名探偵になりたい高校生

なむむ

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六十五話 灰村杏中学二年 六

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「ここまでが、私が施設に行った経緯」
「…うん」

 間宮くんは、表情を一つも変えずに、私の話を聞いている。
 真実か、それとも嘘か。
 それを考えているのかな。

「さて、じゃあ。私がここに引っ越してきた理由を話すね」

 ーーーー。

「はあー。すげえな。杏の記憶。つーか特技」

 私は自分の障害の事を全て話した。五感で感じた事は全て忘れる事が出来ないと。
 その上で、由美さんは引く事は無く、ただ単に驚いていた。

「それに、五感で感じた事全てかよ。母親はそこまで理解してなかったよ」
「気持ち悪くないの?」

 母親に、気持ち悪いと言われた後なだけに、由美さんもそうじゃないかと思ってしまう。

「なんでよ。どこが気持ち悪いんだよ」
「だって、ママは…」
「あの女の事は、もう話すな。いいな。忘れる事が出来ないなら、話す事もするな。今日から私が杏の母親だ」

 私が母親と言う由美さん。
 当時の由美さんの年齢は二十歳。
 その若さで自分を母親だと思えと言うなんてって後の私は思った。

 ここの施設は由美さんの他に、二人の親代わりがいる。
 私のように、親と暮らす事の出来ない人達を三人の親が、面倒見てくれる。
 一人何人ではなく、全員が親だ。
 まあ、もちろん、その人達をお母さんと呼ぶ事は無いけれど、みんな、由美さん達を親だと思っている。

「それにしても、杏の事を知ったんだ。私の事も知ってもらわないとね」

 由美さんは咳払いした。

「私は遠野由美。二十歳。現在彼氏無し。モテない訳じゃ無い。どっちかというとモテる」

 私はこのお姉さんは何言ってんだと思った。

「あと、ムカついたらぶん殴る。キレやすいから注意しな。これでも丸くなったって言われっけどな。後、酒好き。タバコもたまに吸う」

 その後も由美さんは自分の事を淡々と話して来た。

「さて、色々話したし、今日はここまで。杏はしばらくは、私と一緒の部屋な」
「うん。わかった」

 それから、私の施設の生活が始まり、最初は由美さんとしか話してなかったけど、徐々に、他の仲間と打ち解け仲良くなっていった。
 それでも、やっぱり、由美さんの近くにいたくて、由美さんの手伝いなどして、そばにいた。

「杏、バカども起こしてこい。あと二分で起きないと、二度と起きれない身体にするぞって言ってこい」

 私はいわれるがまま、部屋で眠る男の子に由美さんが言った事をそのまま伝えた。
 すると、すぐに飛び起き、由美さんの元へ向かう。
 由美さんは普段は優しい。けれど、怒ると超怖い。

 私は由美さんを見ながら、成長して行く。
 たまに由美さんの真似をしてみたりした。

「ああ~、なんだよこのドラマ、この俳優の演技うっぜー」

 皆が寝静まったら後、リビングにある大きめのソファに、スルメイカを食べ、ビールを片手にテレビに映る俳優に文句を言う由美さん。
 その姿は、テレビでよく見るだらしないおじさんのような姿だった。

「ちょっと、由美ちゃん。なんて格好してるの。杏ちゃんが見てるでしょ」

 だらしないおじさん見たいな姿の由美さんを注意する、菜央さん。
 菜央さんはこの施設で、二番目に若い。この時菜央さんは二十六歳。
 由美さんのお姉さん的ポジションの人だ。

「ああー。杏ならいいよ別に。こいつには私の全てを見せてっから」
「ねえ、由美さん。うっぜーってなに?」
「あん?そーだなー。うっとうしいとか、うるさいとかかな?」
「へえー。ふふ、うっぜー」
「おっ。私の真似かー。こいつ可愛い事しやがってー」

 私の頭をわしゃわしゃとする由美さん。私は由美さんに頭を触られるのが好きだった。

「こ、コラ、杏ちゃん。そんな汚い言葉使っちゃダメでしょ」
「ふーん、いいんだよー。菜央さんうっぜー」
「お、いいぞ、もっと言え杏」
「うっぜー、うっぜー」
「全く、この二人は…」
「それより、菜央ちゃんさ、彼氏出来た?」
「唐突になに聞いてんのよ。出来てないわ」

 楽しかった。

 施設に来て、九年。私は、中学一年になった。
 私は中学になり、一応配慮とのことで、一人部屋を貰う事が出来た。
 けど、寝る時と、勉強をしている時と、私がいない時意外は、ほぼ、由美さんがいた。

「あのさ、たまには一人でいたいんだけど」
「なに、照れてんの。それより、イケメンいたか?」
「さあ、探してないけど。いるんじゃない」
「杏は見た目はいいから、彼氏すぐ出来そうね」
「別に今すぐ欲しくないけど…」
「私は、入学初日で、五人に告られ、一ヶ月で、学校のトップのヤンキーをぶっ飛ばした」

 由美さんは中学、高校とヤンキーだった。ケンカなら、女だろうが、男だろうが、負け無しで日本でトップになった人だった。
 それゆえに、施設で由美さんにビンタされた事のある、男は、由美さんには二度と逆らわなかった。
 男同士のケンカを止めに入った、由美さんはその二人を一撃で沈める事もあった。

「なんの自慢だよ…」
「ちなみに初体験は中三の時。学校一のイケメンと放課後の教室でヤッた。超興奮するぞ。別に教師どもにバレても構わねえって思ってたし。おすすめするよ」
「なにがおすすめよ。バカじゃん」
「おお、生意気な事言うようになったじゃん、クソガキ」
「はぁ!?うっざ」

 クソガキって言葉にムカついた私は由美さんを睨む。

「ほお、中々鋭い睨みじゃん。それが、小学ん時に男子を追い払った睨みか」
「全然怯まないね」
「当たり前だろ。潜ってきた死線が違うんだよ。それにお前のその睨み、ちょっと甘い」

 そう言うと由美さんは私の顔を触るために、手を伸ばす。
 その時の私は少し、ムカついていた為、由美さんの手を払った。

「やめて、触んな」

 軽く手を叩いたのがまずかったのか。次の瞬間、払った手とは逆の手が私の頬に軽く触れていた。
 私は視線だけ動かし、手を見る。

「私の腕を払う勇気だけは認めてやるよ」

 パンと軽く頬を叩く。

「痛いんだけど…」
「超手加減してやっただろ。本気のビンタだったらお前、むち打ちになってるよ」
「悪いのそっちじゃん」
「生意気な口を聞いたお前が悪い」
「生意気な事言わせたのは由美さんでしょ」
「そうだね。ごめん」
「私もごめん」

 お互い軽く謝ると、由美さんは再び手を伸ばし、私の目尻を触る。

「よし、こんなもんだろ。杏のこの表情。この状態で、相手見て見ろ、大抵の奴は怯む。怯まない奴がいたら、強敵か、お前の彼氏候補だな」
「なによそれ…」

 鏡に映る自分の状態を記憶する。
 なるほど、いつもと違うな…

 中学になっても私と由美さんの関係は変わらなかった。菜央さんには、由美さんに似てきたと言われる事もあった。
 変わらず楽しい日々だった…

 中学一年の夏頃、私の身体に、異変が起きた。
 異変とはただの成長なんだけど。
 私は胸が夏頃に成長し始めたのだ。中一の春にはぺったんこだった胸は成長し、Cカップ~Dカップの間くらいに成長したのだ。

 胸が大きくなると、今まで見られなかった学校の男子からの視線が強くなる。体育で、走っている私を見る気持ち悪い視線。
 まあ、思春期だし、それは仕方がない事だとは思っている。同じクラスにいた胸の大きな女子も同じ事を言っている。
 学校だけだし、まあ、我慢した。
 けれど…

 どうやら、施設内にも学校の男子と同じように、私の胸をみてくる、気持ち悪い視線。
 将だ。

 将は、私が施設に来たときからすでにいた奴で、年は私より三歳上だ。幼い時は、たまに話していたがそこまで仲良くはない。将自身がご飯を食べると、部屋に籠もってゲームをしている人だ。面倒見も決して悪いわけでもなく、自分より、年下の男の子と一緒にゲームをして遊んだりしている。

 そんな将が、私の胸を見ている。
 最初は気のせいかと思ったが違った。あいつは、ずっと見ている。
 私の胸を。
 ご飯を食べている時も、飲み物を飲んでいる時も。全て私の胸を見ている。
 気持ち悪い…
 将をそう思ってしまった。

 夏休み、リビングのソファで雑誌を読んでいると、視線を感じる…
 見上げると、将が私を見ていた。

「…な、なに?」
「別に、なに読んでるのかなって」

 そう言った将だが、雑誌に興味はない。視線は私の胸…
 タンクトップを着ていた私を上から眺め、
 見えていた谷間を見ていたんだろう…

「あのさ、胸みるのやめてよ」
「見てないよ。杏ちゃんの気のせいだよ」

 これ以上の討論は無駄ね。

「あっそ…てか、雑誌読みたいなら、渡すけど」
「いや、大丈夫だよ。またね杏ちゃん」

 将はそのまま部屋に戻る。

 次の日の朝、みんなで朝ご飯を食べる時に将は私の正面に座った。
 いつもは、隅に座るのに…
 夕飯には私の隣に座る。

 今まで気にならなかったけど、将はどこか変だ…
 家族同然の皆をそう思いたくないが、将の突然の行動が気になってしまう。
 中学二年の夏…私は、将のとんでもない姿を見てしまった…

 その日、私はお風呂から出て、部屋に戻った時に、自分の服を洗濯するのを忘れ、洗濯しようと、脱衣所に戻った。
 脱衣所に戻ると、明かりが点いていて、扉が少し開いていた。
 私は扉を開けようとしたした時、声が聞こえたから、手を離し、隙間から覗いた…
 そこには…

「ハア、ハア。杏ちゃん、杏ちゃん。こんなラッキーあるんだ!!」

 私の下着の匂いを嗅ぎ、シコッている将がいた…
 洗濯をしていない私の下着を嬉しそうに匂いを嗅ぎながら、自分のあそこを私のパンツに擦りながらしていた。

「いい匂い。杏ちゃん、杏ちゃん…あんちゃ…うっ…」

 自分の精液を私のパンツの中に出す将。ニヤけづらが本当に気持ち悪かった…

「はぁ…はぁ…杏ちゃんとHしたいな…」

 なにしてんだよお前と扉を開けて、言いたかった…けど、それ以上に怖かった…
 こいつ、いつも私をオカズにしてんのかと…
 私は部屋に戻り、すぐに身に着けている下着を脱いだ。
 この下着も将の餌食になっていたかも知れないと思うと着ていられなかった。タンスにある全ての下着がそう見えてきた…
 明かりを消し、部屋の隅で蹲る中、廊下のから、ギシギシとゆっくりこの部屋の方に近づいてくる気配を感じる。
 将か?
 私にはそうとしか思えなかった。
 足音が部屋の前で止まり、ドアノブが回り始める。

 ガチャガチャ。

「今日もダメか…触りたいな。杏ちゃんに…」

 小さな声だが、はっきりと聞こえた。将だった。
 あいつ、いつも私の部屋に来て扉を開けようとしていたのか…
 鍵をかけ忘れた事はないから、侵入された事は無いと思うけど…
 私はベッドに目を向けた…
 いるときは鍵を掛けてる…

 …いない時は…?

 鍵は掛けてない…

 私がいない時、将は、この部屋に来ているのではないか…?
 この部屋に来て、脱衣所でしていた事をしているんじゃ…
 そう思うと身体が震えてくる。
 同じ屋根の下で暮らしていた、家族同然の奴に、まさか性の対象にされていたとは…
 血は繋がっていない…しょせんは他人よね…
 由美さんに相談する…?
 でも…

 次の日、私は由美さんの部屋に行き、この施設を出て、一人暮らしをすると伝えた。

「却下に決まってんだろ。いきなりどうした」
「別に…自立出来るかなって」
「まだ、中学二年のクソガキじゃねえか」

 私はここを出る事を決めた。
 由美さんがなにを言っても出る。
 私の決意は変わらない。
 将も高校を卒業したら、ここを出る。それまで、我慢する事ももちろん考えた。
 けど…もし、もし、この施設に私と将しかいない時が訪れたら…
 将がなにかしてくるかもしれない。将は体格はよくは無いけど、それでも、私よりも身長も高く、力もある。襲われたら敵わない…

 だから、私は将から逃げる事にした。あいつの気持ち悪い視線には耐えられない…

「由美さんがダメって言っても、私出て行くから」

 由美さんはタバコを吸い、煙を吐き出し、私を見た。

「杏もいつかはここを出て行く事は分かってる。ここには最長で二十歳までしか住めないからな。大人になり、自分で生活出来る力が身についたら、出て行くのがここの決まりだ。出て行く時には資金も渡すし、遊びに帰ってくる事は歓迎してる」
「うん。知ってる。だから、私はそれを早めただけだよ」
「早過ぎんだろ」
「いいじゃん。別に」
「……本気なんだな」
「本気だよ」

 由美さんは私の事を理解している。
 だから、私がふざけてこんな事を言っている訳じゃないと分かってくれる。
 由美さんはタバコを灰皿に押し付けると立ち上がった。

「わかった…いいよ。菜央ちゃんと、青葉さんは私が説得する」
「…ごめんね。アパートも自分で探すし、家賃もバイトして、払うから」
「生意気言ってんじゃねえよ。ガキがそこまで出来るわけ無いだろ。世間舐めんな。お前がここを出る事は許可してやる。ただし、条件がある」
「条件…?」
「そうだ。まず、アパートは私が見つける。家賃も私が払う。バイトも私が紹介する。学校も私が決める。スマホも買ってやる。毎週一回は電話しろ。それは二十歳までだ。それを一つでも破ったら強制的に戻す。ぶん殴ってでもな。いいな」
「家賃は…自分で…」
「ダメだ。子が苦しむ姿を親に見せんな。いいな。わかったな。返事は?」
「…はい。ありがとうございます」
「後、一番重要な事だけど、私に隠し事はするな、嘘をつくな。ついてもいいけど、バレる嘘は付くな。バレた時は本気のビンタが飛んでくると思え」
「わかりました」

 そうして、由美さんはすぐに色々な人に電話を掛け始め、私の住む場所、学校、バイト先があっさり、決まった。
 ヤンキーとして有名だった由美さんは色んなツテがあるようだ。

 由美さんの説得もあり、菜央さん、それに青葉さんからも了承を貰えた私は、施設を出て行く事になった。仲良かった弟、妹達と別れ、アパートに向かう。
 別れの際はもちろん将もいたが、由美さんは私が住む場所を誰にも言わなかった。ここを出たら、一人の女性。私のプライベートを教える事はしないとの事。

「さて、今日からここがお前の住む場所だ。一週間は私と生活するぞ。色々、教えなきゃならん事もあるし」
「うん。わかった」

 一週間はあっという間だった。
 由美さんに料理や、節約術。PCで出来る色々な事。

「それじゃ、私は施設に戻るぞ。お前には、私の全てを教えた。一人でも生きていけるとは思う。でもな…」
「なに?」
「新しい学校では友達作れよ。お前小中とあまり友達作んなかっただろ」
「施設をバカにする奴いたからね」
「妹達が泣かされた時、相手を睨み付けて、ビビらせたんだっけ?_」
「そう。この目付きの悪さでね。由美さんに教わったこの睨みは凄い効果だよ」
「ケンカするなら、相手は病院送り手前までなら大丈夫だからな」
「暴力はしないよ…」
「ま、そうだな。お前は暴力似合わないな。一応教えたけど」
「使う時がない事を祈るよ…」
「後は、彼氏作れよ。杏は、笑顔が強烈に可愛いからな。普段の目付きの悪さとのギャップがすげぇ」
「彼氏は別に…」
「そうか…」

 由美さんはバッグを持ち玄関まで歩いて行く、私も、その後に続く。

「それじゃな」
「うん…」

 由美さんは私に思い切り抱きついてくると、声を震わせながら言って来る。

「いつでも、帰って来いよ。私はお前の事本当の娘だと思ってる。他の連中には秘密だけど、一番お前が好きだよ…杏」
「…私も、由美さんの事大好きだよ。出会えて本当に良かった」
「最後に、これだけ伝えるぞ。もし、杏が自分の事を話す時が来たとするだろ。その時、聞くだけ聞いて、自分は何もしないだけの奴は信用するな。杏の事を聞いて、自分の事も隠さず話すような奴が現れたら、そいつは信用しろ。いいな」
「わかった」

 由美さんはそっと身体を離し、ドアを開け、出て行く、振り向く事の無く…

 こうして、私は一人暮らしが始まった。
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