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備品管理局長は眠れない (5)
しおりを挟む「うちは教職一家なんだ。学校や生徒と無縁の仕事だったら、色々と戸惑っていたかもな」
学園内の職務ではあるけれど、世界が違えば色々な常識が通用しないし、知識だって共有ではない。
情報を提供してくれたルドガーには感謝しているが、唯一の部下であり、あらゆる場面でハイスペックぶりを披露するアスベルがいなければ、備品管理局の円滑な業務は成り立っていない。
魔力の澱みに対する耐久力が人並みだったとしても、従順で有能な彼のためななら、茉冬は魔法耐性を分け与える方法がどんなものでも躊躇わずに済む。
休憩と水分補給だけでいいのだろうか。そろそろ部屋にこもる魔力の負荷に疲労が溜まってくるころか?
自分に影響がないため、茉冬には一般的な限界がわからない。
作業時間と人体への魔力堆積の関係は一定ではないと学んだ。
よく見れば顔色も冴えないし、声にも覇気がなくなった気がして、茉冬はアスベルの様子を伺った。
「局長? どうかしたんですか?」
「お前の不調が俺には分かりづらい。キツくなったら、さっさと補給してやるから遠慮なく言ってくれ」
アスベルは目を大きく見開き、その後で肩を震わせて笑う。
「貴方は備品管理局長より、教職の方が向いてますね。局長といると何だか庇護される子供に戻った気分です」
「……お前にとっては不快か?」
真実を答えろと視線を合わせた茉冬に、アスベルはさわやかな笑みを返した。晴天なのに雷光が瞬く。そんな印象を持たせる表情で彼は言う。
「オレの世話を焼きたがるヒトはいくらでもいました。それって一方的で鬱陶しくて、マジでウザったいだけなんですけど、なんでかな……貴方は他と違う」
おいおい、いきなり口説いてないか?
警戒して茉冬が眉を顰める。
舞香の幻想を実現した姿は、茉冬の好みではないが可愛らしく魅力的だと素直に思えた。
中身はどうであれ、可憐な花には愛を捧げずにはいられない。
アスベルも美少女の輝きには屈するただの男だったかと失望していると、完全に誑かすモードに移行していた彼が吹き出すように笑った。
「あー、やっぱりいいですね。オレにめろめろにならないヒトって」
「……人を試して面白がるのはやめてくれ。俺の中身を知っているなら、お前に靡かない理由もわかるだろう?」
「オレのこと、気にしてくれるヒトって女の子ばかりじゃなかったですよ」
美しく整ってるだけでなく、掴み所がなく素っ気ない。こういうタイプが好みなら、冷たくされるのさえご褒美だろう。
「局長は根っからの教員体質だから、学校関係者だと恋愛対象外なのかもしれませんね。興味深いな。今度、外で会いませんか? 貴方の反応が違ったら、オレの推測が正しいってことになりますね」
「お前、今まで誘いを断られたことがないんじゃないか? 若い頃は色んな体験をした方がいい。俺はお前と出かけるつもりはない。ほら、貴重な体験が出来てよかったな」
アスベルは両手で顔を押さえた。ファッション雑誌の表紙を飾れそうなポーズだが、今の茉冬がやって見せた方がハマるだろう。
「どうしよう……。オレ、貴方のことめちゃくちゃ気に入っちゃいました」
「は?」
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