落ちこぼれ“占い師”が造る 最強ギルド! ~個性豊かな仲間や年下王女に頼られる“ 立派なギルマス”になってました~

薄味メロン

文字の大きさ
1 / 57

〈1〉はじめて自分を占った

しおりを挟む

 その日、俺は、王都にある冒険者ギルドの中で、100人を越える人々に見られていた。

 俺を見据える彼らは、全員が危険な仕事を請け負う会社の社長。

--通称 ギルマス と呼ばれる立場の人間たちだ。

「長らくお待たせしました。これより、新人冒険者の採用面接をはじめます」

 聞こえて来た司会の声に、会場の雰囲気が引き締まる。

 光が消え、天井に埋められたスポットライトが、俺だけを照らしていた。

 どうやら、最初は俺らしい。

「1人目は、18歳の少年です。彼は馬車で3日かかる王都まで道のりをその足で歩いて来ました。Fランクの魔物を討伐した実績もあります!」

 一度そこで言葉が切れ、「ほぉ」や「おぉ!」などと言った声が聞こえてくる。

「悪くないな」

「ええ。外泊も魔物の討伐も経験済みであれば、使えるかも知れませんね」

「うちで育ててみるか」

「いやいや、おたくには荷が重いでしょ。我々が確保しますよ」

「何を言う。彼にはうちのようなフレッシュなギルドこそ--」

 なにやら、一段と盛り上がっていた。

 実を言うと、長い距離を歩いたのは、馬車に乗る金がなかったから。

 Fランクの魔物スライムを倒したのも、死にたくない一心で振り回した木の棒が、たまたま当たっただけだ。

 でも、ウソは言ってない

 もしかしたら、このまま何処かのギルドに採用されて、俺も冒険者に!!

 なんて思えたのも、束の間のこと、

「--保有スキルは “占い師” 。プロフィールは以上です」

 あれだけ騒がしかった客席の喧騒が、一瞬にして消え去っていた。

 誰かが持つ青いライトが光り、男の声が聞こえてくる。

「すまない。もう一度、保有スキルを教えて貰えないだろうか?」

かしこまりました。1時間前の調査ではありますが、“ 占い師 ” との結果が出ております」

「……そうか、ありがとう」

 俺からは暗闇しか見えないが、会場全体が沈んでいるように見える。

「彼を雇う意思のある方は、お手元の端末に金額を入力してください」

「…………」

 今は、小さな物音すら聞こえなかった。


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


 不作に見舞われた故郷を出て2ヶ月。

 あの悪夢のような採用試験から1ヶ月が過ぎたその日。

 俺は、空腹さえ感じなくなった腹を手で押さえながら、冒険者ギルドに出来た長い列に並んでいた。

「おい、見ろよ。例の“占い師”だぜ」

「へぇ、あれがそうなのか。“占い師”のくせに冒険者に成りたいとか言うバカだろ?」

「ある意味すげぇよな。平民の“占い師”なんて、ゴミ漁りの仕事が限界なのによ」

 ぷははは、と俺を笑う声が聞こえてくるけど、気にするだけの余裕なんてない。

「次の方、どうぞ」

「すまない。どんな仕事でもいい。何か、俺に仕事を……」

 思えば、3日ほど何も食べてない。

 ……いや、4日だったか?

 空腹のせいで、記憶すら曖昧だ。

 金さえもらえるのなら、どんな仕事だってやる。

 だから、俺に何か食えるものを!

「申し訳ありません。冒険者の資格をお持ちでない方への依頼は、今日も来てなくて……」

「……そう、ですか」

 ぷははははは! と、飯に成らない笑い声が、背後から聞こえていた。

 どうやら冒険者ギルドここに、飯はないらしい。

 商業ギルドなら、飯があるだろうか?

「おい、“占い師”。お前、いつ死ぬんだよ? 得意の“占い”で当てて見たらどうだ?」

「おっ、いいねぇ。そう言えば、聞いたことがあるんだけどよ。自分を占ったら死ぬって本当か? ここで占って、確かめてくれよ」

 もしダメだったら、その次は鍛治ギルドに行って、飯を……。

 いや、いっそのこと、無断で森に出るか?

 王都に戻って来れなくなるけど、森なら飯が--

「てめぇ! 無視してんじゃねぇよ!!」

 不意に肩を掴まれた。

 だけど、振り向くだけの気力はない。

 振り向いたとしても、飯は貰えないと思うしな。

「平民の“占い師”が! 死にたいらしいな!!」

 むしろ、このまま振り向かずにいたら、飯が貰えたりしないだろうか?

 殴られるか、剣で斬られるかすれば、慰謝料の代わりに飯が--

「おい、やめとけ。ギルド内じゃ面倒事になるぞ。それにあれだ。そんなヤツの相手なんて、時間の無駄だろ?」

「……ちっ。それもそうだな」

 不意に肩が軽くなって、よろめいた。

 だけど、それだけだ。

 残飯でいい。腐っててもいい。

 俺に、何か食えるものを……。

「雨……?」

 あてもなく歩いているうちに、いつの間にか、外に出ていたらしい。

 大粒のしずくが額に当たって、頬を冷たさが流れ落ちていく。

「水で腹が膨れればいいんだけどな……」

 雨と一緒に、パンでも降らないだろうか?

 そんな思いで水しか落ちて来ない空を見上げて、口を広げる。

「…………黒い、雲」

 そのまま力が抜けて、ぬかるんだ地面に、背中から倒れ込んでいた。

 見えるのは、地獄のような黒い空。

 痛みは感じない。

 それどころか、体の感覚がない。

「飯、を……」

 闇の中をもがくように手を伸ばす。

 指先に触れるのは、腹が膨れない雨ばかり。

「俺に、食い物を……」

 そう願っても、無駄だった。

 動かない体に雨が当たって、地面に流れ落ちていく。

 ただ、それだけだ。

「天国なら、腹いっぱい、食えるかな……」

 そんな淡い期待も頭に浮かんだけど、

 願い続けてもパン1つくれない神がいるような天国だ。

 望みは薄いだろう。

 地獄に飯があるとも思えない。

「なにか、食い物を……」

 漏れる言葉がかすれても、食い物はない。


--そんなとき、


 ふと、天に向かって伸ばす自分の手が、ぼんやりと浮かんで見えた。


「〈運命の神々よ。我の行くしるべを示し給え〉」


 頭に浮かんだ文字が、言葉になって口から漏れていく。


--腹が、熱い。


 マグマのような何かが、腹の中に湧き上がって来る!

「ぐっ……」

 なんだ!?

 何かが俺の胃を広げている!?

 苦しい! 気持ち悪い!!


--死ぬのか?


 俺は、飯も食えないまま、死ぬのか?



「……っはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 そんな思いとは裏腹に、降り注ぐ雨は冷たく。

 遠くを歩く人々の、ガヤガヤとした声が聞こえる。


【南門の前にある小さな宿屋。その裏道でタンポポの花と希望の道を開け(100%)】


 目の前に、金色に輝く文字が浮かんでいた。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...