思うのは始めてだ」
そのため、エレスたち二人は学園を通う際、誰にも気付かれぬよう、早くから登校することになってしまった。
「母さんは『流石私の自慢の息子!』って褒め称えられたけど、逆にプレッシャーだよ…」
「あらら…私は察してくれているのかあのことについては聞いてこなかったよ」
「まぁ、悪気がないのは分かっているけれど、そっとしておいて欲しかったなぁ………ん?」
校門を通過すると、目と鼻の先になぜか学園長と生徒会長がいた。しかもこちらを見て不気味なほどの笑みを浮かべている。
「エレス君、ミレアさん、おはようございます」
「おはよう、ございます…どうされたのですか?先程から笑みが溢れていますが…」
「あぁっ、もしかしてあのことを覚えてないようだね?」
「えっ?何を?」
全く身に覚えがないので首を傾げることしかできなかった僕に対し、二人は今にも声を出して笑いそうな雰囲気をしている。
「その様子じゃドンピシャの様だね、まぁ、楽しみに待っていると良いよ」
「……???」
―その時、僕は知らなかった。今日という日常が一瞬にして地獄の様な日に変わってしまうことに。
「…先生方まで学園長たちと同じ雰囲気だったね」
「うん…僕は、何かとんでもないことを忘れている気がする…」
「確かに、あの様子だからねぇ…」
「それじぁエレス、またお昼に」
「うん、またね」
こうして僕らはそれぞれの校舎に向かった。校舎に入るとやはり人影一つもなく、安心して教室に向かえた。まぁ、しばらくの辛抱だと思えば楽だった。
「ふぅ…」
自分の席に着くと、安堵の息を漏らした。この時間が続かないかなと思う位まで心が疲れていた。しかし、じきに生徒が登校し始めるので朝礼まで屋上でやり過ごすことにした。
………そして、朝礼の時間がやって来た。
「皆さんおはようございます。これから集会のため、体育館に向かいます」
明らかに何かあるとエレスは悟った。普段あまり笑わないケイル先生までも笑っているからだ。ちなみに僕はチャイムと同時に席に着いたため、誰にも話しかけられずに済んだ。
だが、体育館に向かう皆はなぜか僕の方に視線を寄せている。その意には好意のモノと憎悪のモノの二種が入り混じっている気がする。僕はこの空気を知っている、けどこの空気が何を意味するかまでは思い出せなかった。
そして、全校生徒が体育館に集まった。クラスでの視線より、更に多くの視線が僕に集まってることに少し恐怖を覚えた。
今朝の学園長や先生達の笑みから薄々なにか嫌なことが起こると予感はしていたが、この学校全体の空気でそれは確信へと近づいていく。原因がなにかまではわからないけど。
「皆さん、おはようございます。あの事件から一週間が過ぎてなお、あなた達の姿を見られることを幸福に思います」
「さて、皆さんザワザワしているので今日のゲストを紹介しましょうか。正直私も待ちきれません。それでは、どうぞ」
『ゲスト?こんな時になにやってるんだ?』と思いながら聞いていた。だが、そのゲストが姿を表したとき、僕は更に困惑することになった。
「(…へ?なんで?ちょっと訳がわからない…。)」
舞台裏から出てきて堂々と歩く女性、あの事件当時のドレスとは違い、高貴さを残しつつも少し動きやすそうな感じの服のスルカ様の姿がそこにあった。…にわかに信じられなかった…。
「皆さん、おはようございます。王妃のスルカ=アスタリアです。本日はお招き頂き、ありがとうございます。皆さん、熱くなっているようですね。正直私も気持ちが高ぶっています。…これから始まる戦いに!」
「(ちょっと…戦いってなにですか!?あんな事件後に戦いなんて言葉使っていいんですか!?)」
そんな不安を他所に彼女は話し続ける。
「ルールは単純、制限時間は三時間、皆さんには捕獲対象を追って頂きます。使っていい魔法、及び召喚は他方の妨害のためのみに使う攻撃系統と移動系統のみです。そして捕まえる対象は……」
息を少し大きく吸い込むと僕の方を見ながら指差し、言い放った。
『エレスさん、あなたです!』
「ちょ、ちょっと待って?なんで僕なの!?」
「私はあなたに言いましよ。『あなたを私の婚約者にする』と」
更に頭を抱えることになった。確かに言っていたが、状況が状況だから完全に忘れていた。先程から感じていた悪意の視線が更に増したことからこの空気の正体がわかった。
――正しく、“ハーレム”という状態になってしまっていたということに。
「彼を捕まえた者には私の権限でその者に見合った報酬を与えます。男性陣の多くは部費等でしょうか?ですが、女性陣の場合は…」
「エレスさんとお付き合いすることを望むことでしょう。ですが、この戦いには私も参加します。もちろん私の望みはエレスさんを婿とすることですので、誰かに先を譲る気はありませんわ」
「(…あぁ…学園が地獄絵図と化した…)」
笑顔で語る彼女のラブコールには恐れさえ感じてしまう。そんな僕はこの学園全てから追われることを認識すると共に、決死の覚悟を決めた。
「(こうなったら仕方ない。絶対…逃げ切ってやる!)」
「もちろんエレスさんは魔導装機の使用は禁止です」
元から使う気がない。そんなことしたらこの地獄が一気に逃げても良し、全員続行不可に陥れてもよし、という僕の無双ゲーへと変換されてしまうからだ。
そして、『このままでは開始早々蜂の巣にされてしまうだろう』と思った僕は、黒いローブを身に纏ってすぐにその場を去った。
「あら?こちらの意図に気付いてしまいましたか。でも、それでこそ私が認めたお方…。待っていてください、必ずあなたを私の婿にしてみせます」
この時の彼女の自身に溢れた不敵な笑みをみることなく、勢いよく体育館を飛び出して行った。
こうして、僕の学園を舞台とした地獄の逃走劇が始まるのだった。
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