落ちこぼれ“占い師”が造る 最強ギルド! ~個性豊かな仲間や年下王女に頼られる“ 立派なギルマス”になってました~

薄味メロン

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〈6〉占い師は、希望の道を開く

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「わたくし、不作法にも聞いてしまいましたの。お兄様は、冒険者になりたいのだとか」

 恥ずかしそうにメアリが目を伏せて、謝罪の言葉と共にスカートの裾を摘まんで見せる。

 不作法もなにも、

『冒険者になれない“占い師”』

 だとか、

『冒険者になれなかったクズ』

 なんて、大声で話してたからな。

 それにしても、

「希望の道を開く?」

「はい。お兄様の“占い”で、そのように出たのですよね?」

「うん。そうだけど?」

「わたくしが、お兄様を冒険者にしてさしあげますわ」

「……は?」

 冒険者に、してくれる?

 “占い師”の俺を??

 目の前にいる少女が??

--もしかして!!

「キミは、どこかのギルドのマスターなのかな?」

 だとすれば、納得もいく。

 鎧の人々は、ギルドの登録メンバー。

 メイドは受付嬢で、女騎士はトップランカーなのだろう。

「いえ、違いますよ」

「あっ、そうなんだ」

 違ったらしい。

「ですが、お兄様をギルマスにすることは出来ます」

「ぇ……?」

「大丈夫ですわよね、アンナ?」

「はい。メリア様のお小遣いが残ってますので、お父上に確認する必要もありません」

 お小遣い……?

「お兄様、助けて下さり、誠にありがとうございます。少なくて申し訳ないのですが、こちらをお受け取りください」

 感謝の気持ちです。

 そんなメリアの言葉に続いて、アンナさんが、俺の手に桐の箱を握らせた。

「最後までお付き合い出来れば良いのですが、私が行くと厄介事になりますので。そちらを冒険者ギルドにお持ちください」

「ぇ? あっ、はい……」

 え? どういうこと?

「メリア様、申し訳ございません。もう、お時間が……」

「そうですね。ごめんなさい、お兄様。足りない感謝の気持ちです」

 そんな言葉と共に近付いて来たメリアが、俺の肩に手を乗せて、背伸びをする。

 チュ。

 柔らかな感触が頬に当たり、耳元でそんな音がした。

「なっ……!?」

「めりあさま!?」

「困った事があれば、私を訪ねてください」

 タンポポの髪飾りが抜き取られて、金色の髪がふわりと宙を舞う。

 細い手に握られていた髪飾りが、俺の服のポケットに入れられていた。

「友好の証です……。それではお兄様、また会える日を楽しみにしてますね」

 ふわりと微笑んだメリアが、クルリと背を向けて、細い通路を歩いていく。

「嘘だろ、あのメリア様が!?」

「しっ、失礼致します!」

 ローラとアンナも、その後を慌てた様子で追いかけていった。

 残されたのは、呆然と立ち尽くす俺と、髪飾りと、桐の箱。

「俺が、ギルマスに……?」

 意味不明な言葉と、少女の柔らかい不意打ちが相まって、脳が正常に働いてくれない。

「とりあえず、箱の中を見るか……」

 いろいろあったけど、中身は食い物だよな?

 食い物に違いないよな!?

 お礼は普通、食い物だもんな!

 そんな期待を胸に箱に手を付けて、中を見る。

「……ぇ?」

 チラリと見えた金色の輝きに、俺は慌てて蓋を閉じた。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



「見ろよ。“占い師”のやつ、ずぶ濡れだぜ?」

「ほんとだ~。傘を買うお金すらないのかなぁ~?」

 きゃはは、と笑う声が聞こえるけど、今はそれどころじゃない。

「あ? なんだ、あいつ。腹を押さえながら走ってるぜ?」

「トイレに駆け込む……? って、受付行ったぞ?」

幻夢げんむキノコでも、食ったか?」

 いつも以上に注目されているようだが、本当にそれどころじゃない。

 箱の中にあったのは、どう見ても金貨。

 パンにして、何万個になるのかも分からない金が、服の中にある。

 持っているだけでも冷や汗が流れて、心臓が締め付けられる。

 このままじゃ食えないけど、パン何万個だ!

 だけど、どうしたら食えるのか分からねぇ!

 受付待ちの行列がなくなっていて良かった!!

「あれ? 占い師さん? 数時間前に見えられたばかり--」

「すまない! まずはこれを見てくれないか!!」

 大慌てで机の上に桐箱を置き、蓋に手をかける。

 指先がガタガタと震えて、開いてくれない。

 これが、何万個のパンの威圧なのか!?

 昔襲われた狼の群よりも--

「ストップ!!」

 不意に、細い綺麗な手が、俺の指を押さえつけた。

 俺の動きを邪魔するように、上から押さえつけられる。

「なにを……!?」

「ちょっとだけ落ち着いてください。ね?」

 不意に受付嬢の視線が、俺の背後にそれた。

 ふと、振り向いた先に見えたのは、面白そうに俺の手元を覗き込む大量の視線。

「個室に案内しますので、ついて来てください」

「……あ、あぁ、申し訳ない」

「いえいえ」

 ふわりと微笑んだ彼女が、受付の仕切りを外してくれる。

「こちらにどうぞ」

 ぺこりと背後の視線たちにお辞儀をした彼女が、そのまま俺をギルドの奥へと連れ出してくれた。


 四人掛けのテーブルと椅子だけがある部屋に案内されて、奥の席を勧められる。

 机の上に置いた桐の箱と俺の顔を見比べた受付嬢が、落ち着いた笑みを浮かべていた。

「なにか、すごいお宝でも偶然手に入れましたか?」

「ぇ? なんで……」

「年に1人か2人はおられますから、大慌てで駆け込まれる冒険者さんが」

「……なるほど」

「焦らなくて大丈夫ですよ。ここは安全ですから」

 大きく息を吸って、吐いて……。

 促されるまま深呼吸をして、荒れていた息を整えていく。

 幼い子でも見るような目で見られているうちに、舞い上がっていた自分が馬鹿みたいに思えてきた。

 俺にとっては無縁の物だが、冒険者ギルドであれば、日常で飛び交う物だろう。

「すみません。お宝ではなくて、見慣れた物なのですが……」

 そう前置きをして、桐箱の蓋を開いていく。

 見えてきたのは、金色の硬貨が1枚と、銀色の大きな板が1枚。

 それから、手紙が1枚入っていた。

 ポケットにあったタンポポも、ついでに出した。

「小金貨と大銀貨、それに家名入りの髪飾り……!? これをどこで?」

「南門の近くで殺されそうになっていた少女を助けたお礼に貰いました。これがあればギルマスになれるから、って言われて……」

「!! その手がありましたね!」

 ハッと目を見開いた彼女が、立ち上がって俺の手を握り締めてくれる。

「ギルド設立、並びに、ギルドマスター就任、おめでとうございます! これでやっと、占い師さんにお仕事を紹介出来ます!」

 大きな瞳が、俺を見詰めて輝いていた。
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