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備品管理局長は眠れない (4)
しおりを挟むピンと尖った猫耳みたいに描かれた部分はツノだという。
形状が本当にこの通りなのかもあやしいが、もふもふした感触でないことだけは確定した。
やわらかい毛並みを連想させる描画も髪ではなく衣装や被り物だったりするのだろうか。
絵から読み取れるルドガーを頭の中で錬成してみてもメインクーン風な生き物にしかならず、ツノを持つ長身美形の姿は思い浮かばない。
茉冬はルドガーについて考えることを早々に放棄した。
『有名人みたいだし、どこかですれ違ったらわかるだろうな』
『参考資料として、オレの絵は渡しておきますね』
自信作なのか、薄い紙に描いた落書きを上司に託すアスベルの度胸に関心する。
歳を取るごとに無くしていくものは大胆さや自信なのだと改めて気付かされる。
今度、自分の絵も描いてもらおうか。
いやいや、この感覚だと良くて子犬か子リスにしかならないのでは?
そんなことを考える茉冬の頭からは、自分がキラキラの美少女に転生したという事実が完全に抜け落ちていた。
回収希望備品リストは、ルドガーからの貴重な情報提供のおかげで完成したようなものだった。
匿名で協力してくれているのだから、本人に会っても声をかけるのは控えた方が賢いだろう。学園のどこに備品管理局を疎んじる輩が潜んでいるのかわからない。彼が不当な目に遭わさせるのだけは、回避しなくては申し訳ない。
けれど、善意のみ受け取って感謝を伝えられないというのも気にかかる。
彼にとっては学園の財産が正当に評価され保管されるというだけで充分かもしれないが、いつか押し付けがましくない形で恩を返せたらと茉冬は思う。
「あの、局長。ここに置かれた備品って元々はどこにあったんでしょう? 経年劣化や使用頻度で状態が違うのはわかりますが、色褪せや破損が酷すぎるものが混じってるんですよね」
上司に意見を求めてくるアスベルが手にした備品は中でも劣化が激しかった。
「戦闘や実技で使う道具がこうなるのはわかります。でも、占術の授業中にしか使わない輝石が濁ったり割れたりしているのって、品質を疑うレベルですね。魔力を注いでも反応も返ってこないというのは……。納品時に不良品判定されて返品が出来ず倉庫に積み上げられていた可能性が高くないですか?」
「購入代金が学園に戻されなかったとしたら、関係した職員の対応を疑うな。後でこの件は調べてみよう」
「不良品だと知りながら購入して、懐を温めたヤツがいないとも限りません」
ため息をついて、透明度の低い輝石を箱へ戻すアスベルの髪は湿り気をおび、額や鼻の上にも汗が浮き出ていた。
「換気する窓がないせいで、動くと暑いな。長い間、声をかけずに悪かった。外での休憩と水分補給をこまめに入れていこう」
「……局長は、ここじゃない世界でどんな仕事をされていたんですか?」
汗をぬぐう仕草でさえ、アスベルがやれば映画のワンシーンのようである。
彼に気を取られず、毎日仕事に集中するのは難しい人間の方が多いだろう。
「俺は、学校の教師をしていた」
「こっちでも学園の職員になるって、なんか不思議な縁ですね」
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