名探偵になりたい高校生

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五十五話 クリスマス会 六

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「はああああああああ」

 わざとらしくでっかいため息を吐く、灰村。
 その行動が気にいらない玲那は、目元をピクピクとさせ、灰村を見ている。
 これはまずいと思ったのは志田も同じらしく、いち早く、灰村に声を掛けた。

「やっほー、ハイムー。さっきぶりー」
「超棒読みなんだけど…そろいも揃ってこんな所でなにしてんの?」
「みんなで、集まったらさー、ハイムーにも会いたいなぁって」
「志田さんとはさっき会ったけど?」
「私がハイムーに会ったって言ったらさー、ゆっざが会いたい会いたいってうるさくってぇ。ねえ、ゆっざあー」
「え、俺かよ・・そ、そうなんだよ。灰村さんお久ー」
「あら、小麦色の肌が、壁に同化して、存在に気がつかなかったよ。久しぶりね湯澤君。私達が勢揃いなんてなんだか懐かしいね。中学の時は四人でよく行動したね」

 行動を共にしていたのは五人だ…
 灰村も玲那と同様、四人で勢揃いと言う。もしかして、君達は、お互いが一緒にいても無意識に存在を消しているのかな?

「灰村。その、悪い。見ちゃった」
「先輩の事は誰にも言わないって約束してくれるなら、別に私はいいけど」
 灰村は隣に立つ夢沼先輩を指差す。
「ああ、約束するよ。夢沼先輩の事は誰にも公害しない」
「あら、うれしいね。間宮くん。君は優しいんだね。本気で惚れちゃっていいかな?」
「先輩…冗談はこれ以上言わないで欲しいんですけど」
「そ。じゃあ、本気になっちゃったらその時は改めて声かけさせてもらうよ。それじゃ、私はこれで。中学同級生がいる中、私は邪魔だし」
 夢沼先輩は手をヒラヒラとさせ、どこかに言ってしまった。片手にはカメラを持っていたから、クリスマス会の様子を撮りにでも言ったのだろうか。
 なんにせよ、これで灰村も先輩に絡まれなければいいが…
 それよりも…
 俺は灰村に近づいた。
 灰村は眉間に皺を寄せ怪訝な表情をしている。
「なに?」
「灰村、探偵みたいで、かっこよかったぞ。いつもはヒントだけ出して俺に任せるくせに」
「君がさっさと、調べないからでしょ」
「それはごめん。でもな、お前一人でこんな事はもうするな」
「……」
「もし、先輩が一人で来なかったらどうする。この間みたいに変なやつら連れてたら?」
「そうね。その可能性が無いとは言い切れなかったね。その場合はでかい声で悲鳴でも上げてたよ。でも、絶対に一人でくるって思ってたからさ。私から挑発するように連絡したし。結果的に一人で来た訳なんだから」
「そうじゃねえだろ!!」
 思わず声を荒げてしまった。
 灰村も驚いたようで、ビクッと肩を動かしている。
 でも、俺は言わずにはいられない。
「俺は、お前に何かあったら嫌だから、心配してたから、一人で行動するなって言ってんだ!!先輩が一人で来たから良かったとかそうじゃない!!ここ最近お前は全然元気無かったし本当に心配してたんだ。お前ならあの人には負けない、そう信じていたけど、それでも万が一何かされたらって」
「だったら、放置すんなよ!!一人で、行動したことは軽率だったかもしれないけど、君は君で、なにもしなかっただろ!!私が困ってたら助けてくれるんじゃなかったの!?」
「それは、そうだけど…」

 俺が中学時代に灰村に言った言葉だ。灰村に口で勝てるわけが無いのについ、怒ったら、見事に逆ギレされてしまった。

「だらしないわね、考ちゃん」
 俺の後ろに立つ玲那は腕を組みながらこっちを見ている。

「灰村さ、あんたでかい悲鳴上げるとか言ったけどさ、こんな何も無いところで悲鳴上げても、誰も来ないわよ。拉致されて、乱暴されたあげく、動画撮られて、終わり。あんたは完全に終わり、脅されて、一生性奴隷にでもされるわね。その事も考えられなかったわけ?」
「うるさいわね。今あんたに関係無いでしょ」
「正論言われたら、関係ないでしょで話を逸らすのは相変わらずね。両校共同イベントで、乱交騒ぎなんて起きたら、こっちが困るのよ。あんたが勝手に人生終わるのは結構だけど、迷惑の掛からない所で、やれよ」
「こんなイベントがそんなに大切かしら?」
「歴史あるイベントよ。灰村ごときが否定していい事じゃ無いわよ。全力高校の校則として、サボりは出来ないらしいけど、イベントに興味ないなら、前もって体調でも崩せ」
「ちょっとぉ。のっちゃんもハイムーもせっかく会ったんだし、ケンカはやめようよ。クリスマス会だよ?歴史あるイベントにケンカはだめー」
 志田が二人の仲裁に入る。
 なんてありがたい。
 そもそも、俺が灰村になにも言わなければ良かったんだが…
「紅羽さん…そうね。こいつと言い争うなんて時間の無駄ね。そろそろ行きましょうか」
「ケンカはダメダメ。仲良く仲良く。ね。ハイムー」
「私は別にケンカしたつもりは無いんだけど。そっちの女王が勝手に参加してきただけよ」
「まあまあ。そうだ、せっかくだし、ハイムーも一緒に行動しようよ」
「あいがたい申し出だけど、遠慮しとく。ごめんね、志田さん」
「紅羽さん、こいつを誘っても無駄よ。そろそろ、プレゼントの時間だし、ホールに戻りましょ」

 プレゼントの時間。
 クリスマス会が始まる前に各校それぞれの生徒がプレゼントを用意し、先生に渡す。
 先生がプレゼントに番号を張り、俺達生徒がホール入場前に、番号を配り、同じ番号が書かれたプレゼントを貰える事になっている。
 したがって、自分で買ったプレゼントがそのまま自分の元に戻ってくる事もある。
 俺が適当に選んだプレゼントは誰が手にするかな~。

「もう、そんな時間かよ。急ごうぜ」
 玲那、志田、湯澤は俺と灰村を残し先に行ってしまった。

「なあ、灰村…」
「さっきは、ごめん。君の言っている事も正しいよ。一人でやり過ぎた。私にあんな事あったもんね。心配してくれてありがと」
「いや、俺こそ、いきなり怒鳴ってごめん」
「お互い謝ったし、これでもう終わり。さ、ホールに行きましょ。プレゼント貰わないと」
「欲しいのか?」
「貰えるものは貰うわよ。いらないもの貰ったら、売ればいいし」
 人様のプレゼントを売りますか…
「あ、そうだ。灰村これ」
 俺は水族館で買った、イルカのキーホルダーを灰村に渡す。
「なに、これ?]
「イルカのキーホルダー」
「見ればわかるけど…」
「俺からのクリスマスプレゼントだ」
「もうちょっと、高価な物欲しかったんだけど…」
「高校生に高価な物なんか買えるか。悪かったな、安物で」
「そうね。でも、ありがとう。あいがたく貰うわ」
 灰村は手を出し、キーホルダーを受け取ってくれた。
 その際に見せてくれた笑顔が、天使の笑顔か、それとも悪魔の微笑みなのか…俺が買ったキーホルダー、ネットで売られないことを願います。

「灰村は、プレゼント何買ったんだ?」
「ゲーセンで取った、孫の手」
 貰った人可哀想だな…
「間宮くんは?」
「俺は、お菓子の付録のシール」
「ゴミね」
 選ばれた人ごめんなさい。

 ホールに着き、渡された番号は二十番、灰村は、十一番。
 お互いのプレゼントが手元にこないことを祈りつつ、袋を受け取る。
 袋を開ける前に、周りから、深いため息や、喜びの声、など様々聞こえてくる。喜びの声もあると言うことは、真面目に選んだ人もいるんだな。来年はちゃんと選ぼうかな。
 さて、俺はと…
 ガサゴソと袋を漁る。
 大きめの袋の割に中身は小さいな。
「これは…」
 俺の手元には、本堂恵子のブロマイド写真に直筆サインが書かれている。
「本堂さんか…相変わらず可愛いな」
 俺はこんな可愛い子に告白されたんだよな…

「あ。その写真。間宮くんに渡ったかあ」
 手に持つ写真をのぞき込むように眺めながら、しゃべり掛けてくる、女子。
「やっほー。久しぶりー」
 目の前にいる女子は、深々と帽子をかぶり、サングラスを掛けている。まるで顔を隠しているようだ。
「変装?」
「そっ。一応芸能人だしね」
 目の前にいる女子。本堂恵子さんは、少しだけ、サングラスをずらし、顔を見せてくる。
 文化祭以来に見た、アイドルはあの時よりもさらに可愛くなっていた。

「久しぶりだね。今日は仕事は休み?」
「ううん。近くで、ドラマの撮影してるんだよ。霧島先生に、今日ここでクリスマス会をやるって聞いてさ、時間が合えばってね。んで、霧島先生にプレゼントを渡してたんだぁ。いやー、まさか、間宮くんに受け取って貰うとは。これはあれかな。愛の力かな」
「だとしたら凄いね。本堂さんの愛の力は」
「でも、私は、あの時の告白で、一応区切りつけたんだけどな」
「俺はこんな美女に告られたんだね。一生の自慢になるよ」
「付き合ってればもっとね」
「そうだね。惜しいことをしたかも」
「じゃあ、付き合っちゃう?今はまだ、フリーだよ」
「う~ん。悩む」
「あはは。時間切れ~。もう付き合いませーん。間宮くんは一生後悔しながら生きていきなさーい」
「制限時間早くない?」
「目の前の美女に対し悩んでるからだよー。一瞬の詰まりは、司会者さんに印象悪くしちゃうぞ。この子に話振っても、すぐに答えられないって」

 テレビの裏事情だろうか?
 本道さんも苦労しているんだな。
 芸能人って華のある仕事だが、常に努力してないとダメなんだろうな。情報に敏感になり、常に最先端を行き、流行りを作らないといけない。本堂さんが今テレビで活躍しているのも彼女の努力の賜なんだろう。

「それにしても、本堂さんも生徒なんだから、変装しなくてもいいのでは?」
「そう思ったけどさ。私、一応芸能人だし。この場で、私がいるって、なったらさ、なんか、せっかくのクリスマス会が、違う物になっちゃったら悪い気がして。それじゃ、こなければいいじゃんって感じだけど。私もやっぱり、友達に会いたいとか思っちゃったりもしてさ…」

 本堂さんの優しさ、なんだろうか。確かに、今ここで、アイドル、本堂恵子がいるって周りが騒ぎ出したら、本堂さんはサインしたり、色々やることになるだろう。カラオケエリアもあるし、歌も歌うことにもなる。そうなれば、クリスマス会では無く、本堂恵子のイベントになってしまう。全力、全開共に、本堂さんのファンはいるだろうし。
 彼女はそれを避け、自分が会いたいと思っている人達にあいさつしに来ただけなのだから。

「そうか。なら、お忍びでって事で、俺も本堂さんが来たことは黙っておくよ」
「さすが名探偵。守秘義務を守ってくれるね。それじゃ、私、行くね。会えてうれしかったよ。バイバイ」

 笑顔で手を振り、そそくさとホールから姿を消していく。

「帰ったの?」
「他の友達の所に行ったんだと思うけど」

 本堂さんの姿が見えなくなると同時に灰村が姿を現す。
 こいつ、本堂さんが来てること知ってたな。

「私には、君に会いに来たとしか見えなかったけれど?」
「そんなことないだろ」
「……だから、鈍感なんだよ」
「なんか言った?」
「別に」
「お前も会えば良かったのに」
「私はたまに会うから」
「えっ!?そうなの」
「彼女と結構連絡取るよ。本堂さんの少ない友達の一人として」
「少ない?そんなことは…」

 …いや、アイドルになる前は多かった。
 アイドルになって、芸能人として活躍していけば、彼女は遠い存在になってしまうし、友達だと思っていた、奴が態度を変え、色々と苦労しているかもしれないな。

「会う機会が減れば、交流もしなくなるし、彼女を利用して、芸能人を紹介して貰おうとする人も増えるでしょ。実際いたみたいだし」
「そっか。なら、灰村は貴重な友達なんだな」
「そういう事ね。お互い、恋バナした仲だし」
「灰村が恋バナね…」
「所で、このクリスマス会のプレゼント交換。最後にプレゼントが余ったらしいの。これは謎よね?」
「謎か?答えは知ってる?]
「もちろん。でも君が自分で考えな。最近雑用の依頼ばっかで、こういうのやってないでしょ。原点回帰」
「灰村からの依頼かな?」
「違う。生徒会からの依頼。簡単だから、ヒントもなし。てか、もう気が付いてるよね」

 プレゼントが一つ余る、か。
 答えは簡単だ。

「本堂さんはプレゼントを貰わずに帰ったが答えかな。プレゼントは霧島先生に渡したって言ってたし、生徒会のメンバーは本堂さんが来てること知らないだろ」
「正解。さすが、名探偵を目指す者」

 そして、クリスマス会も無事終わり、二次会に行く者、帰宅する者と別れた。
 余ったプレゼントは、お菓子の付録のシールであり、俺が適当に入れた奴だ。正解したとの事で、生徒会長の檜山先輩から、シールを貰い、俺の元に戻ってきた。
(本堂さんが来ていた事は内緒にしてもらう事を条件に答えた)
 生徒会長の隣に立っていた柳さんが何か考えているような顔をしていたのが気になったが…
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