1 / 10
プロローグ
出会い
しおりを挟む
アヒルがぐったりと倒れていた。
暇すぎる俺は、その姿を目ざとく見つけた。
修学旅行、初日の夜だった。
宿舎二階、ひとりきりの部屋で俺は賑やかな外を眺めていた。
夕食後、就寝前の自由時間に男子&女子は中庭で、和気藹々&意気揚々。
それに反して、この部屋の照明は薄暗い。
このときの俺は、カッコ良く言えばロンリーウルフだ。悪く言えばきりがない。
きりがないことを考えても仕方ないので、ここはロンリーウルフと仮に結論づける。
ぐるるるる。ちいさく吠えてみた。アイアムア、ロンリーウルフ。
大丈夫だ、いつか様になる。
ウルフらしい威嚇顔のまま眺めた景色の奥に、アヒルがぐったり倒れていた。
ウルフとしては喜ばしい事態だろう。なにせ、隙のある格好の餌食を見つけたのだから。
けれども俺の食指は働かない。
なぜなら、俺は本当のところは人間で、ロンリーウルフではないのだから。ただのロンリーである。一分前に出した仮説は、はやくも覆された。
しかし一体、なぜアヒルが。
気になったので俺はわざわざ中庭まで下りて確認に行った。
賑わう男女から離れた茂みの陰でアヒルは目をつむり、横たわっていた。
指でくちばしを突いてみる。とくに反応はない。
手のひらで触れてみる。温もりはあるので、まだ生きているのかも。
痩せこけているので、栄養失調かもしれない。もしや水分もとれず、暑さにやられたのかも。
俺は両手でアヒルを抱えると、近くの水道へと向かった。
少しずつアヒルを水で冷やしながら、なぜ俺はこんなことをしているのだろう、と困惑もした。
K等部二年の夏といえば、恋や友情ど真ん中ではないか。ましてや沖縄への修学旅行初日となれば、青春一番星じゃなかろうか。
実際、キラキラ輝く青春のお戯れが、そんな男と女の軽妙なやり取り、笑い声が遠くに聞こえる。
ああ、俺にはまぶしすぎる。
自らとった行動に困惑しても仕方がない。なぜアヒルに水をかけているのか。答えは至極単純だ。
暇なのだ。
ロンリーは手持ちぶさただ。
さて、そんなことよりこいつは大丈夫だろうかと意識をアヒルに戻したところで、
ポンッ
と目の前で、軽い破裂音がなった。それと同時に、アヒルを覆い隠すようにモワモワと煙が立ち込めたのだった。
なにが起こったんだ、なんて考える間もなく、真ん前に不思議な光景が現れた。
アヒルの姿が消え、それに代わるように、女が立っていたのだ。
ただの女ではない。
人間にはおよそ見られない、全身オレンジ色に染まった肌をしている。カールがかったショートボブの頭には、帽子のようにして巨大なハイビスカスが「咲いて」いて、耳は獣のようで、尻には尻尾も生えている。
整った目鼻立ちをしていて顔だけを見れば美しい女性なのだが、体全体に目をやれば、その姿は異形なものだ。
なんじゃ、こいつ。
彼女はあごに手をやりながら、俺をじっと見つめていた。奇妙な女だ。そして見た目に違わず、ヘンテコなことを口にしだした。
「やーが助けてくれたば」
やー、とは沖縄方言で君とかお前とか、つまりは「you」を表す言葉だ。ちなみに「Ī」は「わー」である。テレビで沖縄出身の芸人が言っていた。
ともかく彼女は「お前が助けてくれたのか」と聞いているのだ。
は……?
助けた……?
「水さえ口にできんくてよ、干からびてたからさ。生き返ったやっさ。ありがとな」
俺が助けたのはこんなキテレツな格好の女ではなく、アヒルである。
彼女の言葉をまっすぐに解釈すれば、つまりはこの女こそ、俺が助けたアヒルということになる。なってしまう。
アヒルが消えた途端、彼女が現れたという事実からも彼女=アヒルという等式は、成り立つのである。
……はあ?
いや、そんなバカな。
戸惑う俺をよそに彼女はさらなる、混迷を極める発言を重ねてきた。
「ごめんだけどわー、やーのこと殺さんといけんさ」
頭をかきながら、しれっとそんなことを言い出すのであった。
暇すぎる俺は、その姿を目ざとく見つけた。
修学旅行、初日の夜だった。
宿舎二階、ひとりきりの部屋で俺は賑やかな外を眺めていた。
夕食後、就寝前の自由時間に男子&女子は中庭で、和気藹々&意気揚々。
それに反して、この部屋の照明は薄暗い。
このときの俺は、カッコ良く言えばロンリーウルフだ。悪く言えばきりがない。
きりがないことを考えても仕方ないので、ここはロンリーウルフと仮に結論づける。
ぐるるるる。ちいさく吠えてみた。アイアムア、ロンリーウルフ。
大丈夫だ、いつか様になる。
ウルフらしい威嚇顔のまま眺めた景色の奥に、アヒルがぐったり倒れていた。
ウルフとしては喜ばしい事態だろう。なにせ、隙のある格好の餌食を見つけたのだから。
けれども俺の食指は働かない。
なぜなら、俺は本当のところは人間で、ロンリーウルフではないのだから。ただのロンリーである。一分前に出した仮説は、はやくも覆された。
しかし一体、なぜアヒルが。
気になったので俺はわざわざ中庭まで下りて確認に行った。
賑わう男女から離れた茂みの陰でアヒルは目をつむり、横たわっていた。
指でくちばしを突いてみる。とくに反応はない。
手のひらで触れてみる。温もりはあるので、まだ生きているのかも。
痩せこけているので、栄養失調かもしれない。もしや水分もとれず、暑さにやられたのかも。
俺は両手でアヒルを抱えると、近くの水道へと向かった。
少しずつアヒルを水で冷やしながら、なぜ俺はこんなことをしているのだろう、と困惑もした。
K等部二年の夏といえば、恋や友情ど真ん中ではないか。ましてや沖縄への修学旅行初日となれば、青春一番星じゃなかろうか。
実際、キラキラ輝く青春のお戯れが、そんな男と女の軽妙なやり取り、笑い声が遠くに聞こえる。
ああ、俺にはまぶしすぎる。
自らとった行動に困惑しても仕方がない。なぜアヒルに水をかけているのか。答えは至極単純だ。
暇なのだ。
ロンリーは手持ちぶさただ。
さて、そんなことよりこいつは大丈夫だろうかと意識をアヒルに戻したところで、
ポンッ
と目の前で、軽い破裂音がなった。それと同時に、アヒルを覆い隠すようにモワモワと煙が立ち込めたのだった。
なにが起こったんだ、なんて考える間もなく、真ん前に不思議な光景が現れた。
アヒルの姿が消え、それに代わるように、女が立っていたのだ。
ただの女ではない。
人間にはおよそ見られない、全身オレンジ色に染まった肌をしている。カールがかったショートボブの頭には、帽子のようにして巨大なハイビスカスが「咲いて」いて、耳は獣のようで、尻には尻尾も生えている。
整った目鼻立ちをしていて顔だけを見れば美しい女性なのだが、体全体に目をやれば、その姿は異形なものだ。
なんじゃ、こいつ。
彼女はあごに手をやりながら、俺をじっと見つめていた。奇妙な女だ。そして見た目に違わず、ヘンテコなことを口にしだした。
「やーが助けてくれたば」
やー、とは沖縄方言で君とかお前とか、つまりは「you」を表す言葉だ。ちなみに「Ī」は「わー」である。テレビで沖縄出身の芸人が言っていた。
ともかく彼女は「お前が助けてくれたのか」と聞いているのだ。
は……?
助けた……?
「水さえ口にできんくてよ、干からびてたからさ。生き返ったやっさ。ありがとな」
俺が助けたのはこんなキテレツな格好の女ではなく、アヒルである。
彼女の言葉をまっすぐに解釈すれば、つまりはこの女こそ、俺が助けたアヒルということになる。なってしまう。
アヒルが消えた途端、彼女が現れたという事実からも彼女=アヒルという等式は、成り立つのである。
……はあ?
いや、そんなバカな。
戸惑う俺をよそに彼女はさらなる、混迷を極める発言を重ねてきた。
「ごめんだけどわー、やーのこと殺さんといけんさ」
頭をかきながら、しれっとそんなことを言い出すのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる