腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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5 ホムンクルスの英雄譚

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 脳内の図書館から帰ってきたミルトが、俺に目を向ける。

 自分の得意分野だからか、彼女は普段より堂々として見えた。

「神話や伝承を参考にしました」

 だから、話半分に聞いてほしい。

 そう前置きをして、彼女は俺の目を見る。

「フェドナ様の御出来になる事が増えると、ホムンクルスが強くなるかも知れません」

「出来ることを増やす……、詳しく聞かせてもらえるか?」

「えっと、あの、推測と憶測で、根拠は、あるようでないような。そんな仮説、なんですが……」

 ゆっくりと話してくれたミルト曰く。

 英雄譚のいくつかに、小さな黒い兵という表現が出てくる。

『剣の英雄は、小さな黒い兵と剣を振った』

『弓の英雄は、小さな黒い兵と矢をはなった』

 要約すると、そんな感じだ。

 俺はちらりと、小さくて黒いホムンクルスを見る。

「それらの兵が、ホムンクルスだったのではないか。そういうことか」

「はい。錬金術が衰退してからは、一度も登場していないように思います」

 確かに、面白い仮説だ。

 英雄譚の黒い兵は、英雄と同じ武器しか使わない。

 弓の英雄がピンチでも、黒い兵は誰一人として盾を持たない。

 全員が頑なに、弓だけを握り続ける。

「俺がナイフをまともに振れないから、コイツも出来ない。そういうことか」

「えっと、あの……」

 答え合わせのつもりが、ミルトの視線が下を向く。

 どうやら、意地悪な質問をしてしまったらしい。

 面と向かって、お前は弱い、とは言えないよな。

「気にするな、自分の弱さは自覚している」

 権力を振りかざすだけのクズが、戦闘訓練をしてるわけがない。

 日本人だった俺は、はさみと包丁が使える程度だ。

「はじめて造ったホムンクルスで、魔石も最低ランクだからな」

 だからコイツは、俺が出来ることの数段下のことしか出来ない。

 そう考えると、仮説は正しそうに思える。

「俺が強くなれば、ホムンクルスも強くなる」

 つまりはそういうことだろう。

 まだ仮定の段階だが、手探りで新しい可能性をさぐるよりはずっといい。

 最終的には、

「俺が強くなって分身を大量に作り、この家を制圧すればいいのか」

 無謀で壮大な夢物語だが、希望は見えた。

 そんな俺の言葉を受けて、ミルトが目をそらす。

「そう、ですね……」

「ん?」

 どうにも歯切れが悪い。

 何かを隠している?

 この場で追求した方が良さげか?

 そう悩んでいると、遠くから面倒そうな声がした。

「おやおや、こんな場所にいたのか。私の愛人は」

 振り向いた居たのは、豪華な服を着た高校生くらいの青年。

 俺が何かを考えるより先に、口から声が出た。

「兄貴? 愛人ってどういう――」

「口を慎め、ゴミが」

 伯爵家の長男、腐った兄だ。

 モリアリテル・モラリナスク・フルンデル。

 フェドナくんが権力で威圧するようになったのは、コイツに憧れたから。

 大人に命令する姿が、幼い俺にはかっこよく見えたらしい。

「お前はもう、俺を兄などと呼ぶな」

 権力を持っていて、いつもたくさんの女性メイドを連れ歩く。

 錬金術のスキルを得るまでは優しかった、腐った兄だ。

「ゴミの許嫁のままで良い。たっぷり可愛がってやる」

 にやにやとした顔をミルトに向ける。

 ひぅっ……、と声を漏らしたミルトが、俺の背に隠れた。

「なんだ? 伯爵家の次期当主に逆らう気か?」

 思わずと言った様子で、ミルトが俺の服を触れる。

 そんなミルトを見て、兄が笑った。

「12歳の錬金術師は、護衛にならんな」

「……」

 兄も戦闘スキル持ちではないが、年相応の体格をしている。

 12歳の俺たち2人では、手も足も出ないだろう。

 小学生が高校生と殴り合うようなものだ。

「いやなら逃げてもいいぞ? お前の実家と我が家が滅ぶだけだ」

「……それは、どういう――」

「俺の子飼いが攻める。お前の実家が滅び、連合軍に我が家が負ける。簡単な話だ」

 こいつなら本当にやりかねない。

 そんな評判をミルトも知っているのだろう。

 俺の服から手を離したミルトが、怯えるように身を縮める。

 俺はそんなミルトの手を引いて、背に隠した。

「兄さんに質問するね? いつものメイドさんたちは、どうしていないの?」

 フェドナくんなら絶対にしない、幼い話し方。

 呆気にとられる兄を後目に、俺は実験に使っていた魔石に手をかざす。

「目立ちたくないから、だよな?」

 そう言葉にしながら、すべての魔石に魔力を流していく。

 吐き気、めまい、頭痛。

 ぐっと奥歯を噛みしめながら、霞む視界で兄を見た。

「きさま、それは……」

 大きく見開いた目が、黒くて小さな兵を見つめている。

「俺のホムンクルスだ」

 生み出したホムンクルスに命令を出して、俺の横に並んでもらう。

 ぼやけていて数えられないが、20体はいるはずだ。

 そのうちの1体に、鉄が入ったカゴを持たせた。

「彼女が錬金術を教えてくれたよ」

 鉄に魔力を注ぎ、大量のナイフをつくる。

 表情を引き締める兄を見ながら、ホムンクルス全員に、小さな刃物を持たせた。

「久しぶりに、ケンカするか」

 ふらつく体を、ミルトが後から支えてくれる。

 素早く動いたホムンクルスたちが、兄を取り囲んだ。

「……伯爵家を敵に回すつもりか?」

「なにがあっても、兄さんだけは殺すよ」

 出来る限りの殺気を込めて、俺もナイフを手に取る。

 出来れば、父も殺したい。弟もだ。

「だが、いまは時間切れだな」

 屋敷の中から走りくる執事の姿が見える。

 メイドたちも、兄の行動を見ているだろう。

「……なるほどな。そういう魂胆か」

 振り向いた兄が、忌々しそうに奥歯を噛み締める。

 どうにか無事に、時間を稼げたようだ。

 ここまで大事になれば、兄も自由には動けない。

「セバス。ミルトを家までお送り……」

「――フェドナ様⁉」

 背後から聞こえるミルトの声。

 集まってくるホムンクルスたち。

 その光景を最後に、俺の視界が黒く消えた。
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