名探偵になりたい高校生

なむむ

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八十六話 体育祭 十一

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 綱引きを終え、次の競技の男女混合リレーにも出場する俺は、配置についた。
 男女混合リレーは男女ともに150mを女子男子の順で走る競技だ。
 リレーといえば体育祭でもっとも盛り上がる競技。それを最終競技に持って行く学校も多いだろう。
 体育祭の花形競技とも言える、リレーにはやはり、各クラス主力の人が出場するようだ。
 各クラスの出場者を眺めていると、数人からの視線を感じる。先ほどの綱引きでかなり目立ってしまったせいなのだろうけど、まあいいか。
「おーい、孝一」
 同じく競技に参加の快斗が近づいてくる。
「どうしたの」
「さっきの綱引き凄かったなー」
「ああ、あれね。まあ、周りの人の協力のおかげだよ」
「孝一一人で引っ張ってんの凄えって思ったぜ。どんな筋肉してんだお前は」
「格闘マスターの父親の教育の賜だよ」
 快斗が素直に褒めてくると少しむず痒い。
「雄二も頑張ってたよ」
「あん?雄二?いつの間に佐竹と名前で呼び合う中に?」
「綱引きが産んだ友情だよ」
 そう言って、クラスの方に視線を向け、雄二の方を見る。
 一人、孤独に立っていると思っていたが、堀田さんに近づいているでは無いか。

「おい、ほ、堀田……」
「んん?なにか用か」
「いや、その……綱引きの時、応援ありがとうよ」
「……まあ、気にするな。お疲れ」

 さて、いよいよ始まるリレーだが。
 出場者は各クラス、男女五名ずつの計十名だ。
 三組トップバッターは篠山しのやまゆうさん。
 クラスでは静かに読書をしているが、部活になると活発になるとの事。所属しているのはサバゲー部。
 近衛くんの情報では、篠山さんは結構男子人気の高い人らしい。

 篠山さんはスタートラインに立ち、俺達三組の黄色いバトンをこれから繋いでいく事になる。

「位置について、よーい」

 バンッ!!

 スターターピストルが鳴り、各走者一斉に走り出す。
 まず、飛び出たのは、ライバル四組女子。その後を追うように、五組の女子が走っている。篠山さんは現在五位と後方を走っている。

「第一走者から、みんな速いじゃない。なんとか突破しないと後で灰村ッチに怒られちゃうよ」

 各クラス足の速い人が集まっているようで、サバゲー部としてあちこち走り回っている篠山さんも足は速いが中々抜けずにいる。
 その後なんとか二人抜き三位で次の走者にバトンを渡す所まで来た。

「けんちゃん、頑張って!!」
「了解」

 三組第二走者は篠山さんと同じく、サバゲー部に所属している、吉本よしもとけんくん。クールにバトンを受け取り、走って行く。名前通りお堅い感じがするな……。

 バトンを胸元に持ち、まるで銃を持つように走る独特の走り方をしている。そのせいかどうかはわからないが、一つ順位を落とし、四位になってしまう。
「すまない。抜かれてしまった」
「仕方ないって、任せなさい!!」
 三組続いての走者は金田さん。
 金田さんはバトンを受け取り、走って行く。
「体育祭あんま出番無かったし、ここで活躍するわよ!!」

 金田さんは宣言通り、二人抜く活躍を見せ、四位まで下がった順位を二位まで浮上させる。

「かっねださーん!!俺はここだよー!!」
 続いての走者はスケベ代表近衛くん。念願の女子が自分に向かって走ってくる姿を見れて嬉しそうに金田さんを迎える。
「ちょ、キモいんだけど……」

 バトンを渡す前に金田さんは近衛くんに軽く引いた事で失速し、差があった三位のクラスに差を詰められ、ギリギリ二位でバトンを渡す事になった。

「うっほーこのぬくもり、大切にしたいー!!」
 俺から見ても気持ち悪いと思ってしまう発言をしながら近衛くんは走って行く。
「なに、あいつ。マジキモいんだけど……」
 走り終わった金田さんは、完全に引いていた。

 近衛くんは二位をキープ出来ず、順位を一つ落とし三位で、次の走者にバトンを渡す。
「小野原さーん。受け取ってー」
「君からバトン受け取るの嫌だな……」
 近衛くんから渋々バトンを受け取り走り出したのは、小野原おのはら葉子ようこさん。
 登山部に所属している。褐色の肌の健康的な印象の彼女は淡々と走って行く。順位は変わらず、三位のまま次の走者にバトンを渡す。
「差を詰めるだけで精一杯だったよ。ごめんね。全ては君の友達のせいだから」
「ああ、ごめん。あの変態には後できつく言っとく」
 続いては神藤しんどうてつくん。サイクル同好会に所属。
 趣味はトライアスロンらしく、全体的にバランスの良い体つきをしている為か、綺麗なフォームで走りながら、一人抜き、順位を一つ上げ三位に浮上。
 ちなみに神藤くんは近衛くんと仲が良いらしい。

「飯島さん、頼んだ」
「ok任せなさいよ」
 続いては飯島さん。バトンを受け取り、駆け抜けていく。

「さあ、あなたを抜いて、一位に一気に近づくからね」
「……ごめんね。あなたに悪気は無いけど、私四組に優勝して欲しいから」

 二位を走る女子が、速度を落とすと、飯島さんに軽く当たる妨害行為をしてきた。

「ちょ、ちょっと、なにすんのよ!!」
「私の友達が前走ってる。友達に優勝して貰いたい。それで第二体育祭に出て貰いたいの、三組は負けて欲しい」
「他のクラスじゃなくて自分のクラスを勝たせるようにしなさいよ!!」
「うちのクラスはもう無理。だからせめて友達には勝ってもらいたいって私の気持ちわかって」
「しるか、そんな気持ち!!」

 飯島さんは妨害を受けながら走り、抜けないまま三位で、次の走者の快斗にバトンを渡す。

「ごめん、快斗くん、一位になれなかった」
「いいって、いいって。茜ちゃんお疲れ」

 快斗は飯島さんからバトンを受け取ると、すぐに一人抜き、二位になる。一位になる事は出来なかったが、直ぐそこまで迫った状態で女子のアンカーになる灰村にバトンを渡す。

「灰村さん、俺の全ての気持ちがこもった愛のバトンだ!!これを受け取って、俺と付き合ってくれ!!」
「ウザい、キモい」

 快斗の気持ちのこもったバトンの気持ちは切り捨て、バトンだけ受け取った灰村。アンカーである俺に向かって走ってくる。

「三組のブレーン灰村さん、あなたに負ける訳にはいかない。勝つのは私達四組よ」
「私に勝ってもアンカー対決で負けちゃ意味ないと思うけど」
「私も勝ってアンカーも勝つの!!」
「あっそ……。すでに私に追い付かれてるあなたは私に勝てるのかしらね」
「演出よ!!ライバル同士仲良くはしりましょ」
「はぁ?ライバル?」
「クラスの皆言ってるの、私と灰村さんはライバルなんだって」
「勝手にライバル視するのは結構だけど、私はあなたの事まるで興味ないし、ライバルなんて思ってないよ」

 灰村と四組女子が併走している中、後方から各クラスが迫ってきていた。
「灰村さん、後ろ後ろ!!」
 金田さんは声を上げ、灰村に後ろから迫って来ている事を教える。
 女子最後のメンバーは精鋭揃いなのか、かなり速い。

「飯島さんで一位になって跡野くんで差を付けるって私の思惑通りに行かなかったか……これはもう一つの可能性が起きるわね」

 灰村は後ろをチラッと見た後、俺に視線を向ける。
 何か言いたそうな顔をしているが、分からない。まあ、負けたら許さんって感じかな……。

 灰村は同率一位になり、バトンを俺に渡す。四組意外のクラスとの差もほとんど無くなっていた。

「負けたら、探偵部辞めるから」
 灰村はそう言って俺にバトンを渡す。なんて事言うんだ。灰村に探偵部抜けられたら凄い困る。依頼も減るし、快斗も辞める。快斗も辞めたら伊藤も辞める。そうなったら部員も俺一人になってしまう。これは負けられない。

 灰村からバトンを受け取り走る。
 その頃には全クラスがほぼ横並びになっていた。

「いっけー孝一!!」
「探偵さん!!頑張って下さい!!」
「間宮くーん頑張れー!!」
 雄二から始まり、柳さんに麦野さんまで応援してくれる。

 俺の順位は現在、四位。灰村が一位にしてくれたが、すぐに四位に転落していた。
 さて、どうするか。灰村の情報じゃ、全員運動部。足に自信のある人ばかり。特にライバル四組は陸上部の短距離走の人だ。本来だったら快斗がアンカーを走った方が良いのではと、灰村に言ったが、乱戦になった場合、快斗では不利になる事が起きるかもと言っていた。
 その不利になる可能性とは……。

 前を走るクラスの一人が後ろを走る俺をチラ見する。
 なるほど。そういう事か。こいつら……。
 俺をチラ見した男子は俺が持つバトンに向けて腕を振る。
 快斗では不利になるとはこの事だったんだろう。
 暴力で妨害しようと言うわけだ。
 ってなったら俺の出番。相手の筋肉の動きで、こっちに攻撃しようとしてきたのはすでに分かっていたので、身体を少しずらし、腕を振った男子の手が他のクラスに当たるように仕向ける。
「し、しまった!!」

 上手い事他のクラスに腕が当たり、他のクラスがバトンを落とし、順位を落とす。ついでに腕を振る事しか考えて無かった男子もスピードも落ちていた為、抜く事に成功。一気に二人抜き、現在二位。前を走る四組を追い掛ける。
「ち、役に立たねえな。大体三組!!お前等卑怯なんだよ」
「なにが?]
「相手の弱点調べてよ。灰村さんの犬かてめーら」
「優秀なリーダーに適切なアドバイスを貰っているだけだ。それに卑怯はそっちだ」

 四組アンカー男子は、事前に他のクラスに三組を妨害してくれとお願いしていたのだろう。先ほどの『役に立たねえ』と言う言葉が決定的だ。俺を潰し一位になり、四組の学年一位を狙う。そんな汚い手を使う奴に俺が負けるか。
 四組男子と横並びになり、ゴール前で抜く事に成功し、三組は見事一位でゴールする事が出来た。
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