腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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1 悪役転生×錬金術

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「えっとあの、錬金術の本を……」

「錬金術だと!?」

 ぼんやりとした意識の中で、誰かが叫んでいる。

 手に固い物が触れ、一瞬で離れた。

「お前も俺をバカにするのか!!」

 見えたのは、投げ捨てられた本。

 本がワインボトルにあたり、ガラスの割れる音がした。

 目の前にいた少女が、慌ててひれ伏す。

「もっ、もうしわけ――」

「口を開くな!!」

 振り上げた足が、少女の顔面に向かう。

 俺は慌てて、自分の足を止めた。

「……なんだ、これは」

 12歳くらいの少女が、目の前でひれ伏している。

 口から出たのは、少年のような声。

「俺はベッドの上で――」

 小説を読んでいたはず。

 そんな思いとは裏腹に、貴族として生きた記憶もあった。

「……フェドナルンドさま?」

「なんだ?」

「いっ、いえ……」

 フェドナルンド・モラリナスク・フルンデル。

 そんな長い名前の男が、今の俺だ。

 フルンデル伯爵家の次男で、数カ月前に12歳の誕生日を迎えた。

 意気揚々と成人の儀に参加して、

「ハズレスキルの錬金術を与えられたのか」

 今は、工場生産が主流の時代だ。

 自分でポーションを作る人間なんていない。

「だから“ハズレだ” “無能だ”と馬鹿にされて」

 心が荒んでいた。

 双子の兄が優秀な“魔導士”のスキルを与えられ、さらに病む。

 そこに錬金術の本を渡されて、

「ぶちぎれたのか」

 感情のままに本を投げ捨て、前世の記憶が戻った。

 ラノベ好きの日本人としては、そんな状況に思える。

 不意にコンコンコンとノックの音がして、ドアが開けられた。

「フェドナンド様、少々大きな音がしたようですが」

 入ってきたのは、伯爵家の執事。

 父の側近を務める彼は部屋を流し見て、非難の目を俺に向けた。

「状況の説明をしていただけますか?」

――は? 使用人風情がうるせえよ! 黙ってろ!!

 そう言いたくなるフェドナくんの感情を抑え込む。

 伯爵家次男としての立場も考慮しながら、俺は謝罪の言葉を口にした。

「感情で動いた結果だ。気にするな」

 下げそうになる頭を気合で止める。

 貴族らしい行動を心がけ、俺はひれ伏したままの少女に手を差し出した。

「ミルト、ケガないか?」

「……はっ、はい。申し訳ありません」

「いや、無事なら良い」

 シルクのような艶のある髪と、大きな眼鏡。

 フェドナくんの記憶が確かなら、彼女は俺の許嫁だ。

 そんな少女が、失意のフェドナくんに錬金術の本を持ってきた意味。

「ミルトは俺を元気づけようとしてくれた。そうだな?」

「はっ、はい。申し訳ありません……」

 目を合わせることなく肩を狭めて、彼女は自分の服の裾を握った。

 フェドナくんは、このもじもじとした態度が嫌いだったようだ。

「日を改めて、ミルトに似合うものを贈ろう。それで許してもらえないか?」

「……ぇ? ……はっ、はい。ありがとう、ございます……」

 自分の意見は言わず、控えめで、自信のない少女。

 今の俺から見ると、普通に可愛い女の子だ。

 自称ラノベ好きとしては、

『もじもじ眼鏡っ子ヒロインきたぁああああああ!!』

『こんな子を蹴ろうとしたなんて、フェドナくんはマジで死ね!!!!』

『意識の奥底で眠り続けろ、クソ野郎!!!!』

『リア充は 爆破じゃぼげぇえええええええ!!!!!!』

 そう思いながら、俺は執事に目を向ける。

「ミルトがくれた大切な贈り物だ。本の復旧を頼む」

「……かしこまりました」

 てめぇが投げたんだろ? ふざけんなよ?

 とは言わずに、執事は本に手を伸ばした。

「クリーン」

 異世界小説の必須魔法だ。

 本が青い光に包まれ、ワインの染みやガラスが消える。

 腰を曲げて本を取ろうとした執事が、一瞬だけ動きを止めた。

「……なるほど、そういうことでしたか」

 本の表紙。
 視線をうつむかせる少女。

 俺の顔を見て、執事は首を横に振った。

「フェドナンド様、ミルトレイナ様。双方に落ち度があったようですね」

 カッとなった少年と、感情を逆撫でた少女。

 どちらも子供で、精神的に不安定な時期だ。

 だから、喧嘩両成敗。

 そう言いたくなる執事の気持ちもわかる。

 だが、

「ミルトは俺を思ってのことだ。落ち度はない」

 家の格はフェドナくんが上で、暴君気質だ。

 そんな相手を元気付けようと考えて、本を持ち込む。

 立派な大人でも、簡単に出来ることではない。

 要するに、あれだろ? 

 ずっと怒鳴ってる上司に『一緒に頑張りませんか?』って、論文を持って行く感じだろ?

 俺には到底無理だ。

 無謀にも思えるが、俺はその勇気に拍手を送りたい。

「当主様に報告することになりますが?」

「構わない。それだけのことをしたと認識している」

 ミルトは顔を青ざめさせて、胸元をぎゅっと握りしめている。

 表情を和らげた執事が、錬金術の本を渡してくれた。

「たゆまぬ鍛錬を期待しております」

「任せておけ。ミルトの期待に答えるつもりだ」

 将来は間違いなく、可愛い系の美人になる顔立ちの少女だ。

 そんな許嫁と一緒に、錬金術の鍛錬をする。

 わくわくしない理由がない!

「世間の評判など、俺は気にせぬよ」

 大量生産だとか、オワコンだとか、そんなもん知るか!

 ラノベ好きの憧れ、錬・金・術!!!!

「セバス。お前も手伝ってくれるな?」

「私に出来ることであれば」

 頼もしい執事を見ながら、俺は錬金術の本を握りしめる。

 セバスはなせか、ミルトに言葉をかけた。

「ミルトレイナ様は、このお部屋の秘密に気付いておられますね?」

「はっ、はい。まりょく、ですよね?」

 部屋の秘密? 魔力?
 なんだそれは。

 そう思う俺を後目に、セバスが満足そうに頷いていた。
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