三田先輩の克哉くんデータ

豊 幸恵

文字の大きさ
18 / 19

由利と三田

しおりを挟む
「これ、例のリストな。ちゃんと埋めてきたから、必ずデータ送れよ」
 仕事帰りのとあるカフェで待ち合わせ、向かいに座った男は、先日俺が渡したリストを差し出してきた。一頻り目を通して、虚偽らしい記載がないことを確認する。

「了解、データは後でPCの方に送っておくよ。これでまあ、克哉くんのデータコレクションは完成するし」
「これで終わってくれるなら何よりだ。もうS○Xの邪魔されんのはごめんだからな」
 肩を竦めた由利は、そう言いながらも上機嫌だ。

「……随分機嫌良さそうじゃない。克哉くんと何かあった?」
「別に。……ああ、そういや三田に言われた通り、あいつ酔うとめっちゃ可愛かったわ。まあ、酔わなくても可愛いんだけどな」
 俺相手に平気で惚気てくる、由利ってこんな男だったろうか。すっかり克哉くんにめろめろ状態だ。
 大学時代から彼を可愛がっていた俺からすると少々面白くないが、そんな様子を見せればこの男が余計調子に乗って惚気てくるのが分かっているから、俺は一つため息を吐くに止めた。

「まあいいや。ところでさ、俺の部屋にこれ置いてたんだけど、欲しい?」
 話を変えるように座席の横に置いておいた紙袋を持ち上げて、由利に示して見せる。
 男はそれを怪訝そうに見つめた。
「何だよ、それ」
「見ればわかるよ」

 それだけ言って由利の方に差し出す。
 無言で紙袋を受け取った男は、それを膝の上に置いて中身をちらりと確認すると、目を丸くした。
「……もしかして、女装ん時のメイド服?」
「そう。かつらとか下着とか一式入ってるよ。俺が持ってても使わないしさ、由利なら欲しいかなと思って」
「いる」
 即答かよ。俺を変態扱いするけれど、この男だって大概だ。

「でもいいのか? ただでもらっちゃって」
「俺、データ集めるのは趣味だけど、物は煩わしいから持たない主義なんだよね。これだけはいつか克哉くんとイメクラごっこをするために持ってたんだけどさ、しばらく使う予定なくなっちゃったし」
「使う予定なんてしばらくじゃなくて永遠に来ねえわ。……まあ、そういうことならありがたく頂くか」
 機嫌良くそれを自分の物にした由利に、俺は言葉を足した。

「あ、そうそう、データならいくらあってもいいから。もしそれ着せて女装エッチするときはさ、ハメ撮り画像ちょうだい。もちろん克哉くんだけ写ってるやつね」
「はあ!? ふざけんな、そんなの撮ったら堂崎に怒られるに決まってんだろ。つうか、俺だって他人にあいつのエロいとこ見られんの嫌だわ」
「……由利って、克哉くんのことに関しては独占欲強いよねえ」

 全く、お熱いことで。
「撮ってこなきゃ駄目だっていうなら、これ別に要んねえよ」
「俺が持ってても仕方ないって言ったじゃん。返せとは言わないよ。データがあったら嬉しいなって話。俺だって克哉くんの不興を買いたくないもん」
 まあ、先日は生本番の音声も頂いてしまったし、わがままはこの辺にしておこう。

「……ところで、これでお前、堂崎に余計なちょっかい出すのやめるんだよな?」
「んん-? そうだなあ。とりあえず家に押しかけたりS○Xの時間を見計らって電話をするのはやめておくよ。でも、克哉くんと出かけたりはこれからもするから、よろしく」
「ああ? てめえはまだ横恋慕を……」

「だって克哉くんが一緒に出掛けたいって言うんだもん。由利とだと休日もエッチ三昧でどこにも出掛けないらしいじゃん? 俺は克哉くんの好みを知り尽くし、全くそつのないエスコートができる男だからねえ」
 そう告げると、目の前の男はぐっと言葉を詰まらせた。

「俺に盗られたくなかったら、もっと克哉くんのことを考えてやりなよ? 社長さん」
「……うるせぇ、余計なお世話だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...