堂崎くんの由利さんデータ

豊 幸恵

文字の大きさ
8 / 85

由利さんの悩み

しおりを挟む
 何だか最近、由利さんの様子がおかしい。
 今までは週に三日は外で浮気をし、二日は誰かをお持ち帰りぐらいの性生活だったのに、それが半減しているのだ。
 僕としては家でご飯を食べてくれる日が増えるので万々歳ではあるのだが。

「由利さん、何か仕事でうまくいってないの?」
「別に。○△商事の受注も取れたし、順調」
「その割に最近おとなしいよね。もしかして僕の願いが届いて、由利さんの金○片方爆発した?」
「……お前、何願ってんだよ。爆発してたまるか」
 由利さんは眉間にしわを寄せながら、差し出されたご飯を黙々と食べた。

「まあ、浮気が減るのは嬉しいけどさ。体調悪いのかと心配になるじゃない」
「別に。あんまりする気にならないだけ。ほっとけよ」
「何、その覇気の無い塩対応。悩みなら僕がズバッと切ってあげるから、言ってみて」
「……解決じゃなくて切るのかよ」
「問題は他人の力でも解決できるけど、悩みは本人じゃないと解決できないもの。手伝うだけ。僕が由利さんが咀嚼しやすくぶった切ってあげる。多少の痛みは我慢してね」
「お前って時々、結構過激で男前だよなあ……」
 由利さんは呆れたように言って、それから一つ息を吐いた。

「俺が昔捜してた男がいるんだけどよ。それと似た男を見かけたんだよ。すぐ逃げられちまったけど」
「昔捜してた……? それってもしかして、以前言ってた僕と同じくらいチビの、由利さんが罪悪感持ってるって相手? 逃げられたってことは、相手も由利さんのこと分かってたってことか」

「そういうことだろ。確かに目が合ったし……。俺の行き付けの店だったからまた会えないかと思って通ってんだけど、そいつそれ以来来てないみたいなんだ」
 由利さんの行き付け……と言うと、アマンダを含め何件かある。近頃は由利さんがマメに帰ってくるのでご飯の支度をしてて行けてないけれど、今度ママに話を聞きに行こう。

 僕は早速メモを取り出した。
 この相手の情報を知りたいと思っていたから、ちょうどいい。
「相手の名前聞いていい?」
「知らねえ」

「ん? 知らないって……名前? え、ちょっと待って、名前も知らない人に何か悪さしたの? ていうかもしかして、一度会っただけとかの行きずりの人なの?」
「……家は覚えてたから、名前は次に会った時に聞けばいいと思ってたんだよ。本当はその時聞けば良かったんだけど、テンパってて黙ってあいつの家を出てきちまったし。……実際はもっと会うつもりだったんだ。だけど二週間後に行ったらいなくなってて」
 ずっと捜していると言うから、もっとねんごろな仲の人間だと思っていた。まさか名前も知らぬ相手とは。

 ……それにしても由利さんのこの様子。これ、未練たらたらっぽいな。
「由利さん、単刀直入に聞くけど、その人に一目惚れした?」
「一目ぼっ……いや、見た目も可愛いとは思ったが、酒飲みながら話をしてたら意気投合したっつーか……。そ、そういうんじゃねえんだよ」
 僕はこの日この瞬間、初めて狼狽えて赤面する由利さんを見た。
「くううっ、酒か……! 僕にも由利さんと晩酌できるごっつい肝臓があれば……!」
 ギリギリとひとしきりハンカチを噛んでから、僕は深呼吸して悔しさに震える手でボールペンを握り直した。

「……それで、分かってることは何なんですか。見た目とか大体の年齢とか」
「そんなの、悩みの解決に関係な……ん? まさか堂崎、そいつを捜す気?」
「最終的にそうなる気がしますが、とりあえずは由利さんの中の情報をまとめるだけです。身長は僕と同じくらいなんですよね?」
 眼鏡越しにじろりと由利さんを見ると、珍しく気怖じしたようだった。いつもなら浮気したのを罵られたってそんな態度をしないくせに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...