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トライアは、そんな私の様子を観察しながら話をする。
「あれぇ? 知らなかったのぉ? ってことは、侯爵達は君に黙っていたんだね?」
エレベーターの役目を果たす魔方陣の前で、私とトライアは尚も話を続けた。
話題は、私の元婚約者についてだ。
「どういう、事なの? 元婚約者って……」
「僕が縁談の話を持って来なければ、君はジェイド家の庶子と婚約する事になっていたんだよ。親同士の口約束でね」
「わ、私が? アシルと?」
アシルは……彼は、それを知っていたのだろうか。
「で、でも」
ゲームには、そんな設定は一切出て来なかった。アシルは、私を憎んで破滅させるキャラクターだ。
けれど、入学式の日も今日も、アシルは私に友好的に接してくれていた。いや、それ以前にガーネットにいた頃だって……
動揺し出す私を、トライアが金色の瞳で面白くなさそうに見つめる。
「カミーユ……もしかして君も、彼の事を満更ではないと思っている?」
「そんな事ないよ。私の今の婚約者はトライアでしょう」
「そうだね?え。決まっていた婚約に途中で割り込んだのは僕だけど、カミーユの気持ちはどこにあるのか気になって……君に、僕に対する恋愛感情がないのは知っているから、余計にね」
彼の言う通りだ。私は、婚約者であるトライアに対して恋愛感情は持っていない。
婚約者だから、一緒にいる。ただそれだけだった。
「お気に入りである君を、他人に横取りされるのは気に食わないよ。最近は、更に手放し難くなって来ているというのにさぁ」
まだ隣でブツブツ言っているトライアを横目に、私は、照明の灯りに照らされる廊下を自分の部屋へと向かって歩き出す。
予想通り、トライアも私の後をついて来た。
「今日、ロイス様が何者かに襲われたんだ。それで、騒ぎを聞きつけた私とアシルが羽ペンで空を飛んで直行したの。まあ、ロイス様が自力で敵を倒しちゃってたんだけど……だから、空の散歩じゃないよ?」
「へぇ……そう、良かった。それにしても、あっちはあっちで物騒なんだね。カミーユ、そんな危ない場所に突っ込んで行くなんてダメじゃん?」
「大丈夫だってば。トライアって、意外と心配性なの?」
私がそう言うと、トライアが何故か嫌そうに口を噤んだ。
「……はぁ。そうだね、心配性って僕のキャラじゃないかも」
彼は、困ったような顔で私をまじまじと見つめる。誰かが下で呼んだのか……私を最上階へと運び終えた魔方陣は、ゆっくりと階下へ降りて行った。
廊下には、煌々と光っているランプの灯りが続いている。全て、トパージェリア産のカラフルなランプだ。
「そうだ、トライア。例の薬が完成したよ。魔力回復薬の方なんだけどさ……今日、魔力枯渇状態のロイス様に使ってもらったら」
「え……っ!? カミーユ、まさかガーネット国の王太子で人体実験したの!?」
「ち、違うよ!? ちょうどロイス様が苦しそうだったから、助けようと思って……一応、その前に自分でも少し嘗めてみたし」
しかし、トライアは私の言い訳を聞いていない。肩を震わせて笑っている。
「っくくく……マジで? やっぱり、君、サイコーに面白いねぇ!」
急に笑い出したトライアを不思議に思った私は、背の高い彼を見上げた。それと同時に、私の顔に影が落ちる。
上を向くと、目を細めたトライアが上から私を見下ろしていた。
「本当に、毒気を抜かれてしまうよ」
あ……またキスされそう。
そう思った私は、反射的に目を閉じる。予想通り、直後に温かなものが唇に触れた。
トライアはキス魔だ。私も最近、だんだん慣れて来た。恥ずかしい上に嬉しいわけでもないが、彼は婚約者だしまあいっか……と諦めている。
「ねえ、カミーユ。ガーネットに帰りたい?」
「トライア、今はガーネット国内にいるのに何言ってんの?」
魔法学園は、ガーネット国の王都にある。帰るも何もないではないか。
「そう言う意味じゃなくて……トパージェリアに嫁ぐよりも、ガーネット国内で暮らして行きたいと思う?」
「うーん、どうかな」
確かに、隣国に嫁ぐ際にはそう思っていた。文化も常識も異なる隣国よりも、慣れ親しんだ自国の方が気楽だ。しかも、トライアは王族である。どう転んでも面倒な相手だ。
「最近では、そうでもないかも。トライアが魔法関連のものを色々取り寄せてくれるし、周囲の人達も親切だし」
「そう言ってもらえると、嬉しいねぇ。兄弟喧嘩に巻き込んでしまったのは、申し訳ないけれど……」
「それなんだけどさ、王様は何も言って来ないワケ? 一応、トライアとバシリオ様の父親なのに」
「彼は自分の地位が守られれば良いんだよ。兄弟喧嘩が続いているうちは、矛先が自分に向く事はないと思っている」
それは、酷い話だ。そんなものは、親子とは言えないように思う。
「……バシリオ様は、王様を狙ったりはしないの?」
「しないだろうねぇ。普通に行けば、次の王位は彼に降りて来る筈だから、父と争う理由がない。僕を狙う方が易しいし、都合が良いのさ」
これで話は終わりとでも言うように、トライアが私の手を引いて廊下を歩き出す。
薄闇に照らし出される彼の表情からは、もう何も読み取る事は出来なかった。
「あれぇ? 知らなかったのぉ? ってことは、侯爵達は君に黙っていたんだね?」
エレベーターの役目を果たす魔方陣の前で、私とトライアは尚も話を続けた。
話題は、私の元婚約者についてだ。
「どういう、事なの? 元婚約者って……」
「僕が縁談の話を持って来なければ、君はジェイド家の庶子と婚約する事になっていたんだよ。親同士の口約束でね」
「わ、私が? アシルと?」
アシルは……彼は、それを知っていたのだろうか。
「で、でも」
ゲームには、そんな設定は一切出て来なかった。アシルは、私を憎んで破滅させるキャラクターだ。
けれど、入学式の日も今日も、アシルは私に友好的に接してくれていた。いや、それ以前にガーネットにいた頃だって……
動揺し出す私を、トライアが金色の瞳で面白くなさそうに見つめる。
「カミーユ……もしかして君も、彼の事を満更ではないと思っている?」
「そんな事ないよ。私の今の婚約者はトライアでしょう」
「そうだね?え。決まっていた婚約に途中で割り込んだのは僕だけど、カミーユの気持ちはどこにあるのか気になって……君に、僕に対する恋愛感情がないのは知っているから、余計にね」
彼の言う通りだ。私は、婚約者であるトライアに対して恋愛感情は持っていない。
婚約者だから、一緒にいる。ただそれだけだった。
「お気に入りである君を、他人に横取りされるのは気に食わないよ。最近は、更に手放し難くなって来ているというのにさぁ」
まだ隣でブツブツ言っているトライアを横目に、私は、照明の灯りに照らされる廊下を自分の部屋へと向かって歩き出す。
予想通り、トライアも私の後をついて来た。
「今日、ロイス様が何者かに襲われたんだ。それで、騒ぎを聞きつけた私とアシルが羽ペンで空を飛んで直行したの。まあ、ロイス様が自力で敵を倒しちゃってたんだけど……だから、空の散歩じゃないよ?」
「へぇ……そう、良かった。それにしても、あっちはあっちで物騒なんだね。カミーユ、そんな危ない場所に突っ込んで行くなんてダメじゃん?」
「大丈夫だってば。トライアって、意外と心配性なの?」
私がそう言うと、トライアが何故か嫌そうに口を噤んだ。
「……はぁ。そうだね、心配性って僕のキャラじゃないかも」
彼は、困ったような顔で私をまじまじと見つめる。誰かが下で呼んだのか……私を最上階へと運び終えた魔方陣は、ゆっくりと階下へ降りて行った。
廊下には、煌々と光っているランプの灯りが続いている。全て、トパージェリア産のカラフルなランプだ。
「そうだ、トライア。例の薬が完成したよ。魔力回復薬の方なんだけどさ……今日、魔力枯渇状態のロイス様に使ってもらったら」
「え……っ!? カミーユ、まさかガーネット国の王太子で人体実験したの!?」
「ち、違うよ!? ちょうどロイス様が苦しそうだったから、助けようと思って……一応、その前に自分でも少し嘗めてみたし」
しかし、トライアは私の言い訳を聞いていない。肩を震わせて笑っている。
「っくくく……マジで? やっぱり、君、サイコーに面白いねぇ!」
急に笑い出したトライアを不思議に思った私は、背の高い彼を見上げた。それと同時に、私の顔に影が落ちる。
上を向くと、目を細めたトライアが上から私を見下ろしていた。
「本当に、毒気を抜かれてしまうよ」
あ……またキスされそう。
そう思った私は、反射的に目を閉じる。予想通り、直後に温かなものが唇に触れた。
トライアはキス魔だ。私も最近、だんだん慣れて来た。恥ずかしい上に嬉しいわけでもないが、彼は婚約者だしまあいっか……と諦めている。
「ねえ、カミーユ。ガーネットに帰りたい?」
「トライア、今はガーネット国内にいるのに何言ってんの?」
魔法学園は、ガーネット国の王都にある。帰るも何もないではないか。
「そう言う意味じゃなくて……トパージェリアに嫁ぐよりも、ガーネット国内で暮らして行きたいと思う?」
「うーん、どうかな」
確かに、隣国に嫁ぐ際にはそう思っていた。文化も常識も異なる隣国よりも、慣れ親しんだ自国の方が気楽だ。しかも、トライアは王族である。どう転んでも面倒な相手だ。
「最近では、そうでもないかも。トライアが魔法関連のものを色々取り寄せてくれるし、周囲の人達も親切だし」
「そう言ってもらえると、嬉しいねぇ。兄弟喧嘩に巻き込んでしまったのは、申し訳ないけれど……」
「それなんだけどさ、王様は何も言って来ないワケ? 一応、トライアとバシリオ様の父親なのに」
「彼は自分の地位が守られれば良いんだよ。兄弟喧嘩が続いているうちは、矛先が自分に向く事はないと思っている」
それは、酷い話だ。そんなものは、親子とは言えないように思う。
「……バシリオ様は、王様を狙ったりはしないの?」
「しないだろうねぇ。普通に行けば、次の王位は彼に降りて来る筈だから、父と争う理由がない。僕を狙う方が易しいし、都合が良いのさ」
これで話は終わりとでも言うように、トライアが私の手を引いて廊下を歩き出す。
薄闇に照らし出される彼の表情からは、もう何も読み取る事は出来なかった。
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